前十字靭帯断裂の大けがに見舞われた“不惑”のフットボーラーの復活への道/日豪フットボール新時代 第165回

SHARE

1度は引退の考えもちらついたが、復帰の道を歩み出した今は笑顔も見せるように(Photo:本人提供)

 筆者のSNSのタイムラインは、仕事柄、フットボール関連の投稿で埋め尽くされている。ある日、知人の投稿に目が留まった。筆者もよく知るベテラン・フットボーラーが試合中に前十字靭帯を断裂、その手術費用を捻出するためクラウドファンディングを始めたという。

 そのフットボーラーの名は田中景子(39/グレイズヴィル・レイブンズ)。豪州で活躍する日系女子フットボーラーのレジェンド的存在で、SBS日本語放送などのメディアにも登場する日系フットボール界隈では知られた顔だ。5月で40歳になる年齢ながらNSW州トップ・リーグであるNPL1で現役を続ける彼女が、試合中に大けがを負った。

 手術をしても復帰まで全治8カ月という大けがに「正直、“引退”も頭に浮かんだ」という田中は、自らの動画サイトで包み隠さぬ思いを吐露した。年齢的なハンデもあり、元のコンディションに戻れる保証はない。引退か、復帰か──その葛藤の深さは想像に難くない。

 「仲間からのメッセージに背中を押され導かれ、もう1度ピッチに立ちたいという気持ちが強くなった」。心強い仲間の後押しが、傷心の田中を復帰へと突き動かした。

 復帰のためには、手術を伴う治療とリハビリが不可欠。永住者なので待てばメディケアを使い、豪州国内で手術を受けることは可能だが、40歳という年齢でいつになるか分からない手術を待つ時間的余裕はない。1日でも早く復帰するならば、日本での手術しか選択肢はなかった。

 ここで問題となるのが資金だ。セミプロの彼女は、プレーをしなければ給与や報酬が発生しない。そこで、批判や心ない声が上がることも覚悟の上で、前述のクラウドファンディングという手段を選んだ。

 しかし、それがどうだ。開設後わずかひと晩で当面の目標額を達成した。本人も驚きを隠さないが、これもまた彼女の周囲の人びとが「Keikoの力になりたい」と能動的に動いた結果。7年に及ぶ豪州滞在期間で愛されてきたすばらしい人柄が為せる業だろう。

 辛く長いリハビリの道のりは、まだ始まったばかりだ。復帰への強い思いとクラウドファンディングによる金銭的支援を得て、人びとの善意と愛情に支えられながら、1歩ずつ復帰への道を踏み締めていく。

 「今回の経験や復帰の過程を共有していくことで、自分自身も成長しながら、誰かに少しでも勇気を届けられたらうれしい」。そんなリハビリ期間の新たなモチベーションも得た。

 四十にして惑わず──。「より強くなって再びピッチに立つ」という思いにブレはない。そんな田中景子の“不惑”の挑戦を心から応援したい。

筆者注
クラウドファンディングは以下のリンクより(当面の目標額は達成したが、今後、継続的に掛かってくる費用を更に募るため、期限の5月2日までは寄付が可能となっている)
https://www.gofundme.com/f/back-to-the-pitch-my-journey-at-40

植松久隆(タカ植松)

ブリスベン在住のライター/コラムニスト。日豪フットボール関係を軸に、現地視点で競技の背景と熱量を描く。スタジアムとコミュニティーを往復する観測者。日豪プレス以外にも、日本のメディアで執筆。妻はオージー、2児の父





SHARE
フットボールの最新記事
関連記事一覧
Google Adsense