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リゾート再生の請負人が語るこれからのインバウンドと日本の地方観光の魅力─対談 星野佳路 X 作野善教

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【第22回】最先端ビジネス対談

 日系のクロス・カルチャー·マーケティング会社doq®の創業者として数々のビジネス・シーンで活躍、日豪プレスのチェア・パーソンも務める作野善教が、日豪関係のキー・パーソンとビジネスをテーマに対談を行う本連載。今回は、「リゾート再生の請負人」との異名を持つ、星野リゾート代表・星野佳路氏にご登場願った。
(撮影:クラークさと子)

PROFILE

星野佳路(ほしのよしはる)
慶應義塾大学卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院へ。1991年星野温泉(現・星野リゾート)社長に就任。運営特化戦略を取り入れ、山梨県のリゾナーレ、福島県のアルツ磐梯、北海道のトマムを再建、2005年「星のや軽井沢」開業。以後、「星のや」「界」、「リゾナーレ」、「OMO」、「BEB」のブランドを中心に、59のホテル運営を行う。「リゾート再生の請負人」としてメディアにも多数出演

PROFILE

作野善教(さくのよしのり)
doq®創業者・グループ·マネージング・ディレクター。米国広告代理店レオバーネットでAPAC及び欧米市場での経験を経て、2009年にdoq®を設立。NSW大学AGSMでMBA、Hyper Island SingaporeでDigital Media Managementの修士号を取得。移民創業者を称える「エスニック·ビジネスアワード」ファイナリスト、2021年NSW州エキスポート・アワード・クリエティブ産業部門最優秀企業賞を獲得


作野:日本もオーストラリア同様、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきました。現在の訪日市場状況を星野さんの観点からお話して頂けますか。

星野:訪日外国人数が3000万人を超えていた2019年と比較すると、回復傾向にありますが、完全には回復できていません。コロナ禍での変化が少し戻りを遅くしていると考えられますね。中国からの訪日客がまだ戻ってきていないことに加え、ヨーロッパ方面から日本に渡航する際、飛行機がロシアの上空を飛べないため飛行時間が長くなっていることや、その分の燃料代がプラスされて渡航費が上がり訪日しにくいなど、さまざまな事情が重なっています。また、便を確保するために大切な要素となる日本人のアウトバウンドの数は、現在円安の影響で落ちています。

作野:なるほど。アウトバウンドが戻らないと本来の便数にならないということですね。

星野:はい。各地方は国内観光はもちろんインバウンドにおいても、一生懸命観光の需要を戻そうとしています。2019年までの10年間、インバウンドの訪日観光客数はすさまじく伸びました。しかし日本の観光地の状態が良かったのかというとそうとも言えず、数は伸びた一方で副作用も多かったと言えます。例えば、京都のオーバー・ツーリズムの問題などが挙げられます。私は2004年、小泉純一郎元首相主宰の観光立国推進戦略会議に参加しました。その会議の目的でもありますが、観光にとってとても重要なことは地方観光の活性化であると考えています。

作野:観光立国実現のための施策ですね。

オーバー・ツーリズムを回避しインバウンドを分散させることが重要

星野:2019年に訪日外国人数が3188万人になりましたが、実際には東京・京都・大阪を含め、トップ5の都道府県で全体のインバウンド宿泊の65%を占めており、トップ10で80%でした。その他の37県で15%を分け合い、最下位3県は高知・福井・山口で、3県を合わせて1%にも満たない状況でした。

作野:訪日旅行客数に格差が生まれていたのですね。

星野:インバウンド観光の2019年の状況は、2004年の観光立国推進戦略会議で目指した姿とかけ離れています。需要が一部の地域に集中し、東京・大阪・京都ではオーバー・ツーリズムと言われています。

作野:なるほど。目標総数を追いかけることに集中しすぎるがゆえにいびつな形で訪日外国人数が伸びてしまい、数字が伸びた所はオーバー・ツーリズムと言われているわけですね。

星野:私が提唱しているステークホルダー・ツーリズムは、コロナ禍以前の姿に戻そうとするのではなく、2019年の問題を認識して、それらを解決しながらインバウンドを戻していこうという考え方です。地方自治体や各地の観光産業は2019年の状態に戻すことを目標にしていますが、本来は一部の地域に集中していたインバウンドを分散させることに本気で取り組んでいくことが、その先の目標を達成していく上でとても大切なことなのだと思います。

作野:そういう意味では、オーストラリア人旅行者は恰好のターゲット層ですよね。コロナ禍前の2019年は、オーストラリアから年間約60万人程の観光客が日本を訪れており、約半分がリピーターです。つまり大都市にはすでに行っている人たちが約半分ということになります。そして、彼らのインサイトとして、知的好奇心や冒険心が非常に高いFITトラベラー、つまり団体旅行ではなく、個人で冒険する人たちがほとんどで9割を占めます。

星野:オーストラリアの夏休みである1月から2月は、日本国内の旅行需要が落ち込む時期にぴったり合っています。日本国内の観光需要は、日本人による国内観光が全体の85%で、インバウンドは15%程度です。85%の日本人がどう動くかということが重要なのですが、日本の観光の閑散期は1~2月です。そこにちょうどオーストラリアからスキーヤーが東京・大阪・京都ではなく雪山を訪れます。国内市場のピークを避けて日本の地方に来てくれるという観点で言うと、オーストラリア人の夏休みスキー旅行は本当にありがたい市場です。

