シドニー路面電車、まもなく開業
市内中心部に約60年ぶり復活
シドニーの目抜き通り、ジョージ・ストリートに路面電車が約60年ぶりに復活する。市内中心部を縦断して南東郊外に至る路面電車「ライト・レールCBD・南東線」がまもなく、開業する。NSW州交通局によると、11月21日の時点で開業日は未定だが、サーキュラ・キーから南東部ランドウィックまでの路線「L2」は12月中、途中で分岐して同キングスフォードに至る枝線「L3」は、来年3月の開業をそれぞれ目指している。
全長12キロの線路と19の駅は既に完成していて、テスト運転が行われている。営業運転開始後は、1編成当たり最大450人(バス9台分に相当)を運ぶライト・レールが、ピーク時に最短4分間隔で運行する。ジョージ・ストリートの中心部の大半は通行止めとなり、ライト・レールの線路と駅、歩行者天国が整備され、街の景色は大きく変わった。
ただ、ジョージ・ストリートと東西に走る道路の交差点では、渋滞で乗用車がテスト運転を妨げたり、ライト・レールの車両が交差点の真ん中で立ち往生している光景も見られる。歩行者天国と線路の間には敷居がないため、慣れていない歩行者の安全確保も課題だ。州交通局は左右を確認してから線路を渡るよう市民に注意喚起している。
シドニーでは19世紀から路面電車が網の目のように走り、市民の足として親しまれていたが、モータリゼーションを背景に1961年に全線が廃止されていた。近年は高い輸送力や温室効果ガス削減対策の観点から見直され、市内南部のセントラル駅から西郊ダルウィッジ・ヒルに至る12.8キロの「L1」が2014年に全線開業した。
「CBD・南東線」はこれに続く第2弾の工事として15年に工事が始まったが、市内中心部の工事現場で設計図にない電線が多く見つかったことなどから建設費が膨れ上がり、開発業者が発注元の州政府に損害賠償訴訟を起こすなどトラブルに見舞われた。州政府が当初予定していた19年初頭の開業は約1年ずれ込んだ。
山火事が全豪各地で猛威――NSW州で6人死亡
オーストラリア東部を中心にブッシュファイア(山火事)が猛威を振るっている。東部NSW州では、消防の発表によると11月16日までに6人が死亡し、住宅412棟が焼失した。高温と強風にあおられた火の勢いは収まる気配がない。今後も高温と乾燥した天候が続くと予想されることから、政府・消防は厳重な警戒を呼び掛けている。
南東部VIC州でも各地で火の手が上がり、州政府は21日、州内全域に火気禁止令を発表した。マレーとノーザン・カントリーの両地区には、6段階の山火事の危険度で最高の「コード・レッド」を発令し、危険地域の住民に直ちに避難するよう呼び掛けた。消防は同日、州内150カ所に消防士2,000人、車両500台を投入して消火活動に当たった。
この他、山火事は南部SA州や北部準州などにも拡大している。地元メディアによると、SA州ヨーク半島では20日、約1,000人が住む集落に火の手が迫り、住宅2棟が焼失した模様だ。
ターミナル・ビルのデザイン公表
2027年開業予定の西シドニー空港
2027年の開業を目指す西シドニー空港のターミナル・ビルのデザインが、明らかになった。連邦政府が10月29日に公表した。国際コンペで40以上の案から選ばれたデザインは、太陽光をふんだんに取り入れた高い天井、天然木材を多用した明るいインテリアが特徴。英建築設計事務所ザハ・ハディド・アーキテクツと豪コックス・アーキテクチャーが手掛けた。
シドニー圏で2つ目の国際空港となる西シドニー空港は、市内中心部から直線距離で約50キロ西方のバジェリーズ・クリークで基礎工事が始まっており、来年には本格的な土木工事がスタートする。名称は、豪航空界で活躍した女性飛行士の名前を冠して「ナンシー・バード・ウォルトン国際空港」に決まった。
連邦・NSW州政府は同空港を核に、航空・防衛などの産業を誘致して約20万人を雇用する臨空都市「エアロトロポリス」を建設するなど、空港と一体でシドニー西部に新都市圏を整備する計画。日立と州政府が10月、起業家や中小企業を支援する施設を新都市に設立することで合意するなど、日本企業のインフラ参入にも期待が高まる。地域を縦断する自動運転鉄道「メトロ」の新線や、空港と既存高速道路網を結ぶ連絡道の建設も決まっている。
