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編集部イチ押し! 10月の新作映画をチェック

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cinema check シネマ・チェック

辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじと共に注目の新作を紹介!レーティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。

夏の鳥
Birds of Passage隊長が観た!

ドラマ、クライム/MA15+ 10月3日公開予定 満足度★★★★

©Ciudad Lunar Blond Indian-Mateo Contreras
©Ciudad Lunar Blond Indian-Mateo Contreras

2016年公開のコロンビア映画『彷徨(さまよ)える河』はジャングルが舞台で、侵略者によって滅ぼされた民族唯一の生き残りで呪術者でもあるカラマカテが主人公の映画だった。アマゾン川を中心に、カラマカテと白人との2つの時代が描き出されるが、過去や未来といった時間や現実か幻覚か分からない混濁した神秘的なムードが何とも言えない雰囲気を醸し出していた。モノクロ画面から密林の湿気をはらんだ濃密な空気を感じ、全く未知の先住民族の世界観などが興味深く、記憶に残る作品だった。その『彷徨える河』の監督、シーロ・ゲーラの新作が今回紹介する『夏の鳥』。

1960年代後半、コロンビア北部の砂漠で暮らす先住民族のワユー族。その一族の少女ザイダの成人を祝う儀式が行われていた。彼女を気に入ったラパエトは、ザイダを妻にしたいと申し出る。ザイダの母親ウルスラから持参金として、家畜や装飾品を要求された彼は金を手に入れるためにマリファナの取引を始める。無事にザイダを妻としたラパエトだったが、マリファナの取引にのめり込むことによって、次第に彼らの生活が変わっていく……。

前作の『彷徨える河』のように、今回も全く未知の世界だったコロンビアの先住民の暮らしが描かれている。更に喋っている言葉も、スペイン語ではなく先住民族の言葉なので、不思議な体験だった。「2度目の葬式」という儀式では、墓を掘り返し棺桶から骨を取り出し、布で奇麗に拭き取り再度埋葬したりと、全く違う文化に驚きの連続。

更にストーリーは、マリファナによって成金のようにお金に取りつかれていく家族を描いている。最初の結婚のための持参金は牛10頭とヤギ20頭といった感じだったのが、後半になるにつれ、麻薬ビジネスによって札束というか、抱きかかえるほどの札の塊が登場したり、住まいも掘っ立て小屋から白亜の神殿に変わったりと、その成金ぶりにも驚いた。しかも、その真っ白な家が何もない砂漠の中にポツンと立っていて、それをロング・ショットで撮影したりとビジュアルもインパクトあり!また、バッタや鳥が運命や未来の暗示として登場し、ワユー族の神秘思想をうまく表現している。

©Ciudad Lunar Blond Indian-Mateo Contreras
©Ciudad Lunar Blond Indian-Mateo Contreras

しかし、最初は異文化の興味が強かったが、麻薬の取引によって部族内に争いが起こり始めると、ストーリーに引き込まれてしまった。抗争を避けるため、相手の組織に詫びを入れに行って、結局戻って来たのは彼の使っていた杖だけとか、これ、まるで『仁義なき戦い』でしょ?ここまで「全く未知の異文化」と思っていたのに、急に「よ!健さん!」なんて合いの手を入れたくなってくる。いくら文化が違っても、同じ人間。任侠映画だけじゃなく、シェークスピアやハリウッドのギャング映画にも通じる普遍的な展開だ。お約束のバカ息子が登場したり、どんなに強くてもやはり息子には弱い母親とか、古典的な悲劇の要素もふんだん。特に感心したのは、最近は特撮技術もかなりのレベルになっていて、何でも表現できてショッキングなシーンを盛り込んだりすることが多いが、後半の抗争に入って死体がいっぱい登場しても、実際の暴力を直接的に描いていないところだ。そのためか、ちょっと寓話(ぐうわ)的にも感じた。

今作は、シーロ・ゲーラ監督とプロデューサーのクリスティナ・ガジェゴ夫妻が共同監督ということで、哲学的だった『彷徨える河』より、もう少し見やすくなっていると思う。まあ、先住民の儀式や伝統や風習など、理解するのが難しい部分はあるけれど、一風変わったヤクザ映画として楽しんだ1本。

ジョーカー
Joker

アクション、クライム/MA15+ 10月4日公開予定 期待度★★★★★

©2019 Warner Bros. Entertainment Inc. TM & © DC Comics Photo Credit: Niko Tavernise
©2019 Warner Bros. Entertainment Inc. TM & © DC Comics Photo Credit: Niko Tavernise