ワイナリーや国立公園など訪れるべき日本の地方の魅力

作野:スキーを目的に日本を訪れるオーストラリア人は多いですが、そうでない人もたくさんいらっしゃいます。地方を楽しみたいと思った時に、星野さんならどのような所をお勧めしますか。

星野:私は、オーストラリア人が興味を持ってくれるのはワインだと思います。日本の地方のワインはかなりレベルが上がっており、各地でワイナリーや小さなクラフトワインのメーカーが増えてきています。そういう旅行を志向する人たちがいて、ワイナリー巡りで山梨や長野などを周る方々がいると認識し始めました。

作野:オーストラリア人にとってワインは日常生活に欠かせないものです。ディナーの席や社交の場で常に存在するアイテムなので、ワインに魅了されるのは非常に分かりやすいと思います。日本の地方だと酒蔵も多くありますが、お酒で地方の魅力を感じて頂くこともできますよね。

星野:そうですね。おそらく酒蔵はお連れすると魅力を感じてもらえますが、やはり飲みなれているせいですかね、ワインの方が評価しやすいのだと思います。なじみがあるというところがワイナリー人気の1つの理由なのかもしれないですね。私たちはもう少し日本らしさを押し出したいという考えがありますが、受けが良いのはやはりワインの方ですね。

作野:日本でワイナリーを楽しもうとすると、どの辺りのエリアがお勧めですか?

星野:日本のワイン作りは、山梨の甲府で始まりました。それが現在、北部に広がり、長野でもワイン・メーカーが増えました。東北や北海道にも広まっています。巨大ワイン農家があるというより、小規模で作っている人が多いのが特徴です。

作野:小規模な専門店(boutique)として、エクスクルーシブ(exclusive)に運営しているワイナリーでは貴重な体験ができますものね。

星野:例えば、フランスの人口は6000万人で8000万人がインバウンドです。観光客がボルドーなどの地域に観光に行きワインを飲み、それがフランス・ワインを世界的に有名にしました。観光とワインの輸出というのはかなりリンクしているのです。ファンになりリピート・ドリンカーになります。ですから、日本のワインや日本酒は、観光の際ただ来てもらって飲むものだけでなく、ブランドを知ってもらい、オーストラリアに帰った後も輸出できるような、そういう観光とのコラボレーションに持ち込めると良いなと思います。

作野:オーストラリアやニュージーランドでワイナリーをしている日本人もいるようです。そういったワインを通した日豪間の交流をこれからもっと進めることができるかもしれませんね。

星野:そうですね。日本の現在の農産物の輸出や製品の輸出で観光と相性が良い物の1つはワインと言えます。ファンになってもらえれば輸出し続けられるという点は、地方がねらっていくべき大きなポイントだと思います。

作野:日本のワイナリーが発展していくと、オーストラリアの労働者の課題も出てくると思います。例えばワーキング・ホリデーでオーストラリアに来た日本人がワイナリーでピッキングをすると、そのワイナリーで働いた経験を日本に持ち帰り、日本のワイナリーを発展させるという習慣も作れるということも考えられますね。

星野:そうですね。そういう意味では醸造家の数は劇的に増えています。現在そういう雑誌までできて盛り上がっていますね。

作野:そうなのですね。では最後にオーストラリア人の訪日旅行者に、星野さんからメッセージやアドバイスを頂けますか。

星野:やはり初めて日本に行く時に東京、京都、大阪は外せないでしょう。二度目、三度目の際にはゴールデン・ルートでない場所にいらして頂きたいと思っています。そこにはもちろん雪、スキー、スノーボード関係の場所はまだたくさんあります。有名な所だとニセコや白馬、トマムにも相当いらして頂いていますが、それ以外にもたくさんすばらしい場所があります。例えば、現在私が日本で一生懸命提唱している34のナショナル・パークです。「国立公園満喫プロジェクト」として、日本政府も力を入れ始めていますが、これはインバウンドの方々に日本の34の国立公園に訪れてもらうことを目的としたプロジェクトです。その中の8つの国立公園をモデルケースとして、先進事例を作ろうと環境省、地方自治体、そして観光事業者が協力して取り組んでいます。国立公園のウェブサイトができあがり、英語でもご覧頂けるので、東京・京都・大阪以外のすてきな場所を探すことができるのではないでしょうか。

作野:オーストラリア人の訪日旅行者から見ると、日本は1つの島国というふうに見られがちですが、その中には何十個の違う方言と、何十個も異なる風土、料理、文化がある。オーストラリアの方々には、ぜひその1つの日本だけでなく、何十個もある違う文化を何十回も体験し、楽しんで頂きたいですよね。

星野:そうですね。違う文化でいうと際立って違うのは沖縄かもしれないですね。沖縄は琉球文化を持ち、言葉まで違います。オーストラリアの人たちは、日本に来ても沖縄に興味を持たない傾向にありましたが、最近は少しずつ増え始めています。どうしたら日本の地方の独自文化に興味を持ってもらえるかを我々も考えていかなければならないと思います。

作野:ありがとうございます。

(7月12日、シドニー市内で)

jSnow 2023/34 特集(英語記事)


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