「石州瓦」に葺き替え工事――カウラ日本庭園・文化センター
NSW中部のカウラ日本庭園・文化センターで現在、木製の屋根板を日本の「石州瓦(せきしゅうがわら)」に葺き替える工事が行われている。石州瓦は島根県で生産される伝統的な瓦で、1枚ずつ手作りで、高い温度で焼き上げられる。厳しい気候や水に対する耐久性の高さや、赤褐色の独特な色調が特徴。工事は11月初旬に始まり、クリスマス前には庭園内の合計1,000平方メートルの建物で葺き替えが完了する予定だ。
日本の工芸品や伝統技術を使った建築資材などを手掛ける会社「シンプリー・ネイティブ・ジャパン」(シドニー)が、石州瓦工業組合(島根県江津市)の協力を得て瓦を提供。在オーストラリア日本国大使館と在シドニー日本国総領事館、日本貿易振興機構(ジェトロ)が支援している。
カウラは第2次世界大戦中の1944年8月5日、捕虜収容所から日本兵が大量脱走して、日本兵231人、豪州兵4人が死亡する事件の舞台となった。戦後、地元の人たちの尽力により、1979年に開園したカウラ日本庭園・文化センターや、日本人墓地、桜並木などが整備され、日本と豪州の和解を象徴する町となった。
同庭園のボブ・グリフィス会長は「庭園全体の統一性を維持するために、江戸時代の建築デザインを忠実に再現することは非常に重要だった。そのために日本の伝統的な製法で作られた瓦を採用することになった」と話している。
紀谷シドニー総領事がメトロ視察
豪州初の自動運転新鉄道
紀谷昌彦・在シドニー日本国総領事は10月30日、シドニー北郊チャッツウッドと北西郊外を結ぶ新鉄道「シドニー・メトロ・ノースウェスト線」を視察した。同鉄道を運営する合弁企業NRTに出資している丸紅の桑田成一・丸紅オーストラリア会社社長が案内役を務め、豪州初の全自動運転システムを体験した。
メトロ・ノースウェスト線は今年5月26日に開業した。全自動運転システムのほか、全13駅に設置したホーム・ドアも豪州初。NRTは2014年、NSW州政府から官民が連携して事業を行う「パブリック・プライベート・パートナーシップ」(PPP)の事業権を獲得した。NRTは今後15年間、運行と保守を担う。36キロの路線に22編成(132両)の車両が最高時速100キロで走行する。
紀谷総領事は「今年5月にシドニーで初めて開業したメトロの運営会社に、日本企業の丸紅が2割出資していることを非常にうれしく思う。鉄道のみならず、病院などの建物、住宅開発など全般的な都市開発も含めたインフラ整備も進んでいる。豪州は右肩上がりの経済成長を遂げていて、インフラ需要がたくさんある。日本の企業や団体が持つノウハウを最大限に活用できるように、後押ししたい。さまざまな機会を利用して、日本企業の強みを関係者に力強くアピールしていく。日本企業や現地政府を含めた意見交換の場も提供していきたい」と語った。
ニュース解説
干ばつ深刻、豪農業に大打撃
生産量12年ぶり低水準に
本格的な夏の到来を前に、豪州東部一帯が約12年ぶりの大規模な干ばつに見舞われている。シドニーでは12月から水道水の使用規制が一段と強化されるなど、日常生活にも影響が出ている。だが、より深刻なのは農業生産への影響だ。水不足による農産品の不作は、農業経営や生産者の生活に打撃を与え、景気を一段と冷え込ませかねない。
スプリンクラーやホース洗車禁止
11月に入り、豪東部ではブッシュファイア(森林火災)の勢いが止まらない。シドニーでは、風に乗って運ばれてくる灰色の煙が大気汚染を引き起こす一方、水不足による影響も出始めている。
NSW州政府は12月10日から、3段階ある水道水使用規制を「レベル2」に引き上げる。庭に水をまくことができるのは午後4時~午前10時、水の量はじょうろまたはバケツ1杯だけに限定される。スプリンクラーは全面禁止。家庭のプールやジャグジーに水を足せるのは1日最長15分間となる。洗車はホースの使用も禁じられ、バケツ1杯の水とスポンジの使用のみ許可される。違反した個人は220ドル、事業者は550ドルの罰金が課せられる。
