誰にでも等しく訪れる老いと、それと共に始まるシニア・ライフ。シニア・ライフが訪れた際、その生活を充実させるために何をすべきで、またその後の最期に向けて何が準備できるのか。本特集では、心穏やかに最期を迎えるための準備活動「終活」として葬儀・お墓、充実したシニア・ライフを送るための必要情報として介護・年金・スーパーアニュエーションを取り上げ、それらについて専門家の意見を踏まえ解説する。
年金・スーパーアニュエ―ション
【年金】取材協力=ライフメイツ社会保険労務士事務所/蓑田透さん
【スーパーアニュエ―ション】取材協力=桜パートナーズ/吉住京子さん
◆日本の年金
オーストラリアでの日本の年金受給
日本における公的年金(老齢年金)とは、現役時代(20歳~60歳または65歳)に毎月年金保険料を支払うことにより、その金額に応じた年金額を老後に受給できる仕組みのことを指す。公的年金は、国民全員が加入する国民年金、被雇用者が加入する厚生年金(公務員が加入する共済年金を含む)の大きく2つに分けられる。
年金の受給条件については、国籍や居住地に関する制限はなく請求手続きを行えば、オーストラリア在住でも日本の年金を受給することは可能だ。日本に住所があれば年金に関する情報(受給開始時期や受給見込額など)が通知されるが、海外居住者の場合は住所を登録しない限り通知されない。そこで、日本へ行く機会があれば年金事務所に立ち寄り年金記録を調べてみることをお勧めする。
年金受給と日本での加入期間
老齢年金を受給するためには、原則的に現役時代に年金保険料を10年間払い続けることが要件となる(2017年8月に資格期間が25年から10年に短縮)。
ただし例外として、海外在住期間(日本国籍のまま)またはオーストラリアの老齢年金(Age Pension)の加入期間を日本の年金加入期間に含め通算することもできる。こうした措置により、たとえ日本の年金加入期間が短くても10年の受給要件を満たすことが可能になっている。
受給手続き
日本の年金を受給するための方法は、以下の3つに分けられる。
- 日本へ帰国して手続きを行う
年金を受給するために日本への帰国が可能であれば、全国各地にある年金事務所(共済組合の場合、各組合事務所)に出向き手続きを行う。
- 日本の家族または専門業者に依頼
日本へ帰国することが難しければ、日本の家族や専門業者(社会保険労務士事務所)に年金受給のための手続きの依頼をする。ただし、受給者本人からの委任状が必要。
- オーストラリアの年金事務所で手続き
オーストラリア国内にある年金事務所に必要書類を提出し、日本の年金事務所に書類を郵送してもらうという方法。日本への書類郵送に時間を要することや、受付窓口でのやり取りが英語になるため手続きのハードルが高くなる。
なお、③のオーストラリアの年金事務所で手続きを行う場合、提出書類が日本国内居住者の物と異なるので、事前に年金事務所へ確認しておくことが必要だ。
障害、遺族年金の受給
日本の年金の受給については、老齢年金以外にも障害年金、遺族年金も受給できる。
障害年金は、保険料を払っている現役世代(つまり、まだ老齢年金の受給開始年齢に達していない人)が傷病により障がい状態になってしまった場合に受給できるもの。障害年金の受給には、障がいの原因となった傷病の初診日に日本の年金に加入していることが必要条件となる。
遺族年金は、年金受給権を持つ人または現在受給中の人が亡くなった場合に一定の家族に支給されるもの。対象遺族は遺族基礎年金が高校生以下の子どもがいる場合の配偶者または子、遺族厚生年金は配偶者、子(高校生以下)、父母、孫、祖父母のいずれかになる。
スーパーアニュエ―ション
スーパーアニュエーションとは
スーパーアニュエーション(以下、スーパー)とは、オーストラリアの企業、個人の積立年金(確定拠出年金)制度のことを指す。スーパーのファンドに積み立てられたお金は、退職後の受給に向けて増やすように投資運用され、一般的にその投資内容は個人で決められる。例えば、バランス・ファンドへの投資や、企業の株式を自由に持つことも可能だ。
投資によって発生した利益に課される税率は15%(アカウント・ベースド・ペンション/ABPの場合は無課税)のため、個人の税率によってはスーパーを使う方が有利な場合もある。
また、サラリー・サクリファイス(給与を全額現金で受け取る代わりに、収入の一部をスーパーに積立運用する制度)などで節税対策にも使われるが、積立方法により税金の掛かり方や積立額の上限が異なる。
