輝け!
ゴールドコーストの若きアスリートたち
第2回
松尾磨人くん(18歳)
ラグビー
強さとは体の大きさではなく
絶対に諦めない精神力
豊かな自然に囲まれたゴールドコーストは、温暖な気候と晴天に恵まれてスポーツに最適な場所であると同時にその活動も盛んだ。このすばらしい環境の中で、将来の大きな夢を抱いて果敢にスポーツに取り組んでいるゴールドコースト育ちの若きアスリートたちにスポットを当てて、彼らの今の姿を紹介していく。第2回目は、松尾磨人くん(18歳)。日本ラグビー界で名を馳せる松尾ファミリーの1人として幼少時からラグビーを始め、世田谷ラグビー・スクールを経て2012年にゴールドコーストへ。現在、1901年創立の歴史と伝統を誇る男子校TSS(The Southport School)ラグビー・クラブで、俊敏さと粘り強さを要求されるフランカーとしてシニア・スクール最後の年を迎えている。(文=堀千佐子)
――ラグビーを始めてから今に至るまでの経緯を教えてください。
2001年7月2日の東京生まれで、ラグビーは幼稚園の頃から始めました。小学5年生まで世田谷ラグビー・スクールへ通い、8年前の12年8月に、英語の勉強と海外のラグビーを経験するためにゴールドコーストへやってきました。地元の州立学校へ通い、4年間ゴールドコースト・ラグビー・ユニオン「イーグルス」に所属しました。こちらへ来てからは、ラグビー以外にもライフ・セービング・クラブに入って、ライフセーバーの海の競技にも積極的に参加してきました。そして9年生の時、ゴールドコーストで100年以上の歴史を持つ唯一の男子校TSSへ転校してプレーしてきました。TSSは、一流のスポーツ設備が整っている上に、ハイスクールだけでも総勢300人のラグビー部員がいるとてもラグビーが盛んな学校です。現在、卒業を目前にした12年生です。
――松尾家とラグビーには切っても切れない深いつながりがあるそうですね。
はい。父も祖父も親戚も皆ラグビーをやってきた、まさに“ラグビー・ファミリー”です。祖父の松尾勝吾は、成城学園で同級生だった指揮者の小澤征爾さんと一緒にラグビーをしていた仲間で、後に成城大学ラグビー部の監督を長年務めました。元日本代表の松尾雄治は父の従兄です。小さいころから、ラグビー以外のスポーツをするなら、名前を変えてやれと言われたほどです。祖父は日本ラグビー協会に所属していたので、冬の寒い時期に、いつも連れられて早明戦などの試合観戦に行っていたのですが、子供の頃は正直言って、寒い中で試合を見るのは嫌いでしたね(笑)。
――日本とオーストラリアのラグビーはどう違いますか?
日本にいたころは、ラグビーはメジャーなスポーツではないとずっと思っていたので、こちらへ来て、ラグビー熱の高さに驚きました。イギリス発祥のスポーツであり、15人制のチーム・スポーツなので、学校の中でもラグビーは一番“リスペクト”されるスポーツとして認識されているんです。また、ラグビー・プレーヤーの体格差は一見して違います。オーストラリアの選手はとにかく体が大きくて圧倒されます。その体格の違いからくるプレーのスタイルも全く違っていて、日本はとにかくパスを回してフットワークで走るタイプ。オーストラリアは人もボールもよく動いて前へどんどん突っ込んでいくスタイルだと思います。
――チームでのポジションとその役割について教えてください。
6番、7番の番号を背負うフランカーをしています。スクラムでは最後尾の左右にポジションを取り、パワーとスピード、敏捷(びんしょう)性を生かして、いかに速くボールに到逹できるかが、攻守にわたって要求されるポジションです。味方が捕まった時には、誰よりも速くその地点に駆けつけてボールを奪われないように確保する、そして味方もしくは自分がタックルして相手を倒したら、すぐにボールを奪い取る。フランカーは他のポジションの誰よりも多くタックルに行き、1番よく走り、試合の流れをチャンスに変える重要な役割を果たします。80分間の試合を全力で戦い抜くのはかなりきついのですが、フィールド・プレーでフランカーが苦しい時にでも走り続けることができるのは、俊敏さやパワーだけでなく、スタミナと強い精神力があればこそなんです。
――自分にとってのラグビーとは?
ラグビーは人にタックルしたり、倒したり倒されたり、普段の生活ではできないフィジカルなことをスポーツとしてできるのが面白いと思います。かなりの負けず嫌いということもあって、タックルで倒されると、その分勝って返さないと気がすまないので、自分の性格にも合っているんです(笑)。また、チーム・スポーツなので、選手はお互いに同志のような強い連帯感があって、仲間のために良いプレーができるとやりがいを感じます。自分にとってラグビーは、生活の一部になっているのはもちろんですが、もはや「自分」の一部分です。
――今までで思い出に残る試合を教えてください。
TSSは、GPS(the Great Public Schools’ Association of Queensland)というサウス・イースト・クイーンズランドにある9校から構成されている協会のメンバーで、この9校と公式戦を行います。シニア・スクール最後のこの2年間は、200人の選手がいる6チームの中でトップ2のチームに入ることができ、とにかく良いチームとコーチに恵まれてラッキーでした。昨年は全勝狙いで手堅く7試合を大差で勝ち抜いてきましたが、Nudgee(St Joseph’s Nudgee College)とのファイナル戦で負けてしまい悔しい思いをしました。そして最後となる今年は、毎試合を自分が悔いのないプレーをして締めくくりたいと思っていましたが、まさかの逆転負けや僅差で負けてしまったり、何度か悔し涙を流した無念さが残る年になりました。
――強くなるためにどんなトレーニングをしているのですか?
普段のチーム練習は120分間のトレーニングを週3回、試合を土曜日に行います。その他に週3回ジムに通い、週1回90分間水泳をしています。先ほどの話にあった、去年のファイナル戦で負けて悔しい思いをした試合では、持久力が下がってフルで走り抜けなかったという意識が自分の中にありました。激しい接戦になればなるほど運動量も増していくので、成長して体が大きくなり体重が増えた分、更に体力をつけなければならないと感じました。ビデオを撮って自分の動きを見直したり、現役のトライアスロン選手である父からの正直な意見と貴重なアドバイスをもらって、シーズン・オフの間、ランニングと水泳に精を出して、体をしぼり持久力をつけることに専念しました。
――卒業後の予定とこれからの目標について教えてください。
TSS卒業後は日本の大学でラグビーをやりたいので、日本の大学へ入学するために準備をしています。これから先もずっとラグビーをやり続けていきたいので、将来は外国からの招へい選手が多いパナソニックで社会人ラグビーができたらうれしいです。
――ラグビーをする年少の子どもたちへのアドバイスをお願いします。
ラグビーは、体と体をぶつけ合うコンタクト・スポーツですが、何よりも大事なのは、体の大きさではなく、たとえ相手が自分より大きくても強くても、相手を恐れない気持ちの「強さ」です。けがすることを怖がっていてもダメです。僕も日本人として体が小さい分、メンタルの強さで乗り越えてきました。倒されても起き上がる、タックルして相手からボールを奪うまでは絶対に諦めない辛抱強さが勝利へとつながっていくと思います。
母、ようこさんからのメッセージ
今まで大きなけがもせずにやってこられたことは、親として安堵するところです。今は1日も早く日本の大学が決まって、また次の目標に向かって頑張って欲しいと思っています。今までは、親がアドバイスをして選択肢を用意してきましたが、これからは、自分でトライ&エラーしながら決めていって欲しいですね。