スペシャリストに聞く!最新不動産事情 2023
不動産関連記事のよくあるキャッチコピーに「持ち家 vs 賃貸」というものがある。生涯を通じてファイナンシャル的にどちらが得か、という議論だがオーストラリアにおいて賃貸のアドバンテージはほぼない。ポスト・コロナ、更新時にレントが週100ドル上がるなどもざら。今こそ不動産購入をと考えている人も多いだろう。本特集では専門家、物件購入者の声をお届けする。 (構成:編集部)
協力:グローバル・インテリジェンス・マネジメント、日豪プロパティソリューションズ、律コンベイヤンシング (敬称略。文中順に、GIM、NPS、RC、と略称)
「不動産特集」を組むに当たり、専門業者3社と、実際に物件購入・運用をしている方々数名へのメール・インタビューを敢行した。本記事はそれを客観的、体系的にまとめるものだ。編集部としての見解は最小限に留めるが、冒頭で1点お伝えしておきたいのは、本記事はマイホーム購入、不動産購入の実現に向けての「一般論」であり「導入」に過ぎないということ。個々の事情に応じた「答え」は、各自がそれぞれ一歩を踏み出し、「当事者」として手繰り寄せていくしか方法はない。ぜひしかるべき専門家とタッグを組み、不動産購入を成功に導いて欲しい。
豪州不動産動向、今後どうなる!?
「本年の最も顕著な傾向は、やはり『賃貸不足』による家賃の値上がり。コロナ禍前に比べ、物件価格が上がり、シティー・カウンシルへの支払いなども増えていることから、今年から来年に掛けての家賃の上昇は避けにくい」
GIM代表の鶴氏はそう話す。実際、人口も増えつつあり空室率も低い現状、現在、平均77ドル(週あたり)ほど家賃が値上がりしているという。そしてこう続ける。
「しばらく需要があるため家賃が下がる理由がない」
また、NPS代表の豊田氏も「RBA政策金利上昇と建築資材価格上昇に伴う住宅開発コスト高騰による供給面の課題と、流入する移民の数が急増していることによる強い需要による住宅不足が今後、数年間続く」と話す。政府は賃貸専用住宅(Build To Rent)の開発や住宅取得支援策の充実などの手を打ってはいるものの、「根本的な課題の解決には至らないのでは。その結果住宅価格は中長期的には上昇していく」と考えているそうだ。
ただし、販売市場は、都市と各地域によって状況が全く異なると鶴氏は言う。
「活況なのはゴールドコースト。一般家賃も空室率が空前の0.3%のため、どうしても家賃と価格が上昇しがちです。メルボルンはまだ市場は冷え切っていますし、シドニーなど上がりすぎた場所は下がるか横ばいが続きそう。ブリスベンも同様です。ただし、メルボルンは人口面で最大都市になったので今後の需要増で変わる可能性があります」
アデレードを拠点に不動産登記業務を行うRCの立脇氏は同都市に関してこうコメントする。
「アデレードの4月の物件価格は0.41%上昇し、中央値は65万1,000ドルと高値を更新しました(P ropTr ack 調べ)。アデレードは居住地域があまり外に広がらない傾向がある都市ですが、それでも開発の波はじわりとCBDから外に広がっているような気配を感じます。複合ビルはCBDのものだと思っていたアデレードも近い将来違った景色になるのではないでしょうか。また、現地不動産エージェントは、価格の上昇は引き続きあるものの、これまでのような急激な上昇とはならないと予想しています」
豪州への不動産投資はなぜ手堅い?
