アポロ11号による人類初の月面着陸から50周年を迎える今年、ブリスベンのクイーンズランド・ミュージアムで特別展「NASA ヒューマン・アドベンチャー展」が開催されている。しかしなぜ、オーストラリアの博物館で開催されるのか。実はNASAのアポロ計画などにオーストラリアが協力、貢献してきた歴史的背景があるからだ。改装され新しくなった展示スペースを使い行われている同館最大規模となる展示の魅力を紹介しよう。この展示を見れば、今までとは違った印象で夜空が目に映るようになるだろう(記事内敬称略)。(文=内藤タカヒコ)
気になる博物館の全貌を解説
特集「改装工事を終え、より魅力的になった クイーンズランド・ミュージアムへ行こう!」の館内マップの通り、レベル2の一部とレベル3の2会場で開催されている。最初にレベル3から入場するが、この時にレベル2へ入場するための半券をもらおう。展示はNASAによる有人宇宙飛行の全体像が分かるように実物やレプリカを使って構成されている。
1961年4月12日、ソ連のガガーリンが人類で初めて宇宙飛行を行い、続いて同年5月5日、アメリカ人のアラン・シェパードが宇宙へ到達し、有人宇宙飛行の幕が上がった。
会場ではアメリカ最初の宇宙船である1人乗りのマーキュリー宇宙船、続く2人乗りのジェミニ宇宙船、3人乗りのアポロ司令船、スペース・シャトルのオービターと、アメリカがこれまで打ち上げた4種類の有人宇宙船を一度に見ることができる。背面にある紅白の幕のような物は、アポロ17号が帰還時に実際に使用したパラシュート。
アポロ宇宙船を月へと運んだロケット、サターンVの1/10模型が展示されている。実物の全長は110メートルでそのほとんどが燃料だった。展示の左端から2番目の銀色の部分(司令船)に3人が乗り込む。その右側は月着陸船の帰還用上昇エンジン。
アポロ宇宙船の月面着陸船のコックピット。2人乗りで、立った姿勢で操縦する。中央下部にあるハッチから船外へ出ていた。
アポロ15~17号で使われた月面車。四輪駆動の電気自動車で、月面探査に大きく貢献した。
ソ連の無人月面探査車、ルノホート。2台が月面に到達し、遠隔操作で写真撮影や土壌分析などの月面探査を行った。
スペース・シャトルの機首部分。操縦席のあるフライト・デッキと、実験などに使われるミッド・デッキが再現されている。
NASAとオーストラリア
写真はNSW州のパークス天文台にある電波望遠鏡で、アポロ11号の月面着陸の映像を受信したことで有名。この実話を基にした映画『月のひつじ』(原題『The Dish』)が2000年に制作された。アポロ13号の事故では救助活動に協力し、現在もNASAの惑星探査機の追跡、通信を担当している。展示と併せて映画も観てみよう。
展示で見るNASA有人宇宙開発計画の歴史
マーキュリー計画
1958~63年に実施された有人宇宙飛行計画。人間を安全に地球周回軌道へ送り、帰還させることが目的で、6回の有人飛行が行われた。
(左)1人乗りのマーキュリー宇宙船。マーキングはジョン・グレンが搭乗し地球を3周した「フレンドシップ7」
(右)マーキュリー計画の宇宙服。海軍の高度ジェット戦闘機用与圧服の改良品で、完全な与圧は行われていなかった。初期の宇宙飛行士7人が着用し、多くのメディアで紹介された
ジェミニ計画
1961~66年に月面着陸のための宇宙遊泳、船外活動、2人乗りの宇宙船によるドッキング、ランデブーの技術確立が目的で行われた有人宇宙飛行計画。10人の宇宙飛行士が飛行。
(左)2人乗りのジェミニ宇宙船。後部の白い部分には、燃料、飲料水、固体ロケット・エンジンなどが配備されていた
(右)最重要ミッションとされたドッキングで、ドッキングの目標になったアジェナ標的機(Photo courtesy of NASA)
アポロ計画
1961~72年にかけて行われた人類初の有人月面探査計画。同計画は人類が初めて地球以外の天体に到達した事業で、69年7月20日、アポロ11号が着陸に成功。以後6回の着陸に成功した。
アポロ計画の宇宙服。真空や温度差といった環境に耐えて、長時間作業できる機能性も備えた小さな宇宙船と言える物
スカイラブ計画
1973~79年にかけて地球周回軌道上に宇宙ステーションを打ち上げ、長期間滞在し、さまざまな実験を行った。3回の有人飛行で、9人が宇宙に滞在した。
スカイラブに備えられたベッド(左)とトイレ(右)。長期間無重力状態で生活できるようにさまざまな工夫が必要だった
アポロ・ソユーズ・テスト計画
1975年に行われたソ連のソユーズ宇宙船とアメリカのアポロ宇宙船のドッキング。宇宙の平和利用とドッキング技術の確立が目的。5人の宇宙飛行士が参加。
スペースシャトル計画
1981~2011年にかけて行われた有人打ち上げ機計画。宇宙と地球を往復する再利用可能な宇宙船を使い135回も打ち上げられた。日本からは毛利衛、向井千秋も搭乗し飛行した。
スペース・シャトルのコックピット。船長と操縦手の2人で操縦する。船長、操縦手はアメリカ国籍を持っていなければならない(Photo courtesy of NASA)
国際宇宙ステーション計画
2011年からアメリカ、ロシア、日本、ヨーロッパ15カ国で運用されている宇宙ステーション。各種実験、観測、技術開発などが行われ、日本は「きぼう」実験棟を建設し参加。
「こちらヒューストン」のセリフと共にさまざまな場面に登場する、テキサス州ジョンソン宇宙センターのコンソール(管制卓)
NASA – A Human Adventure
■会場:クイーンズランド・ミュージアム(Cnr. Grey & Melbourne Sts., South Bank, South Brisbane)
■Web: space.qm.qld.gov.au
■日時:開催中~10月9日(水) 毎日9:30AM~5PM
■料金:大人21ドル、子ども(5~15歳)12ドル