誰にでも等しく訪れる老いと、それと共に始まるシニア・ライフ。シニア・ライフが訪れた際、その生活を充実させるために何をすべきで、またその後の最期に向けて何が準備できるのか。本特集では、心穏やかに最期を迎えるための準備活動「終活」として葬儀・お墓、充実したシニア・ライフを送るための必要情報として介護・年金・スーパーアニュエーションを取り上げ、それらについて専門家の意見を踏まえ解説する。
葬儀・お墓
【葬儀】取材協力=浄土真宗本願寺派(西本願寺)/渡部重信さん
【お墓】取材協力=在豪邦人コミュニティーサポート(JASIC)
◆葬儀
葬儀前の決定事項
シニア・ライフで自身の最期を心穏やかに迎えるための準備活動「終活」をする場合、特に気になることの1つが葬儀だろう。生前にどのようなことを考え、決めておくべきなのか。葬儀で使用したい音楽、祭壇に並べて欲しい花など自身の要望はもちろんだが、葬儀について最低限決めておきたいことは、主に以下のような項目になるだろう。
- 埋葬方法(土葬か火葬か)
- 葬儀社(葬儀社が遺体を病院から引き取るため。病院で近くの葬儀社一覧表を入手できる場合もある)
- 葬儀の場所(葬儀社のチャペル、教会、火葬場など)
- 葬儀の様式(故人が信仰した宗教の司式者または祭司に依頼するか、近親者のみで行うか)
- 葬儀後の軽食・飲み物(葬儀場内のカフェなどで行う場合は、ケータリングの手配が必要)
上記にある葬儀前の決定項目以外に、事前に想定しておきたいことが葬儀に掛かる費用だろう。オーストラリアでの葬儀費用は最低2,000ドルから始まり、8,000~1万1,000ドルが相場とされている。ただし、葬儀を執り行う司式者または祭司、ひつぎ、葬儀場、霊柩(れいきゅう)車など葬儀に関するさまざまな要素によって必要な費用は異なる。そこで、以下のウェブサイトなどで、自身が望む形の葬儀の費用を見積もっておくことをお勧めする。
■Funeral Planner
Web: www.funeralplanner.com
仏式(日本式)の葬儀
葬儀の様式について、オーストラリアでも仏式(日本式)葬儀の執り行いは可能だ。シドニーでは、浄土真宗(西本願寺)と真言宗(青山寺)の僧侶に葬儀の依頼をし仏式の葬儀を執り行うことができるが、葬儀自体はそれぞれの宗派の作法に従ってのものとなる。
また仏式の葬儀の依頼は、僧侶に直接連絡する以外に葬儀社を通じて依頼するという方法もある。ただし、どちらの方法で依頼しても、セレモニー以外の部分(葬儀場、ひつぎ、骨つぼ、墓、お骨を日本まで運ぶ場合の許可証など)は、基本的に葬儀社との調整が必要となる。
オーストラリアでの仏式葬儀
オーストラリアで仏式の葬儀を執り行う場合、日本と同様、通夜や香典など葬儀の形式に厳密に従う必要があるのかは気になる点だ。
これについては、もちろん家族の希望で通夜や火葬後の法要を行うことが可能だが、オーストラリアでは葬儀のみを執り行うのが一般的。また、香典の習慣は基本的にオーストラリアにはなく、葬儀で遺族に花束やカード(Sympathy Card)を渡すことが慣例となっている。香典の代わりに、参列者に対して香典に当たる金銭をチャリティー団体に寄付することを事前に呼び掛けるという方法もあるため、葬儀前に参列者への対応をどうするかも考えておきたい内容だ。
仏式葬儀の注意点
仏式の葬儀であっても葬儀に関するさまざまなことは自身や家族の希望でアレンジすることが可能だが、例えばオーストラリアの場合だと「骨上げ」(遺族や親族が遺骨を骨つぼに拾い上げる儀式)には注意が必要だ。
日本と違い、オーストラリアで火葬を依頼すると、遺骨の原型が残らないよう灰になるまで熱を加えられるのが通常。骨上げを希望する場合、火葬後に遺骨の全体像が識別できる程度にして欲しいことを、葬儀社の担当者に伝えておく必要がある。また日本の葬儀では通常、火葬中は参列者と食事をし、その後に骨上げを行うが、オーストラリアでは火葬を行った翌朝に骨上げを行うことが通常の流れとなっている。
◆お墓
※本記事の情報はJASIC第9回セミナーの内容に基づいています。
オーストラリアでお墓を持つ
オーストラリアでお墓を持つに当たり、考えられるケースは、同地で親族が亡くなって新たにお墓を持つ場合と、日本で墓じまいをして遺骨を遺灰にしオーストラリアまで持ってくる場合である。後者に関してはお墓の用意までに時間的な余裕を持てるものの、注意しておきたいのが前者で、特に土葬の場合だ。火葬と違い土葬であれば、遺体の保管期間を考慮に入れなければならず、親族が亡くなった直後から葬儀社との調整が必要となる。
また、お墓を持つ際に気になるのが費用だろう。現在シドニーでは、例えば1人の遺体を土葬する場合、場所に関する平均的な費用は5,000ドルほど。ただし、近年ではお墓に利用できる土地が少なくなってきている影響で土地代が年々上昇している。20年前と比べ同じ面積でも3~4倍の費用が掛かっているとされ、ノーザン・サバーブ・メモリアル・ガーデンズを例に挙げると4人分の遺灰が入るお墓で以前はおよそ6,000ドルだったが、今は2~3万ドルの費用が必要になっている。
お墓を今後持つ必要が考えられる、または親族が亡くなりお墓を持つ必要性が発生したなど、どちらの場合でも、まずは共同墓地(セメタリー)にある霊園事務所に問い合わせる。お墓の種類、場所、何人分の遺骨を1つのお墓に納めるかどうかなどリクエストを伝え、個人の予算に応じてお墓を選ぶことになる。特に、先述の通り土地代が上昇している状況を考えると、今後お墓が必要になると考えられる場合は、なるべく早めにその準備に移っておきたい。
共同墓地(セメタリー)の利用
お墓を持つ方法で一般的なのが、共同墓地の利用だろう。シドニーの場合でも、大規模な共同墓地であれば宗教・宗派に関係なく利用が可能。ただ、教会付属の墓地の場合、その対応は難しい。
墓地利用の初期費用に関しては、郵便受けのような小さい物であれば500ドル程度から、墓石を置く物であれば、地域や土地の広さにもよるが1万ドル程度から5万ドル程度までさまざまである。一方で、オーストラリアでは日本での檀家制度に当たるシステムが基本的にないため、維持費・管理費は求められない。
共同墓地以外のお墓の持ち方
共同墓地以外の代替的なお墓の持ち方として、現在では散骨(葬礼として遺骨を粉状にして海や山などにまくこと)を選ぶ人も多い。散骨を行うには、散骨する場所(ビーチ、山など)の許可が必要だが、この点については散骨前の火葬を葬儀屋が行うため、その際に散骨を希望する旨を伝えれば散骨場所に関する許可を代理で取ってくれる。