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プロ格闘家・佐藤雄介─空手から始まり、異国の地でプロのMMAファイターが誕生!
プロ・デビュー戦の臨場感ある舞台裏に迫る

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自信に満ちあふれた表情で堂々とインタビューを受ける新星


 佐藤雄介は打撃を得意とするストライカー、それもそのはず、兄の影響で5歳から22歳まで17年間、伝統派空手道を歩んできた。その後、社会人を経て米国MMAの実態がいかなるものかを自分の目で確かめたいという野心から3カ月間の渡米を敢行。やはり本場のMMAは衝撃的だったという。それは彼の直感に刺激として刻まれ、一番過酷だと言われる総合格闘技、簡潔に言えば、何でもありなMMAという新たな道を必然的に選んでいた。そして現在、格闘家としてオーストラリアのゴールドコーストで2年半を過ごしてきた。

(文・写真=加倉井靖典)

リングに上がる前の重要な難関、体重測量


翌日の対戦に意気込む両選手、準備万端の仕上がりを披露


 私自身、雄介と出会ってまだ日が浅いのだが、話の流れから「スパーリング撮影をやるか?」という言葉をきっかけに、彼を撮るようになった。サバサバとした性格と時折見せる優しい笑顔、彼の魅力はそこにあるのだろう。
大会前日の11月28日、この日は体重測量日だったのだが、彼の誕生日でもあり、26歳を迎えた。無論その測量をきっちりとクリアし、最後の食事から12時間後にやっと口にした水、正に命の水だったのではないだろうか。中には、この体重制限をオーバーし、勝負そのものが頓挫するという不名誉な結果を起こす者もいる。だからこそ、相手に対し必ずリングに沈めてやるという強い気持ちを持ちながら、深いリスペクトの意もある。試合を受け入れ、この日のために体を調整し、仕上げてきたのだから。
この試合は雄介にとってプロ転身後のデビュー戦となる大きな1戦、掲げるものはただ1つ、必勝のみ。

諸々のスケジュールをこなし、翌日の夕方、会場で待ち合わせる段取りをしてその場を後にした。


目の前に立つ敵、しかし本当に勝たねばならない相手は自分

礼に始まり、礼に終わる武士道の精神。侍魂がそこに見える

 試合当日、会場は午後6時に開き、入場パスを受け取った多くの観客が続々と入場。6時半のファースト・ファイトに備えていた。
私は、先にセキュリティー・スタッフや選手たちとあいさつを交わした。でかい体とゴツい手の平は、いかにもファイターだなと確信させられた。その後すぐに、バックステージの選手控え室、とは言えスパーリングができる大きさの部屋へ行き、撮影のセッティングに取り掛かった。間もなくすると、そこに雄介が現れた。若干の緊張なのか、それともまた違う何かなのか。私は、何となくだが、すぐに声を掛けるのを控えた。彼は、バックを置き少し経つと、私の居る所までゆっくりと歩いて来た。そして、互いにハンズタップをサラリと交わし、「よし、いよいよスタートだ」と言わんばかりの表情を見せた。もちろん、この日を迎えるまでには幾多の血生臭い努力が実ったからこそ得られたもの。このプロ・デビュー戦の舞台では、勝つか負けるか、2つに1つしかない。選手たちが、それぞれの思いでその場に立っている。


 
雄介は、静かにマットに正座し、壁一面の鏡に映る自分と向き合った。この時、何を思い、何を考えていたのだろうか?


これまでやってきた練習の成果を爆発させる


キック、パンチ、そして寝技など多くの状況下を想定する

 試合観戦ができるモニターは控え室にも設置されており、同所属ジム選手たちのファイトを見ることもできた。そして、ファースト・ファイトが始まった。それまでにあった緊迫とは違う、また別のピリッとした空気感が立ち上がった。その部屋はセンターがパーテションで仕切られ、赤コーナーと青コーナーの選手陣に分かれていた。いすに座り前屈みの状態で精神統一をする者、ヘッドフォンで音楽を聞きながら自分の世界に入り込んでいる者、シャドーでイメージを掻き立てている者、あちこちでミッド打ちの激しいぶつかり音が鳴り響く。


静寂と喧騒、一喜一憂の感情の中、精神を統一

選手とコーチの信頼関係が伝わる独特な時間が流れていく


 雄介が所属するジム(CMBT)のスタッフやコーチ陣の雰囲気の良さを感じる。なぜなら彼らは、鋭く真剣な眼差しだけでなく、所々に選手やスタッフ同士の心をほぐすような軽やかな笑いのあるコミュニケーションを楽しんでいるからだ。正に頼れるコーチであるマイルズ、彼にテーピングをゆだね、緩さやキツさを調節しながら巻いていく。いよいよ間近になってきた自らのヒートを感じているのだろうか、その時、言葉はほとんど交わしてはいないようだった。グローブを拳にセットし、ウォーミングアップを開始する。打ち込みから寝技、そこから次第にロウ(Low)からミドル(Midle)へ、更にハイ(High)へとパワーのギアをシフトしていく。息づかいも荒々しさを増していく。


自身でつかみ取り、そこに用意されたプロ・デビュー戦のステージ!

