辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじと共に注目の新作を紹介!レーティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。
フー・ユー・シンク・アイ・アム
Who you think I am隊長が観た!
ドラマ/MA15+ 公開中 満足度★★
フランスを代表する女優の1人、ジュリエット・ビノシュ。レオス・カラックス監督の『汚れた血』『ポンヌフの恋人』で、強烈な印象を受けた往年の映画ファンも多いのではないかと思う。その後、ハリウッドに渡り『イングリッシュ・ペイシェント』では、見事アカデミー助演女優賞を受賞。世界3大映画祭と言われる、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ベネチア国際映画祭全ての映画祭で女優賞を受賞したことでも有名な女優だ。その彼女の新作が今回紹介する『Who You Think I Am』。
2人の10代の少年の母親であるクレア。大学の講師であり、別れた夫は新しいパートナーと共に生活しており、自身も若い年下の恋人がいる。しかし、その恋人・ルードはあまり自分に興味を向けてくれないので、ちょっとした好奇心から偽のフェイスブック・プロフィルを作って、友人リクエストを送ってみる。結局、つながったのはルードのルームメイトであり友人のアレックスだった。50歳のクレアが作った偽アカウントは、24歳でブロンドのクララ。初めはテキストのチャットだけの関係だったクララとアレックスだが、電話番号を交換し、電話での会話だけだが次第に深い仲へとなってゆく……。
英語で「Cat fish」というと「ナマズ」のことを指すが、スラングではフェイスブックやツイッターなどのSNS上で他人のプロフィルや写真を使い、相手をだます人のことを言う。まさにクレアが行っているのがこの「なりすまし」。バツイチ、2人の子どもを持つ中年の女性が、ネットの世界では24歳となり、若い男性と本気で恋をしてしまう。そして、恋に落ちれば落ちるほど、その状況は耐え難いものになってゆく。
メガネやガラス越しのシーンを多用することで、見えるのだが手を触れたりはできない隔離されている状況を表現する映像のセンス。更に、静かで洗練されたトーンなど好きな雰囲気の映画ではあるけど、人をだますという行為、仮に空想の世界でも図書館で人の迷惑を顧(かえり)みず携帯電話で堂々と会話するキャラクター設定など、気持ちが入り込めなかった。
2010年公開で、その名もスバリ『キャットフィッシュ』というドキュメンタリー映画があるけれど、それはネットの闇世界に迫っていて、ある意味そこらのホラー以上にホラーな展開にびっくりした。しかし、このようにネットの「なりすまし」をテーマにした映画は既に存在していて、「今」取り上げる意味があるのだろうか? 映画の中で、アレックスの「インスタグラムはやっているの?」という問い掛けに一瞬パニックになって、慌ててググってみるクレアだが、既に時代は変わっていてインスタグラムを知らない人は少数だろう。原作の小説が発行された時期では問題なかったと思われるが、今となっては違和感を感じてしまう。
もちろん、テーマはそれだけではなく、離婚した中年女性の精神的な弱さや孤独感、ネットの依存などもっと深いものだ。しかし、心理ドラマあり、スリラーあり、ロマンティック・コメディーあり、といったさまざまな要素がミックスされていて、それらが相乗効果を果たすのではなく、バラバラのままで終わってしまった感じだ。主演のジュリエット・ビノシュの熱演は評価するが、ほぼスッピンでしかも顔色が悪そうで、あまり魅了的に見えなかったのもマイナス。24歳のクララとのギャップを表現したいのかもしれないけれど、水の中から浮かび上がるジュリエット・ビノシュの顔に恐怖を感じてしまった!
