今回から3回にわたって、ブリスベン宝石細工クラブ主催の石探し遠征に参戦してNSW州北中部にあるグレン・イネス(Glen Innes)周辺を攻めた時のことを書く。
グラフトン(Grafton)の西、タムワース(Tamworth)の北、テンターフィールド(Tenterfield)の南に位置するこの町とその周辺は、NSW州の“宝石ヶ原”ジェムフィールド(Gemfield)と言われ、ゴールド、ダイヤモンド、エメラルド、サファイア、トパーズなどの多種多様な宝石が採掘できる場所が数多くあることで知られている。特にグレン・イネスは1890年代、ゴールドとサファイアを探すために海外から多くの出稼ぎ労働者がやって来てにぎわった町。その名残か、町の中心部の裁判所の前には高さ80センチほどの立派な水晶のオブジェ、市庁舎には石のコレクションが展示されていて「いざ、石探しへ!」という気分を高揚させてくれる。
朝、町を歩きながら、集合場所で参加者が来るのを待つ間、NSW州での石探しに必要なライセンスをオンラインでさくっと取得して、準備完了。さて、出発時間になり気が付くと、今回は車10台の大所帯だ。南東に20分ほどドライブして到着する目的地での今回最初のねらいは、サファイア。この地域には、グレート・ディバイディング山脈(大分水嶺山脈)から流れ出る小川が無数にあり、サファイアが採れるポイントがあちこちにあるのだ。
ポプラと柳が美しい田舎道を進み、本日最初のポイントに到着すると、各々、道路脇に駐車してから荷物を背負って小川へと向かった。川幅は狭く3~5メートルほどで、深さも膝ぐらいまで。川底は砂地であり、その砂をシャベルですくってふるいに掛けるウェット・シービング(Wet Sieving)という方法で獲物をねらう。
今回の遠征のコーディネーターによるデモンストレーションの後、いざ、サファイア探しを開始。適当に川底の砂をさらって、ふるいに掛けてみたら、なんと小ぶりだがファセット・カットができるくらい透明な黄水晶(シトリン)と、すごく小さなサファイアの欠片が。これは「幸先良いな、期待できるかも」とシャベルを持つ手に力が入るが、そうは問屋が卸さない……。午前中はこれがハイライト。仲間も似たような小さな欠片のサファイアを見つけるくらいで収穫は乏しく、そのままその場でサンドウィッチでのランチとなった。
ランチで腹ごなしをしてからの午後は、更に南下し、大物に出合うチャンスをうかがうことに。本日2カ所目のポイントに到着すると、そこには先客がいた。若い地元の人のようなので、さっそく調子を聞いてみると「大物は出ていないけど、小さいのならそこそこ採れているよ」との返答。地元の人が探すポイントだけに期待が高まる。
午前中とは違い川底は砂地ではなく砕けた花崗岩の砂利だ。川底にある大きめの岩の周りの砂利をシャベルですくい、ふるいに掛ける。30分、1時間、全く何も出てこない……。同行の仲間たちも何も見つけられず、どんどん表情が曇り始めて1人、また1人とあきらめて車に戻っていく。中には、拠点のキャンプ場に帰り始める人も。
2時間ほど探したが、成果はゼロ。まぁ、砂利が大きめだったので、もしサファイアを見つけていたら大騒ぎするくらいの大物が見つかるポイントだったので仕方ない。「残念だけど、良い夢、見させてもらったよ」と、あえなく帰り支度となった。
グレン・イネスの市街地のスーパーマーケットで晩御飯の買い出しをしてから、30キロほど北にあるディープウォーター(Deepwater)にあるキャンプ場を目指す。今回の拠点となったこのキャンプ場は仲間の私有地なので、だだっ広い敷地に各々が好きな場所にテントを張り、キャラバンを停めることができた。
僕もお気に入りのスワッグ(オーストラリア発祥の小型テント)を張ってから晩御飯の支度にかかった。あっという間に日が暮れ、キャンプ・ファイヤーの周りで、仲間たちが弾くギターをBGMに肉を焼き、ビールを流し込む。朝からのドライブと石探しで1日中酷使した体にビールが染み渡る。ほろ酔い気分でスワッグに入り、星空を眺めつつ、明日の幸運を祈りながら静かに目を閉じた。(この稿、続く)
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子はYouTube(https://www.youtube.com/@gdaytomio/featured)やインスタグラム(@gdaytomio https://instagram.com/leisure_hunter_tomio)に詳しい。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)