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【新年恒例特集】回顧と展望2020 / 連邦政局、日豪ビジネス

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回顧と展望2020

連邦政局

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー

松本直樹

プロフィル◎慶応義塾大学商学部卒業後、会社勤務を経て、1987年オーストラリア国立大学国際関係学科修士課程修了。同大学豪日研究センター博士課程中退。92年5月から95年7月まで、在豪日本国大使館専門調査員(豪州内政を担当)。95年8月から97年1月まで、オーストラリア防衛大学国防研究センター客員研究員。96年8月より政治コンサルタント業務を開始。専門領域は豪州政治、日豪関係、安全保障問題など。2014年日本国外務大臣賞受賞

モリソン政府への圧力が高まる年に

2019年の政治ハイライトは、大方の予想を裏切ってモリソン与党保守連合政権が再選を果たした、大番狂わせの連邦選挙であった。

与党が敗北すると考えられたのも当然で、というのも、16年7月の連邦選挙以降の数多くの各種世論調査では、一貫して野党労働党がリードを続けていたからだ。驚天動地の結果となった背景、要因の中でもとりわけ重要なのは、「庶民派」宰相モリソンの見事な選挙キャンペーン・パフォーマンスであった。19年選挙勝利の立役者がモリソンであったのは間違いない。

もう1つ重要な要因であったのが、ショーテン率いる野党労働党の、野心的な経済政策への国民の恐れと、政権担当能力を誇示することを狙って、そういった政策を前面に掲げて選挙キャンペーンを戦った、野党のいわゆる「大きな標的戦略」(Large Target Strategy)の失敗であった。しかも、野党の野心的政策を国民に拒絶させる、他の要因が存在したことにも留意すべきであろう。

具体的には、第1に、経済の将来にやや不透明感はあったものの、当時の経済はかなり堅調であり、そのため依然として保守連合は経済運営能力が高いと見なされていたこと、第2に、野党の経済政策に的を絞った、与党のネガティブ・キャンペーンが効果を上げたこと、第3に、同キャンペーンを奏効させた、経済政策分野での「労働党の負の実績」、そして第4に、「野党政策が気に食わないのであれば、野党に投票しなければいい」という、ボーウェン影の財務大臣の傲岸不遜(ごうがんふそん)な姿勢への国民の反発、などであった。

いずれにせよ、予想外の勝利を導いたことで、モリソンは権威を一挙に高め、それに応じて「トップ・ダウン型」の強力なリーダーシップを発揮しつつある。他方で、「負けるはずがない」とまで言われた選挙で敗北を喫した野党労働党は、まさに茫然自失の体で、選挙から半年以上が経過した現時点でも、ショックから完全に立ち直ったとは言い難い。2回連続して敗北したショーテン野党党首は、選挙直後にリーダーを辞任し、そして後任の党首には党内左派で、「草の根党員」の間では人気のあるアルバニーゼが就任している。

さて、こうして迎える2020年だが、見事な勝利を収めたばかりとは言え、モリソン保守政府も安穏(あんのん)としているわけにはいかない。その理由は、今後産業界、ビジネス界を中心にして、モリソン政府に対し、各種経済改革を断行すべし、との圧力が高まるのは確実だからだ。上述したように、19年選挙では、自信過剰気味であったショーテン野党の「大きな標的戦略」が野党の重大敗因となったものの、同時に与党保守連合の「小さな標的戦略」への強い批判も惹起(じゃっき)されることとなった。と言うのも、与党は昨年4月に公表した連邦予算案の中に盛り込み済みと釈明していたものの、実のところ19年予算案には、個人所得税の減税第3段階/ステップを除き、経済改革、構造改革と呼べるような重要施策は含まれていなかったからだ。

確かに、野党の経済政策への攻撃、ネガティブ・キャンペーンに依存した与党の選挙戦略は効果を上げたものの、19年選挙を通じて、保守連合には経済改革の「青写真」がない、あるいはモリソン保守政府には将来の重要アジェンダがない、ビジョンがないことが露呈されてしまったと言える。そのため、モリソン政府に対し、持続的経済成長を保証するため、あるいは国家財政を健全化するため、可及的速やかにミクロ経済改革、構造改革のロードマップ/行程表を策定し、改革を断行すべきとの要求が高まりつつあるのだ。

そもそもモリソンは、改革志向のリーダーと見なされてきた政治家ではない。しかしながらモリソンにとり、「何もしない政府」というパーセプション、イメージが醸成されるのは極めて危険である。

一方、アルバニーゼ野党だが、今年の末には労働党全国党大会の開催が予定されている。自由党や国民党の党大会に比べ、党議拘束力の強い労働党大会は極めて重要である。そのため年明け早々より、各派閥、派閥実力者、さらには労働組合の幹部は、自分たちの主張や政策路線を党のプラットフォーム/綱領に盛り込むべく、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論、根回し、派閥間闘争を展開することとなる。そしてこういったプロセスを通じ、アルバニーゼの党内支持基盤の強さ、あるいは指導力といった点が明らかになるし、また判断、評価されることともなる。アルバニーゼにとっても今年は正念場である。