沸き上がった会場、割れんばかりの大歓声の渦を歩く戦士


 「10分前だ、準備を」と、スタッフからの声掛けで、雄介とセコンドたちは入場口へと向かい、大音量の音楽と華やかな照明の中、キャット・ウォークをゆっくりと歩き、リングへと向かった。雄介の入場と共に、日本人をはじめ多くのサポーターたちからの応援の叫びが会場内に響き渡った。

いざ、勝負の時!女神は誰に微笑むのだろうか?

この後、振り上げられた右膝蹴りが会場全体を揺り動かす


 リングに上がったその熱い魂は、冷静さもありながら、闘志でみなぎっていた。ゴングと共に抑えていたパワーを両者が放出するのだ。打撃を得意とする雄介、様子を伺いながら間合いを取っていたその瞬間、左膝から右ストレート、その後左ストレートと右ストレートに次いで左膝、相手選手の後ろ首を両手でホールドしながら足払いで相手の体制を崩し、バランスが崩れたところにすかさず振り上げた右膝が顔面へクリーン・ヒット。この流れるコンビネーションに相手選手(リアム・ブリュスター)はそのまま前方へと砕け落ちた。

それは、試合開始後ものの30秒ほどのドラマだったであろうか、相手をしばらく動けない状態にまでリングに沈め込んだのだ。「ウォォーッ!」と会場の観客は歓喜の声と共に両手を高らかに振り上げ、一気に立ち上がった。そう、会場内は最高潮の盛り上がりとなったのだ。一瞬、体の中から震えが込み上げて来るような、そんな感覚に襲われた。プロ・デビュー戦の大舞台、右膝蹴りでKO勝利。それは、「佐藤雄介というMMAファイターここにあり」とセンセーショナルなインパクトを焼き付けた。




今年3月にもMMAの試合を控えている佐藤雄介。
新たな光が今、オーストラリア・ゴールドコーストで輝き始めている。

 あなたは今、何と向き合い、何と戦っていますか?


Q&A
Q1. ETERNAL MMAとはどのような団体?
A. AUSで一番大きな団体。日本で言えば、RIZINがこれに当たります。ETERNAL(興行名)は、ナンバーシリーズと呼ばれ、年間ゴールドコースト4試合、シドニー4試合、パース4試合、メルボルン4試合で3ヶ月毎に行われる格闘技マッチ。そのひとつETERNAL 90が開催されました。

Q2. デビュー戦を前にした時、気持ちは?
A. ETERNAL MMAで4戦(3勝1敗)をこなしており、プロ転身したからどうだという特別なものはなく平常心、むしろ楽しんでこの試合に臨めました。本来の自分そのものを出し切るのみだという思いでした。そして、自分は勝てるという自信があったんです。それは、これまでの練習で、己の実力が向上していることを実感していたし、この勝負は絶対に勝てると思っていたからです。

Q3. いざ戦いを終えての感想は?
A. リングに上がった瞬間、全てがしっかりと見えていた感じがします。大歓声とリング上に集まった煌々とした照明、そして、入り口のフェンスを閉められた瞬間、相手と闘うしかない状況。今回、その状況すら楽しめて、相手の顔や全てがくっきりと見えていたんです。「さ、試合をやるぞ、楽しむぞ」という感情、イイ気持ちで満たされていました。自分自身のキャリアの中で、初KO勝利、しかも30秒という早さ。自分自身にも驚きがあり、「おい、やったな、お前!やっと幕開けじゃん」という感覚が自分の中に起きました。

Q4. 今後、そして次戦に向けてのイメージや展望は?
A. 既にネクストファイトが2025年3月15日に決定しています。次戦も半端ないKO、分かりやすい勝ち方で会場を盛り上げる。それが勝つことの次に大事なことだと思っています。先ず、オーストラリアでのチャンピオンが目標、更には2025年末の大晦日、RIZINの舞台をねらっています。オーストラリアからの殴り込み、逆輸入ファイトを実現したいですね。そして見ている先は、世界トップの団体UFCのファイターになることです。

佐藤雄介◎1998年11月28日生まれ(26歳)。熊本出身。ゴールドコースト在住
「CMBT Training Centre」所属。

ライター

加倉井靖典
サーフィン雑誌「SURF1st」の編集ライターを経てフリーになり「Blue.」や「Surfing Life」、女性誌などを手掛けてきた。現在ゴールドコーストに在住しバーテンダーをしながら、写真と編集で瞬間を切り撮り、それを発信し続けている。

Instagram : @yasukaku @grandfphotography

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