オーストラリアへの投資が「手堅い」というのは投資家の間で共通認識であろうが、では、豪州不動産投資の特徴、投資のポイントはどこにあるのだろうか。
「豪州不動産投資の強みは以下5点。(1)移民政策を基盤とした長期安定的な人口増による堅調な住宅不動産需要が見込めること、(2)人口増による経済成長が見込めること、(3)不動産に関する情報がインターネットなどを通じて豊富かつ比較的簡単に入手できること、(4)取り引きにおける手続きに透明性があること、(5)政治的に安定していること」とNPS豊田氏。
また、GIM鶴氏は「オーナーの権利を守るための仕組みの法律が整っているなど、法的保護がその理由の第一でしょう」とコメント。その他、週毎の支払いで確実な家賃確保。年に2回内覧が可能で写真などのレポートが受けられる点、民族的なバックグラウンドが欠点にならないマルチカルチャーな雰囲気などを強調する。
一方で、税制など購入の際の注意点もある。例えば非居住者の場合、「外国投資審議会への申請費用が掛かる、不動産取得税が掛かる(州により7~8%、キャンベラはなし)、キャピタルゲイン税のディスカウントが適用されない(12カ月間保有すると課税対象が50%割引)」(NPS)などといった条件がある。とはいえ、「豪州政府の海外投資家に対する登録などは、国際的には極めて公平だと思います」と鶴氏。「日本は海外投資家に対しての規制が豪州のようにはないのですが、それでは海外勢に国土を買われてしまう恐れがありますから」(GIM)
また、州ごとに異なる法律には気を付けなければならない。例えば、立脇氏が登記を行う南オーストラリア州では契約締結日から物件の責任は購入者に移動するという。
「契約後、クーリングオフ期間が終了して鍵を受け取るまでに少なくとも3週間は掛かるかと思いますが、その間に、例えば火災が起こって物件が燃えてしまったとか、盗難、破損などの被害にあってしまった場合も全て購入者の責任になります。そのため、契約書に署名をしたらすぐに “Building Insurance”に加入する必要があります。まだ自分の家ではないのにおかしな感じがしますが、そういう法律になっているので注意が必要です」(RC)
若い世代ほど早く家を買った方が良い
「1960年ごろから60年近くにわたり、ほぼ右肩上がりで上昇してきた不動産価格を鑑みると、オーストラリア市場は今後も人口増とインフラ充実を背景に長期安定して上昇していくと思います。不動産投資においては、時間と資金の2つのレバレッジを活用することが有効ですが、特に時間においては、若い時に頑張って購入し、長期で不動産を保有することで金額的に大きな利益を得ることが可能になるのはもちろん、信用力やファイナンスの活用の面で有利となり、人生における選択肢が増えます」と豊田氏は若いうちに資産を持っておくことのメリットをそう説明する。
鶴氏もまた「高い賃貸家賃を無駄に労費するよりは、自身の資産確保を考えて将来豊かになることを選ぶ方が賢明。若い層、特に扶養する家族がいない場合には、まぎれもないチャンスでしょう」と話す。更に「シングルマザーには夫の代わりの不労収入の確保で人気がありますし、ご夫婦でもお子様が小さく2人がフルタイムで働くことは難しい際に家賃収入で補われているという人も多い」という。
「ご夫婦2人分の収入でフルタイム平均の8~9万ドルの収入があれば、そのローンのキャパシティはミリオンを超えるケースもあります。本来『買える』のに、『富裕層ビジネスだから自分は関係ない』と思わないことですね」(GIM)
不動産購入のきっかけ、情報収集
ここからは実際に物件を購入し、成功を収めている方々の意見を掲載していく。何が不動産購入のきっかけとなったのか、情報収集をどのように行ったのか、何を購入したのかなど、具体的な体験談をお伝えしていこう。
「不動産購入を考えたのは40代に入ってから。自営業なので、資産を持っていた方が国や銀行からの信頼を得やすいと聞いていたのがきっかけで、知人の紹介で、モーゲージ・ブローカーや不動産に特化した会計士に相談しました。最終的に、自身の居住地であり、住むこともできる、そしてメンテナンスの便などを考えてシドニーに物件を購入しました」
(Kさん、50代女性、会社経営)
「会社員なので、何か副業はできないかと考え、40代前半のころに不動産投資に目をつけました。豪州不動産会社の勉強会やセミナーに参 加したり、自分自身でも“Certificate IV in Realestate NSW”を受講するなど、情報のインプットには力を入れました。過去には、ゴールドコースト、シドニー、メルボルンで物件を購入し、現在はいくつか売却しています。複数土地で購入はしているものの、やはり土地勘がある都市を選びましたね」
(Mさん、50代男性、会社員)
