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暮らしを変える新たな医療制度が始動!
マイ・ヘルス・レコード
メディケア加入者の医療に関する個人データを一元管理し、医療従事者がその情報を閲覧・共有できるシステム「マイ・ヘルス・レコード」。その運用が2月1日から始まった。マイ・ヘルス・レコードのメリットや問題点とは何なのか、また私たちの生活にどのような影響を与えるのか。ブリスベン近郊のビーンリー・ロード・メディカル・センターでGP(一般開業医)として活躍し、日本人女医の立場からオーストラリアの医療に関する情報を発信し続けている小林孝子医師に解説してもらった。
マイ・ヘルス・レコードとは
マイ・ヘルス・レコードは、オーストラリア政府がオンライン上で個人の医療情報を管理するためのシステムで、メディケアの加入者には同システムのアカウントがオプト・アウトしない限り自動的に作成される仕組みとなっている。また、昨年の10月15日には、メディケア加入者を対象に新規アカウントの作成を拒否できるオプト・アウトの申請が殺到、インターネットのシステムがダウンしたニュースは記憶に新しい。
マイ・ヘルス・レコードの更新は、複数の方法で行われる。メディケアにより、処方箋を利用して購入した医薬品の情報、ドクターに掛かった際の医療費、血液検査などの臨床結果やX線検査などの画像検査結果、病院に入院したり、救急に掛かった際の退院サマリーなどがアカウントへ順次自動的に保存される。また、利用者はGPを受診した際に、過去の病歴、アレルギー、現在服用している薬など、健康に関する基本情報をドクターと確認した後、GPを介してアカウントに登録することができる。一方で、患者が個人医療情報や診察内容のアップロードに同意しない場合は、GPはアカウントに情報を登録できない仕組みになっている。
この他に、マイ・ヘルス・レコードでは利用者自身が命に関わるような病気になった際の終末期の処置や、脳死状態などになった場合の臓器提供の意思表示もできる。
マイ・ヘルス・レコードのアカウントを持っていて、当記事を読んでいる時点でドクターに掛かっていない場合でも、アカウント内にはメディケアから過去2年間の処方箋を利用して購入した医療品の情報と医療費が既に自動的に登録されている。
マイ・ヘルス・レコードへの登録
マイ・ヘルス・レコードへの登録は、以下の手順で行う。
- myGovのページ(Web: my.gov.au)にアクセスしサイン・インする。myGovのアカウントがない場合は新規アカウントを作成しサイン・インする。
- 「My Health Record」のリンクをクリックする。
- 本人確認を行う。氏名、住所、生年月日の他、メディケア・カードの番号や、メディケアの給付が行われる銀行口座の銀行コード(BSB)と口座番号、直近の医師の診察に関する情報などが必要になる。オンラインで本人確認ができない場合は電話(1800-723-471)をするか、担当医に問い合わせて、アクセス・コードを発行してもらい、本人確認のページでそのコードを入力すれば登録が完了する。
あとはマイ・ヘルス・レコードに記録する情報を設定するアップロードの作業だが、この作業は急ぐ必要がなく、掛かり付けのGPに受診した時などに相談すると良い。
マイ・ヘルス・レコードのメリット
ビーンリー・ロード・メディカル・センターでGPとして勤務する小林孝子先生は、マイ・ヘルス・レコードの最大のメリットを「患者さんの健康情報を迅速かつ正確にドクターが把握でき、すぐに適切な処置が行えることです」と語る。過去に急患高齢者の持病や服用薬の情報入手に困り時間を費やした経験から、患者の情報を素早く入手する重要性を痛感したそうだ。
利用者のメリットとしては、同システムを利用していれば、特に医療英語に慣れない私たち日本人にとって、苦労して健康状況を医師に説明する時間を省けることが挙げられる。また、血液検査や画像診断の依頼用紙に記載されている「結果をマイ・ヘルス・レコードに登録しない」の欄にチェックをすれば、結果がアカウントには更新されないなど、保存内容を利用者がコントロールできるのも便利だ。しかし、多くの登録内容を制限してしまうと、ドクターは正しい判断ができなくなるリスクもあるので注意が必要。