DCコミックス『バットマン』に登場する悪役ジョーカーが誕生する経緯を描く本作のキャッチコピーは「笑いの仮面を被れ」。大都会で大道芸人として生き、ゆくゆくはコメディアンとして世界を笑わせようとした主人公・アーサー。しかし現実は残酷で、周囲からの冷たい扱いを受け、うつ状態に落ち込むとやがて彼の歯車は狂い出し、自ら施すピエロ・メイクと共に“ジョーカー”へと変貌を遂げていく。故ヒース・レジャーが演じたのは、映画史上で究極の大悪党だったが、今作のホアキン・フェニックスはいかにも善良な男が徐々に壊れていくさまを演じている。生まれながらの悪人でなく、生活の苦痛から徐々に追い込められていく犯罪者の心をのぞけるのが本作の魅力だ。

ゾンビランド:ダブル・タップ
ZOMBIELAND:DOUBLE TAP

アクション、コメディー/TBC 10月17日公開予定 期待度★★★

10年前、『バイオハザード』を上回り、ゾンビ映画全米歴代1位の大ヒットを記録した笑えるゾンビ・エンターテイメント『ゾンビランド』。今年ついに「ルールさえ守れば、何でもあり」の“ファミリー”4人がゾンビの世界に帰って来る。前作から10年後、人類の大半がゾンビと化した米国が舞台。擬似家族の4人は無人のホワイトハウスに到着し、ゾンビの存在など忘れて、愉快な日々を送っていた。しかし口論が絶えず、ついには妹分のリトル・ロックが安全なホワイト・ハウスを飛び出してしまう。残った3人は彼女を追って危険なサバイバルに出発することに。ゾンビとの戦いの中で深まる家族の絆が見どころだ。アカデミー女優のエマ・ストーンを始め、この10年の間にキャリアを積んだ役者たちの演技にも注目。

パヴァロッティ
PAVAROTTI

ドキュメンタリー/TBC 10月24日公開予定 期待度★★

『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』の製作陣が贈る、人生を音楽に捧げたオペラ歌手ルチアーノ・パヴァロッティのドキュメンタリー。「神に祝福された声」と称される美しい歌声で、オペラを娯楽として世に浸透させた「三大テノール」の1人パヴァロッティ。累計1億枚以上のレコード売上で、世界で最も売れたオペラ歌手として認知されている彼の知られざる生涯を、過去の公演、未公開の映像、家族や同僚へのインタビューを交えながらひも解いていく。生前に親交があり、同作でインタビューに答えているアイルランドの伝説的ロック・バンド『U2』のボーカリスト、ボノの出演にも注目だ。製作指揮を執ったのは2度のアカデミー賞受賞を誇る『ダ・ヴィンチ・コード』『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のロン・ハワード。

ターミネーター:ニュー・フェイト
TERMINATOR: DARK FATE

アクション、SF/TBC 10月31日公開予定 期待度★★★

「審判の日」から27年後、ターミネーター史に再び新たな物語が始まる。同シリーズのうち、1991年の『ターミネーター2』の正統な続編と位置づけられる同作では、生みの親であるジェームズ・キャメロンが制作に復帰すると共に、リンダ・ハミルトンが更にたくましく威風をまとったサラ・コナーとなり28年ぶりにスクリーンに「ビー・バック」する。キャスト・スタッフ陣に当時の面々が再集結した同作は『T1』、『T2』の世界観が完全に継承されている。何と言ってもとにかく格好いいリンダの圧巻の演技と、新型ターミネーター「REV-9」VSアーノルド・シュワルツェネッガー扮する旧型「T-800」たちの壮絶なバトルが見どころ。映画館で恐怖と興奮をノン・ストップで味わおう。

★今月の気になるDVD★

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン Catch Me If You Can
ドラマ、コメディー 141分(2003年)

高校生のフランクは、仲の良い両親と共に幸せに暮らしていたが、父の事業が失敗するとその生活は一変。借金返済のため家は売却され、狭いアパートで3人で暮らし始める。ある日、母の浮気現場を目撃してしまったフランクは、失意のまま家出し、父から貰った小切手の偽装を始める。信用を得るためにパイロットのフリをして世界中を飛び回り、フランクは小切手の換金を繰り返すようになる。その後FBI本部のベテラン捜査官、カールに嗅ぎ付けられるが、その度に名前と職業を詐称し、捜査の手を巧みにかわしていく。世界を股にかけた大追走劇の先に待っているものとは……。

同作は実在するフランク・W・アバグネル・Jrという詐欺師をモデルに制作された作品だというので驚きだ。ストーリーのテンポが良く、全体的に飽きの来ないスピード感がある。主人公があと一歩のところまで追い詰められても毎回見事に逃げ切るスリリングさも面白い。

天才詐欺師フランクをレオナルド・ディカプリオ、FBI捜査官カールをトム・ハンクスが好演。またスティーブン・スピルバーグ監督がメガホンを取り、豪華タッグで映画化された同作は2002年に公開され、第60回ゴールデン・グローブ賞では最優秀主演男優賞にディカプリオがノミネートされた。

一度も観たことがない人はもちろん、繰り返し観るのもお勧めの1本だ。(編集=YT)

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