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プロ・ダンサーが感じるプレッシャーとストレス/QLDバレエ団 合々香と弘平のグランパドトゥ 第31回

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『Passchendaele』という作品で、男性が力強く踊っている場面(Royal NewZealand Ballet, Photo: Ellie Richards)

 プロのダンサーである以上、舞台上で最高のパフォーマンスを求められるのは当然で、その期待に応えることができてお客様から拍手を頂くのは、僕たちダンサーにとって至高の瞬間です。 

 皆さんも日々の暮らしの中で、さまざまなストレスや重圧を感じることがあると思います。僕たちダンサーも、プロとして日々、さまざまなストレスやプレッシャーに直面しています。特に、ソロを踊るとなると、全ての目線が自分に集まり、失敗すれば誰の目にもすぐに明らかになるので、舞台で失敗してしまった自分を責めることはよくあることです。

 その他にも、一生懸命に努力をしていてもなかなか良い役がもらえないフラストレーション、いろいろな意味合いでの他のダンサーからの視線、終わりのない完璧さの追求、けがなど、自分の体と向き合いながらの葛藤など、ダンサーがさらされるストレスの種類もさまざまです。

 もちろん、人によってストレスの感じ方は違いますが、みんなそれぞれそういった何かを日々感じながら踊っているはずです。それと同時にプロのバレエ・ダンサーには、そういったさまざまなプレッシャーやストレスを自分の中でコントロールしていくというスキルも求められます。

 僕は、ダンサー仲間と「所詮はバレエ。人の命を扱う仕事でもなければ、世界を救う大義などないからリラックスして」と軽く言い合うことで、何かあっても自分をそこまで追い詰めなくてもいいよと慰め合ってきました。確かにその意味するところは間違いではありませんし、実際、そんな言葉に救われたこともありました。

 それでも、僕はその言葉をもう言わないようにと自分自身に誓いを立てました。なぜなら、僕にとってバレエとは、この世で掛け替えのないものであり、劇場に足を運んで頂いた大勢の人との一期一会の機会に精一杯の自分をお見せする大事な機会です。1つひとつの舞台に全身全霊を込めることで、この目まぐるしい世の中でバレエにしか創り出し得ない特別な世界を皆様に心から楽しんで頂きたい──。バレエはそんなすばらしい空間を生み出せるすばらしい芸術だと僕は信じています。

 最後になりましたが、今年も皆様に「合々香と弘平のグランパドドゥ」を楽しく読んで頂けるよう頑張りますので、何卒引き続きよろしくお願いします。

 今年も、皆様にとってすばらしい年になりますように。

このコラムの著者

岩本弘平/QLDバレエ団シニア・ソリスト

兵庫県伊丹市出身。11歳からバレエを始め、18歳でメルボルンのオーストラリアン・バレエ・スクールに入学。その後、ロイヤルNZバレエ団を経て、2018年にQLDバレエ団に移籍。趣味はウクレレ、スポーツ観戦、睡眠、日本のお笑い。祖母の手作り水餃子の味を懐かしみながら、大好きなウィスキーのグラスを傾ける。

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