その他のメリットとしては、掛かり付けのGPを変更するとなった際に自分の医療情報を新しいGPに移送する手間を省ける(移送料は請求される)、複数のGPを受診している患者の重複処方をなくすことができる、ドクターが確認済みの検査結果を病院に行かなくても自分のアカウントからチェックすることができる、といったことが挙げられる。
更にマイ・ヘルス・レコード利用者が健康に関する情報を日常的に確認できるので、国民の健康に対する意識向上も政府は期待している。
誰が閲覧できるのか
マイ・ヘルス・レコードには、極めてデリケートな個人情報が記録されることも考えられる。現時点だと患者本人以外では、GPと公立病院の医者、薬剤師といった医療従事者が医療目的に限ってのみ閲覧でき、それ以外での閲覧は禁止されている。
もし誰にも見られたくない医療情報がアカウント内に存在する場合は、アクセス・コードを作成し完全に閲覧をブロックすることも可能。ドクターがアカウントにアクセスする場合は患者からアクセス・コードを聞き出さなければならない。
警察や保険会社、弁護士、雇用主などは閲覧することができず、これに違反した場合は、31.5万ドルの罰金または5年間の懲役の刑罰が定められていて、どうしても閲覧が必要な時は裁判所の許可が必要となる。
保護者は自分の子どもの情報を閲覧することができる。しかし、14歳になった時点で子どもは独立したアカウントを持つことが可能となり、保護者といえども勝手に閲覧することは禁止される(ただし子どもが自分で健康に関する判断ができない場合などはオーストラリア・デジタル・ヘルス・オーソリティー=ADHAに申し立てすることができる)。
指摘されている問題点
マイ・ヘルス・レコードに関して、最も懸念されている問題が不正アクセスだ。政府はその可能性を否定しているが、アメリカなどでは実際にその問題が発生しており、危険性はゼロとは言えない。
今後、政府は国民の健康情報をリサーチするために、個人のデータを利用できるように法整備を予定している(詳細は未定)。データは全て匿名となるが、利用されたくない場合は自分のアカウント内にある「セカンド・ユース(Second Use)」の項目で「No」と選択する。
家族間の不正アクセスも心配されている。DVなどで監視下にある保護者は、子どものアカウントにアクセスはできない。しかしその前段階では、アクセスでき、住所などを特定される危険性は否定できない。
幾つかの問題が指摘されているが、今後のオーストラリアの医療のために必要なシステムであるため、政府としては慎重に改善しながら進めていく予定だ。
オプト・アウトについて
マイ・ヘルス・レコードのアカウントを削除することを「オプト・アウト」と言う。いつでもでき、登録情報は全て削除される。オプト・アウトしても、再びアカウントを作成(オプト・イン)することも可能だ。
在豪日本人にとっては、日本に永久または長期間帰国する時がオプト・アウトのタイミングとして考えられる。また、健康状態に自信があり当分医者に掛かることはないと判断する場合も、個人の意思でオプト・アウトすることができる。
オプト・アウトするには、メディケア・カードと運転免許証またはパスポートなどの身分証明書を用意し、オプト・アウトのウェブサイト(Web: www.myhealthrecord.gov.au/for-you-your-family/howtos/record-creation)で氏名、生年月日など必要な項目を入力すれば良い。
また、小林先生はフェイスブック・ページ「My Health Brisbane and Gold Coast」でマイ・ヘルス・レコードを含めたオーストラリアのさまざまな医療に関する話題を日本語で発信しているので気軽にアクセスし、そうした情報も参考にしてみよう。
Beenleigh Road Medical Centre
■住所:565 Beenleigh Rd. (Cnr. Wynne & Garro Sts.), Sunnybank Hills
■Tel: (07)3345-9166
My Health Brisbane and Gold Coast
■Web: www.facebook.com/myhealthBNEandGC