日本ラグビー界では現在、オーストラリア、ニュージーランドなど世界の強豪チームでの代表経験を持つ選手が多数プレーしており、日本のレベルアップにひと役買っている。そこで、かつて豪州で活躍し、現在は日本に舞台を移した元ワラビーズの選手たちについて日本からリポートする。 文=山田美千子/写真=山田武
SR4季目、サンウルブズの戦い始まる
ラグビー・ワールド・カップ日本大会開幕を約半年後に控えた2月中旬、サンウルブズが参戦して4季目となるスーパー・ラグビー(以下、SR)2019年シーズンが始まった。強豪との対戦を重ねる中で、サンウルブズは前進を続ける確かな姿を見せている。
前進の末の今季初勝利
2月16日、サンウルブズのホームでもあるシンガポールで南アフリカのシャークスとの初戦が行われた。同試合は、得点差以上に「負け」の印象が強く、特にフォワード(FW)、スクラムは相手の圧力に「完敗」だった。
だが、翌週の東京・秩父宮ラグビー場で迎えた国内初戦でのFW陣の修正力はすばらしかった。8人が美しいスクラムを組み、力負けせず、別のチームかと思わせる奮闘ぶりを見せたのだ。
その日の相手はワラターズ。キャプテンのマイケル・フーパー選手、フル・バック(FB)のイズラエル・フォラウ選手、スタンド・オフ(SO)のバーナード・フォーリー選手など、現役のワラビーズを多数擁する強豪である。
先制したのは、サンウルブズ。ゲラード・ファンデンヒーファー選手がトライ、ヘイデン・パーカー選手がキックを決めて7-0とした。その直後だった、サンウルブズのキック・パスがワラターズのセンター(CTB)カートリー・ビール選手に渡るとそのままトライされ、SOフォーリー選手のキックも決まり、すぐさま同点となった。
その後も目が離せない一進一退の攻防が続いたが、その中で印象に残ったのがワラターズのフランカー(FL)ネド・ハニガン選手と1トライを決めたNo.8ジャック・デンプシー選手。攻守共に安定したプレーを見せていた2人の活躍もあり、ワラターズのライン・アウト成功率は100%だった。
終盤、サンウルブズの追い上げがあったものの、ワラターズが31-30と薄氷の勝利を収めた。
試合後、ワラターズのダリル・ギブソン・ヘッド・コーチ(HC)は「エキサイティングなゲームだった。勝てて良かった」と初勝利にひと安心。また、フーパー・キャプテンは「ランニング・ラグビーの要素が大きく、相手もヘイデン・パーカー選手のキックやセット・ピースが良くて苦しい試合となった」と語った。
一方、サンウルブズのスコット・ハンセンHC代行は「(接戦を落としたことに)がっかりだ。ただ、ここから前に行くしかない。シャークス戦で学び、鍛えられた。どんどん成長できると思う」と、今季初勝利はそう遠くないと感じているようだった。
そして、その日はすぐにやってきた。翌週に行われたニュージーランド・ワイカトでの対チーフス戦、15-30で今季初勝利をつかんだのだ。
勝ちを手繰り寄せられないサンウルブズ
3月16日には、東京・秩父宮ラグビー場でサンウルブズ対レッズ戦が行われた。
試合は、前半からレッズが激しい連続攻撃で揺さぶりをかけた。対するサンウルブズは前に出るディフェンスでそれをしのぎ逆にチャンスを作ったが、トライを決めきれない時間が続いた。後半に入ると流れはレッズに傾く。立て続けに3トライを奪い21-26と逆転。しかし、途中交代で入ったサンウルブズSH内田啓介選手がトライ、パーカー選手がゴール・キックを決め、再び28-26とリード。更にペナルティー・ゴールをパーカー選手が決めて、31-26。サンウルブズの今季2勝目がちらついたその時だった、内田選手のキックがチャージされるとテイト・マクダーモット選手にトライを奪われ同点に。そして、試合終了寸前に反則からのペナルティー・ゴールをハミッシュ・スチュワート選手が決めて31-34。勝利の女神はレッズに微笑んだ。
サンウルブズに関しては後半、タックルの精度が落ちてしまっていた。反面、レッズはチームとしての若さが出てしまい終始安定した試合運びをできなかった。ワラターズ戦と同じくどちらが勝っていてもおかしくない試合、あと少しのところで勝利が逃げていってしまうサンウルブズと勝利を引き寄せられた彼らとの違いはどこにあるのだろうか。
レッズとの試合の約1週間後、ショッキングなニュースが飛び込んできた。2021年シーズン以降、サンウルブズがSRから除外される旨の通達がジャパンエスアール(サンウルブズを運営する一般社団法人)にSANZAAR(SR運営主体)より届けられた。非常に残念なことであるが、今季と来季、サンウルブズには自らの価値が高まるようなゲームを観せてもらいたい。