リーが残した大きなレガシー
今回も、前回担当したコラム(第27回)に続いて、偉大なるリーの業績をトリビュートしたいと思います。
彼のすごいところはいろいろありますが、ダンサー専業の僕から見ても本当にすごいと思うのは、リーがプロのバレエ・ダンサーであると同時に、金融ブローカーとして生計を立て、その世界でも成功していたことです。
現役バリバリの時に腰を痛めたリーは、体が動くうちにしかできないダンサーのキャリアを終えてからの将来のことを考え、金融の勉強を始めました。彼は、そこでも持ち前の情熱と努力で、すぐに証券ブローカーとして成功。ある時期には、朝から夕方までバレエのリハーサルをして、その後に出勤するという二足の草鞋(わらじ)を履く生活をしていました。1日中体を動かして振り付けを覚え、疲労が溜まる中でブローカーとして夜まで働くというのは、普通の人の想像を遥かに超えるほど心身共にタフでなければできません。
引退後、ブローカーを専業として新しい生活を送っていたリーの元に1本の電話がかかってきました。QLDバレエ団(QB)からの芸術監督就任への打診の電話でした。そのオファーを1度は断ったリーでしたが、妻のメアリーにも説得されて打診を受諾。晴れてQBの芸術監督に就任しました。
その後の活躍ぶりは多くの人が知る通りです。リーは、与えられたポジションでQBの発展のためにあらゆる努力を惜しみませんでした。世界的に有名なダンサーをゲストに招へいしたり、世界的な規模の大きなバレエ団でしかできないような大掛かりな作品の公演を実現させたり、QBを豪州有数のバレエ団に成長させることに情熱を傾けてきました。そんな彼の一番の功績は、QBの新しいホームである「Thomas Dixon Centre」の大規模改装を実現させたことでしょう。
QBでのさまざまな功績が称えられ、国に功績のあった人びとに与えられる称号でも上位の「Officer of Order(AO)」を受け、最近ではブリスベン市への顕著な貢献を讃えられ、「Keys of the City of Brisbane」の表彰も受けました。ブリスベンやQLD州はもちろん、豪州国内外で尊敬を集め、バレエのみならず豪州の芸術全体にも大きく貢献してきた偉大なリー。彼と長く一緒に仕事ができたことは、僕のダンサー人生で最大の光栄です。
これからも、QBはリーが残したレガシーを更に育てていきますので、引き続き応援をよろしくお願いします。
このコラムの著者
岩本弘平/QLDバレエ団シニア・ソリスト
兵庫県伊丹市出身。11歳からバレエを始め、18歳でメルボルンのオーストラリアン・バレエ・スクールに入学。その後、ロイヤルNZバレエ団を経て、2018年にQLDバレエ団に移籍。趣味はウクレレ、スポーツ観戦、睡眠、日本のお笑い。祖母の手作り水餃子の味を懐かしみながら、大好きなウィスキーのグラスを傾ける。