レイト・ナイト
Late Night
コメディー、ドラマ/TBC 8月8日公開予定 期待度★★★
舞台はニューヨーク。深夜トーク番組の伝説の司会者キャサリン・ニューべリーは男勝りな性格。彼女は女性ヘイトとして知られ、番組スタッフも全員男性を登用していた。そのイメージが世間に伝わり、視聴率も低迷。そして番組は打ち切り寸前に……。イメージ・アップを図るキャサリンは女性スタッフとしてモリー・ペーテルを起用する。キャサリンがモリーのアイデアを受け入れ、変化していく様子に注目だ。主役のキャサリンを演じるのは1993年、『ハワーズ・エンド』でアカデミー主演女優賞を受賞したエマ・トンプソン、モリーをコメディー女優としても評価の高いミンディ・カリングが務める。メガホンを取ったのは『ハンターズ グリム童話の秘宝を追え!』のニーシャ・ガナトラ。
ミッドサマー
Midsommar
ドラマ、ホラー、ミステリー/TBC 8月8日公開予定 期待度★★★★
2018年公開の『ヘレディタリー/継承』で衝撃の長編映画デビューを飾ったアリ・アスター監督の最新ホラー映画。ダニ(フローレンス・ピュー)とクリスチャン(ジャック・レイナー)は破局寸前のカップル。ある日身内に不幸があり、悲しみに暮れていたダニに同情したクリスチャンは彼女を友人の故郷であるスウェーデンの農村で行われる「ミッドサマー・フェスティバル」に誘う。それは90年に一度行われる伝統的な祭りだった。村の住民たちはみな白い衣服に身を包み、笑顔でゲストを迎え、夏至をお祝いする。そんな中太陽の沈まないのどかな村に不吉な出来事が次々に起こる……。明るく美しいスウェーデンの風景とは対照的な不気味で恐ろしい儀式の描写は見ものだ。ホラー好き必見の作品。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
Once Upon a Time in Hollywood
コメディー、ドラマ/TBC 8月15日公開予定 期待度★★★
舞台は1969年、テレビ・スターのリックと長年彼のスタント・マンを務める親友のクリフが黄金期のハリウッドで成功するために奮闘する姿を、女優シャロン・テートがカルト集団に殺害された実在の事件を背景に描かれた作品。リック役をレオナルド・ディカプリオ、クリフ役をブラッド・ピットが演じた豪華なキャスティングでも話題に。更にヒロインのシャロン役にはオーストラリア出身、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のマーゴット・ロビーが大抜擢された。メガホンを取ったのは『パルプ・フィクション』などユニークなストーリー展開で知られるクエンティン・タランティーノ監督。彼の4年ぶりとなる待望の新作は、5年の歳月を費やし完成された脚本とあって世界中が注目している。
エンジェル・ハズ・フォールン
ANGEL HAS FALLEN
アクション、ドラマ、スリラー/TBC 8月22日公開予定 期待度★★★
『エンド・オブ・ホワイトハウス』『エンド・オブ・キングダム』に続くシリーズ第3弾となる作品。シークレット・サービスのエージェントとして大統領一家の警護任務に当たるマイクは、あろうことか大統領暗殺未遂疑惑を掛けられ拘留されてしまう。しかし、彼は大統領暗殺を図る真の黒幕を突き止めるため、脱走を決意する。マイクを演じるのは『オペラ座の怪人』『300(スリーハンドレッド)』のジェラルド・バトラー。また、同作で大統領へと昇進したアラン・トランブルを演じるのは『ミリオンダラー・ベイビー』『ショーシャンクの空に』のモーガン・フリーマン。『ダイ・ハード』に例えられることもある同シリーズの最新作は、スリル満点の緊迫した逃走劇が見どころだ。
★今月の気になるDVD★
世界一キライなあなたに Me Before You
ドラマ、ロマンス 111分(2016年)
舞台はイギリスの田舎町。ルイーザは、明るくお洒落をすることが大好きな26歳。家族と共に暮らしているが、一家の生活はカフェで働く彼女の収入によって支えられていた。しかし彼女は、カフェの店閉まいと共に職を失ってしまう。就職センターで紹介されたのは、半年間の介護の仕事だった。近所に住むウィルは若くして成功した実業家だった。しかし2年前、バイクにはねられ下半身不随になった。誰かの介助なくしては生活するのが難しい状態になった彼は、周囲に心を閉ざすようになり生きる望みを失っていた。息子をどうにかして勇気付けたいウィルの母親はルイーザの明るさなら、もう一度彼に生きる喜びを与えられると思い彼女を雇ったのだった。最初は冷たく当たるウィルだったが彼女の温かさが、彼の頑固な心を少しずつ溶かしていく。しかし、ある日昔の親友が訪ねて来たことで状況は一変。ウィルの元彼女が彼の親友と結婚すると聞かされたのだ。ウィルは悲嘆に暮れ、怒りに任せて思い出の写真を壊す。それを修理したのはルイーザだった。しかし彼女とも口論になる。彼は仲直りのためにルイーザを映画に招待。その日以降2人は毎日会話を交わすようになり、互いに最愛の存在となっていくが、ある日ルイーザは彼のある秘密を知ってしまう……。幸せの感じ方が人それぞれ違うこと、どんなに努力しても変えられないことがある、そんな切ない現実が描かれたラブ・ストーリー。(編集=MI)