日豪プレス、メディア体験プログラム2019
早稲田大学生13人がシドニーで記者体験
2月中旬、早稲田大学の学生13人がシドニーを訪れた。同大学の留学センター主催の「海外フィールドワーク・プログラム2019春」への参加学生たちだ(企画・実施:地球の歩き方T&E)。シドニー、シンガポール、香港と世界3カ国でそれぞれ行われた2週間にわたるフィールドワークでは現地大学生との交流や現地企業の訪問などグローバル人材育成のためのさまざまなプログラムが組まれた。本特集では、その中でシドニーを訪れた学生たちが日豪プレスで行ったメディア体験プログラムの内容と、実際に彼らが実際に作った記事を紹介していく。大学生ならではのフレッシュな目線で作られた記事をぜひ楽しんでお読み頂ければと思う。文=馬場一哉
時間の価値というのは誰にとっても等価で、例えば海外に出るタイミングに関しても早い、遅いなどということはない。それまで培ってきた人生経験に応じて、人それぞれ違った形のマインド・シフトを経験することになるだろうからだ。
だが、こと社会に出る前の学生にとっては、異国での経験がその後の人生をより一層大きく変えるきっかけになる可能性は高い。人は自身のキャンバスにさまざまな色を塗り重ねながら自分というものを作っていくが、そのキャンバスが白ければ白いほど目の前の体験で得られるインパクトは当然大きなものとなり得るからだ。事実、記者が現在シドニーの地で現職に就いているのも、学生時代にバックパッカーとしてオーストラリアの地を旅したことが遠因となっている。
日豪プレスではかねてより、インターン生の受け入れなどを多く行ってきた。インターンとはいえ、しっかりと面接を行い業務にフィットする素質があるかを見極め、OJTを行いながら最低3カ月勤務をするというのが基本的な受け入れ体制だ。そして、ある一定期間業務をしっかりと全うできた人材の多くは、日本の大手メディアや広告代理店への就職など、帰国後の就職において理想的なキャリアをスタートさせてきている。
そうした報告を喜ばしく思うと共に、ある時からこうした「若者育成」をより体系化できないかと考えるようになった。そこで2016年から開始したのが、プログラム内容を体系化し、課題を与えると共に指導を行い、「記事」という成果物を作るところまで教育する「教育プログラム」だ。
メディアでの業務体験は、誰でも発信者になり得てしまう昨今、必須スキルとして求められるメディア・リテラシーを育むことができるという点で、メディア業界にとどまらず、さまざまな業種への応用が可能だ。フェイク・ニュースの見極め、正確な情報発信、伝わる文章の書き方など、メディアで求められるスキルは一般的なビジネス・スキルとしても極めて重要な位置を占めている。
更に海外に拠点を置くメディアでそれらを学ばせることは「社会で通用するグローバル人材創出」に対して非常に効果的ではないかと考えている。今回、日豪プレスでは早稲田大学から13人の志ある学生を受け入れたが、非常に良い経験を持ち帰ったのではないかと思う(なお、早稲田大学では、今回のプログラム参加によって1単位を与えているそうだ)。以下、今回のプログラムの具体的な内容を振り返っていこう。
取材方法の選定、記事執筆
2月10日に羽田空港を出発し、11日にシドニーに到着した13人の学生たちは、翌12~16日までの5日間、シドニー大学の学生とのフィールド・ワーク・セッションを行った。そして1日休暇を挟み、18~22日までの5日間、日豪プレスでメディア業務体験を行った。
ミッションは、「記者として実際に取材を行い、それを記事にすること」だ。アクションとしては「取材」「記事内容の大枠決め」「原稿執筆」「編集部による校正指導&原稿修正(最終稿になるまで何度も繰り返す)」「写真の取り寄せ」「紙面レイアウトのラフ作成」となりこれら全てを5日間で行わねばならない。かなりの強行軍だが乗り切ってもらわねば実際の紙面に掲載することはかなわない。日豪プレスの「教育プログラム」では最終的な仕上がりが紙面に載せられるレベルに達しなかった場合は「掲載しない」という選択肢を残している。そのため、学生たちも必死に取り組まざるを得ない。