日豪ビジネス

日本貿易振興機構(ジェトロ)
シドニー事務所長

高原正樹

プロフィル◎1989年新潟大学法学部卒・ジェトロ入構。青森事務所、ニューヨーク事務所、上海事務所、ヤンゴン事務所などを経て、2019年6月から現職。中堅・中小企業の海外進出支援、対日直接投資の促進、日本産農林水産物・食品の輸出促進、調査・情報発信などに取り組む。

日豪ビジネス関係は盤石、さらなる緊密化に期待

日豪ビジネス関係は、日本企業の旺盛な投資、CPTPPの発効などを背景に、更なる緊密化が進展している。鈍化傾向はあるものの、オーストラリアの超長期の経済成長を追い風として、2020年の日豪ビジネス関係は更に深みを増していくものと予想される。

オーストラリアの対内直接投資残高を見ると、日本は米国に次ぐ2位に位置する。分野では引き続き鉱業部門(54.2%)が大きなシェアを占めるが、近年は食料品、金融・保険、卸・小売などが増加傾向にある。19年の最も大きな話題は、7月にアサヒグループホールディングズが豪ビール最大手のカールトン&ユナイテッド・ブリュワリー(CUB)の買収で合意したと発表したことだろう。

CUBはオーストラリアで5割弱のシェアを有し、買収額は約1兆2,000億円に達する。また、日本ペイントホールディングズは8月、オーストラリアの塗料大手のデュラックスグループを約3,000億円で買収した他、日本製紙は10月、豪パッケージ大手のオーロラの板紙パッケージ部門を約1,200億円で買収することを発表している。

オーストラリアは基本的に外国企業による投資を歓迎し、特に日本企業への信頼度は高い。豪市場は一部の寡占企業と数多の中小企業で形成されているのが特徴だが、シェアトップの企業であっても買収するチャンスはあり、日本企業の豪大手企業の買収による市場参入はまだまだ続くと思われる。

オーストラリア経済を見ると、19年7~9月の実質GDP成長率は前年同期比1.7%となり、前期に比して若干の回復を見せた。オーストラリアは113四半期(28年)連続で景気後退のない世界最長記録を更新しているものの、GDP成長率は09年以来、約10年ぶりの低水準にある。IMFが19年10月に発表した経済見通しでは、19年が1.7%、20年が2.3%と豪中央銀行の見通しを大きく下回った。IMFの19年の世界経済成長率の予測は3.0%と金融危機直後の09年以来の低い伸び率であり、貿易障壁や地政学的な緊張の高まり、先進国の生産性の低下などによる世界的景気減速が指摘されている。景気の先行き懸念により豪経済成長の更なる鈍化が懸念される。

オーストラリアの人口は、移民や自然増によって3年で約100万人増加している。人口増の7割がシドニー、メルボルン、ブリスベンの3都市で生じるなど、一部都市に集中することから、連邦・州政府ともに都市開発のためのインフラ投資には意欲的だ。注目されるのは、シドニー西部に新空港を開業(26年予定)させ、その周りに空港都市(エアロトロポリス)を開発する「西シドニー空港都市計画」である。ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州と覚書を締結していたUR都市機構は19年10月、州政府傘下の開発公社とアドバイザリー業務の実施で契約を締結した。また、同じくNSW州と覚書を締結する日立製作所は10月、新空港開発周辺地区にイノベーション・ハブ「協創センター」を設立することでNSW州と合意したと発表した。これらを契機として、より多くの日系企業の同プロジェクトへの参画が期待される。

ジェトロが実施した「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によれば、オーストラリアの日系企業のうち2019年の営業利益(見込み)を「黒字」とした企業の割合は全体の79.9%で、前年調査時から2.5ポイント増加した。今後1~2年の事業展開については42.2%が「拡大」と回答しているものの、前回調査の50.9%から8.7ポイント低下した。投資環境上の、リスクとしては順に「人件費の高騰」(76.4%)、「不安定な為替」(30.6%)、「土地/事務所スペースの不足、地価/賃料の上昇」(26.1%)が挙がった。賃金上昇率自体は2%台前半に抑制されているものの、賃金水準が高いことが企業の負担になっている。

観光客の動向を見ると、オーストラリアからの訪日客数は、18年に55万人(前年比11.6%増)と過去最高を記録したが、19年は10月末の時点で50万人を超えた。10月の訪問客数は同月としては過去最高数となり、ラグビー・ワールド・カップ開催、パース−成田線の新規就航などが寄与したと考えられる。20年には豪州便の羽田空港発着枠が大幅に拡大し、東京五輪・パラリンピックが控えるとあって、日本への関心は更に高まることが予想される。

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