「資産を持ちたいと考えたのがきっかで、地元のエージェントから情報を得て、主人の実家が近いシドニーに物件を購入しました」
(Nさん、40代女性、主婦)
「2010 年、3 3 歳の時にシドニーに移住したのですが、40歳までに“Financial Freedom”を得ることを目標にしました。所有1日目から“Positive Cashflow”であることを条件に絞り、適切な商業用物件をディベロッパーから直接購入しました。人生で初めて購入した1軒目(シドニーのリテール・ショップ)と2軒目(メルボルンのオフィス・物件)は商業用不動産で、これらのインカムゲインと仕事の収入で得た預金により5年間程度で頭金を用意し、3軒目は自宅(シドニーの3BRアパート)を購入しました。3年間住んだ後に郊外に一軒家を購入した際、3BRアパートを投資物件に転換。その後2年に約1軒のペースで物件を購入し、13年間で計7軒の不動産を購入。不動産評価額トータルは10億ドルを超えるポートフォリオに成長しています。情報収集に関しては、まず不動産投資関連の本を10冊程度読了。そのうち半分以上はオーストラリア人による不動産投資に関する本でした。次にエリアに精通したローカルの不動産エージェントと積極的に会い関係を構築しました。ある程度信頼と人間関係が構築できれば彼らが薦める物件を内見することでこちらの状況と希望をよく理解した上での選定が可能となります。最終的に自社で抱える物件のみを売ろうとする不動産セミナーやエージェントのイベントには一切参加しませんでした。投資利益の上がる物件は無理にセールスをしなくても必然的に売れるのが原則ですから」
(Sさん、40代男性、会社経営、投資家)
得られたメリット、購入検討者へのアドバイス
大きな買い物には当然大きなリスクも伴う。だからこそ、信用できる意見やパートナーとの関係構築のみならず、自身がしっかりと知識を蓄える必要があるだろう。もちろんそのためには自身の時間を費やすわけだが、当然得られるメリットも大きい。最後に、実際に得られたメリットなど体験談と共に、アドバイスを紹介していこう。
「資産を持っていることで、銀行のキャンペーン時などに銀行からお得な提案などを受けることも多くなりました。また、車購入時に審査が簡単におりるなど得られるメリットは大きいと思っています。早いうちに手が届きやすい所から投資として購入し、ステップアップしていく次の物件を見ていくと良いと思います。個人事業主であれば、家賃収入がなくともネガティブ・ギアリングをうまく使い、税対策を行えるので損はないかと思います」(Kさん、50代女性、会社経営)
「不動産投資をしたことで、余計な無駄遣いをしなくなったということは言えると思います。オーストラリアでの不動産投資は、たとえレンタル収入よりローンなどの支出の方が大きい場合でも、ネガティブ・ギアリングとして、タックス控除できるので精神的に健全でいられます。また、ローン口座とリンクして、オフセット口座を開設し、そちらに貯金することで、ローン利子を少なくすることもできます」(Mさん、50 代男性、会社員)
「資産を持っていることで次の投資へとつなげることができます。地元、日本人向け、いろいろなエージェントからたくさんの情報が発信されています。常にアンテナを張って情報を積極的に集めてみてください」
(Nさん、40代女性、主婦)
「物価・地価上昇が激しく、かつ安定的な経済成長を遂げるオーストラリアに永住する者として、不動産を購入しないという選択肢はそもそもなかったし、インカムゲインとキャピタルゲインに適した不動産両方のポートフォリオを持つことで、過去13年間、財務的に安定成長を遂げることができたと考えています。インカムゲインでは収入が安定し、キャピタルゲインでは資産が増えるため、時が経つごとに生活が豊かになりました。コロナ渦中で最も利益が出た投資は豪州の不動産でした。
不動産投資を検討される場合、まずはご自身の知識を深めた上で、ローンを含め購入できる範囲内で1つ目の不動産をなるべく若年の際に獲得することが重要だと思います。これをせず『いつかはきっと』という思いで待つと、大半の人が仕事から得られる収入よりも早いスピードで物件の価格が上がるオーストラリアの不動産市場に入れなくなります。人に頼るのではなく自分の努力で知見を得ることは基本です」
(Sさん、40代男性、会社経営、投資家)
次ページより、本誌がお勧めする不動産関連業者の紹介記事をお届けする。ぜひ参考にして頂ければ幸いだ。
■グローバル・インテリジェンス・マネジメント
Web: www.gimanagement.com.au
■日豪プロパティソリューションズ
Web: www.ngps.com.au
■律コンベイヤンシング
Web: www.tatewaki.net/jpn