13人を同時に1つの取材先に送り込むことは現実的ではないため、全体を3グループに分け、それぞれ「在シドニー日本国総領事館」「日本政府観光局(JNTO)シドニー事務所」の2つの政府機関、そして民間企業の代表として「日本航空」を取材先として選定した。
プログラム開始初日の朝にオフィスに集合してもらい、まずは日豪プレスのビジネス・モデルなどを説明するセミナー及び会社見学を催行。その後、取材の仕方のレクチャーなどを挟み、それぞれ担当の編集部員と共に取材先へと赴いた。
インタビュー体験をこなした後、今度はそのインタビューした内容をどのように記事化するかを各グループごとに話し合った。インタビュー形式で記事にするか、あるいは会話体ではなく地の文で執筆するか、自分たちの所感などを記事に入れ込むか、など各グループ喧々諤々の議論を交わし、徐々に方向性を定めていく。
実際の記事執筆に際し、まず彼らが行わねばならなかったのが「文字起こし」だ。これはレコーダーによる録音などを実際に文字に落とし込んでいく作業だが、慣れないとかなりの時間が掛かる。例えば30分の録音であっても慣れない人は1日掛かってしまうケースもある(一方でプロは録音を聞きながら完成稿まで書いてしまうケースも少なくない)。
グループごとに決めた方向性、起こされた文字を元にいよいよ実際に原稿を書き起こす作業に入る。書き起こされた草稿は各グループを担当する日豪プレスの編集部員によって、添削され、何度も書き直すことになる。この過程の繰り返しによって学生たちの文章力、表現力には目に見えて磨きがかかっていく。
その後、紙面のどの位置に写真を使い、またどこにキャッチコピーを置くか、取材対象のプロフィールをどこに配置するかなど、編集部員のアドバイスを基にレイアウトのラフ案を考える。このラフ案を基にデザイナーが最終レイアウトを作るわけだが、ラフでの指示が的確でないとデザイナーもどのようにレイアウトをして良いか分からないため、文字数や写真点数、バランスなどを真剣に考え、伝える必要がある。またラフ案のバランスが悪かった場合にはデザイナーの判断でイメージと異なるデザインが上がってくる可能性もある。
成果報告会
ここまでの過程を今回学生たちは4日間で行った。そして5日目には締めくくりとしてオフィス内で、他グループの学生たち及び日豪プレスの社員を前に「成果報告会」を行った。それぞれのグループが、それぞれの取材先に対しどのような取材を行ったのか、どのような課題が残ったのか、そしてレイアウトを考える際に苦心したのはどのような点だったのかなど、グループごとに特色のある報告が行われた。また、彼らの発表内容に対して、学生及び社員らによる質疑応答も行われた。
さて、このような過程を経て出来上がったのが次ページから3ページにわたって紹介するそれぞれの記事だ。学生たちの苦労の賜物であると同時に、それらはフレッシュな視点による示唆にもまた富んでいる。記事が出来上がるまでの背景に学生たちのどのような思いがあったのかなど、想像しながら楽しんで頂ければと思う。
日豪プレスとしても1週間で13人の受け入れというのはなかなかハードルの高いミッションではあった。これまでの教育プログラムでは4~6週間など比較的長めの期間が設定され、また人数も4~5人程度というのが一般的であった。
いかに短期間で指導し、成果物まで仕上げさせるかという点では編集部員も試される部分があったと思うがしっかりと最後まで学生たちを導いてくれた。その点も手前味噌ではあるが褒めたいと思う。今回訪れた13人の学生たちもよく頑張った。彼らが将来に向けて今回の体験を良い形で生かしてくれることを切に願っている。
日豪プレス「教育プログラム」、参加希望団体募集中
日豪プレスでは2016年より「教育プログラム」と称して、主に現役大学生を対象に、本記事でも紹介した「記者体験」を始め、その他にも「マーケティング体験」などのプログラムを用意し、受け入れを行っています。貴重なオーストラリアでの滞在期間を、将来に向けて有意義に生かせるプログラムとして、人気を博しています。興味のある人、団体は、下記問い合わせ窓口まで気軽にお問い合わせください。
●問い合わせ窓口: npsyd@nichigo.com.au(担当:馬場)