これらの点を踏まえ、スーパーは老齢年金(Age Pension)とは仕組みが異なったものになるので注意が必要だ。
スーパーの引き出し時期
スーパーの受給に関して、以下に挙げられる人が主な受給対象者となる。
- 受給資格年齢に達し退職した人(55~60歳までで異なる。表1を参照)
- 受給資格年齢に達したが退職していない人( 持っているスーパーを「Transition to Retirement/TTR pension」に組み替えると最高割合の10%までアクセス可能)
- 60歳以上で仕事を辞めた人
- 65歳以上の人(仕事をしていても受給可能)
- 死亡した人(スーパーは遺族に譲渡される)
【表1】年齢別スーパー受給対象者の生年月日(55~60歳)
生年月日 | 給付開始年齢 |
---|---|
1960年7月1日以前 | 55歳 |
1960年7月1日~1961年6月30日 | 56歳 |
1961年7月1日~1962年6月30日 | 57歳 |
1962年7月1日~1963年6月30日 | 58歳 |
1963年7月1日~1964年6月30日 | 59歳 |
1964年7月1日以降 | 60歳 |
引き出し可能額
退職移行期間(TTR)ペンションとして出す場合には、最高10%までと引き出し可能額が決まっているが、ABPの場合は特に引き出し額の上限は決められていない。
ただし、最低引き出し率はTTR、ABPのどちらにも適応するのでどちらのペンションにおいても引き出し金額の最低割合が表2の通り決められている。
【表2】ABP保持者年齢 最低割合(%)
65歳以下 | 4% |
65~74歳 | 5% |
75~79歳 | 6% |
80~84歳 | 7% |
85~89歳 | 9% |
90~94歳 | 11% |
95歳以上 | 14% |
引き出しの手続き・手数料
スーパーの引き出しには一般的に手数料は掛からず、引き出したい場合はスーパーのファンドを持つ会社へ問い合わせた上で、フォームを取り寄せ記入する必要がある。
ただ、ファンドの会社はフォームの手配はしてくれるものの、個人の状況に対してアドバイスを行ってくれる場合は少ないので、スーパーの引き出しに当たってはファイナンシャル・プランナーなどに問い合わせることをお勧めする。
60歳以上必読のルール変更
シニア・ライフを過ごす上で、生活費の確保、老齢年金の最大化、資産を長続きさせることなどは当事者にとっての課題になることが考えられるが、この点において重要な、長年利用されてきた「アニュイティー」のルールが2019年7月から変更されることになった。
アニュイティーとは、一般的に年金と呼ばれているものだが、終身または1年からの定期型、元本保証型、元本切り崩し型など商品やオプションによって異なる。オーストラリアに留学している学生、セミ・リタイアを始めた人、離婚をした人なども毎月の生活費として元本を切り崩してお金を受け取ることができる。元本保証なのでレートは銀行の定期より良く、定期の代わりに投資する人もいる。
リタイアメント・プランでこれまでよく利用されてきたのは元本保証、利率保証で終身または15年後には元本を100%取り出しできるというもの。老齢年金の所得テストと資産テストに対して免除される金額「DA(Deductible Amount)」もある。スーパーのお金でセットアップした場合は、無税でインカムを受け取ることが可能だ。
毎月決まった額の現金が入ることで家計の管理が簡単になるだけでなく、元本保証のため、元本割れの心配もない(スーパーやABPはインフレ対策、資産を増やすのに必要な戦略方法である一方、投資内容によっては元本割れする恐れもある)。
また、老齢年金のアセスメントに対して有利なため、年々更に多くの老齢年金をもらえるようにもなる。66歳のカップルで、貯金が5万ドル、年間の生活費が6万2,000ドル、スーパーに35万ドルずつある場合、10万5,000ドルずつスーパーのバランスをアニュイティーに入れることで15年後には7万4,000ドルほど資産の差が生じる。
しかし19年7月からのルール変更によって、15年後に元本を100%取り出すことができなくなる。ただし、6月までにセットアップした場合はこのルールに当てはまらない。長期的なリタイアメント・プランを考えるに当たり詳細が気になるという人は、専門家に相談すると良いだろう。
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