昨年から続く水不足を解消するため、州政府は年初にシドニー南部カーネルの海水淡水化プラントを稼働させた。同プラントはシドニー都市圏の水道水の最大15%を供給できるが、残りの85%は雨水頼み。6月からは「レベル1」を施行していたが、ダムの合計貯水量は、11月23日時点で満水時の46%まで低下。今後もまとまった雨量が見込めないことから、規制強化に踏み切った。
米生産量は20分の1に激減
とはいえ、都市部では断水などの非常事態が差し迫っているわけではない。庭に水をまけずに芝が枯れても死活問題ではなく、規制の適用外となる商業的な洗車場はこれまで通り利用できる。はるかに深刻なのは、農業を基幹産業とする農村部への影響だ。特に水を大量に使う米生産は、壊滅的な打撃を受けている。
シドニーの南南西約700キロに位置するNSW州リベリナ地区。豪州産米のほぼ全量を生産する同地区は、長引く少雨でかんがい用水の供給が失われ、米生産量が激減した。連邦農業省のシンクタンク、豪農業資源経済科学局(ABARES)によると、17/18年度に63万5,000トンあった生産量は18/19年度に6万1,000トンと10分の1以下に縮小。19/20年度も5万9,000トンにとどまる見通しだという。
州西部では11月初旬、待望のまとまった雨が降ったが、今年度の作付面積はわずか5,000ヘクタールまで縮小しており、「焼け石に水」だ。大幅な減産を受けて、豪米流通大手「サンライス」は、リベリナ地区の2カ所の精米工場で10月に32人、11月下旬に100人の解雇に踏み切った。
豪州の稲作は、明治時代に来豪した愛媛県出身の元衆院議員で実業家の高須賀穣が伝えたのが始まり。現在も中粒米の「ジャポニカ種」が生産量の約8割を占める。豊作の年は100万トン以上の生産能力があるが、今年度はその20分の1の水準まで落ち込む。
かんがい用水に依存する米の作柄は天候に大きく左右される。欧州人の入植以来、最大規模の干ばつに見舞われた07/08年度には、生産量が1万7,600トンまで減少し、豪州から稲作が消滅する可能性も指摘された。しかし、その後は降水量の増加を背景にV字回復を果たしていた。
農業輸出額も2ケタ減へ
豪州の農業輸出額が生産額全体に占める割合は、77%(16/17年度=豪農業者連盟)と極めて高く海外市場への依存度が高い。農業は物品輸出額の18%を占め、鉱業(68%)に次ぐ重要な輸出産業となっている。だが、乾燥した荒野が国土の大半を占める豪州では、数年から10年程度の間隔で発生する大規模な干ばつから逃れることはできない。
現在、NSW州とQLD州を襲っている干ばつは、史上最悪とされた2000年代後半の「ミレニアム・ドラウト」以降で最大の規模となった。ABARESによると、19/20年度の農業生産量指数は、主力の小麦などの冬作物が史上最高の豊作となった16/17年度から15%下落し、09/10年度以来12年ぶりの低水準となる見通しだ。雨に恵まれたVIC州やSA州、WA州では冬作物が好調だが、NSW州とQLD州ではコメなどの夏作物、冬作物が共に不作で、全体の数字を押し下げた。
干ばつによる農業部門への打撃は、減速している景気をさらに冷え込ませる恐れがある。豪準備銀によると、農業部門の総生産は18年半ば以降、干ばつの影響で8%下落した。ABARESによると、19/20年度の農業輸出額が436億3,600万ドルと前年度比11.4%減少する見通しだ。7日付の経済紙「オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー」は、「干ばつはGDPを0.2ポイント押し下げる」との見方を伝えた。
一方、連邦政府は7日、干ばつで困窮している農業生産者への追加支援策を発表した。無利子融資の拡大、農業関連中小企業への融資、SA州にある海水淡水化プラントの農業利用などが柱で、予算規模を総額10億ドルに拡大する。
厳しい暑さと日照りは今後も続きそうだ。豪気象局の12月~来年2月の長期予報によると、降水量はNSW州とQLD州のほぼ全域で平年を下回り、最高気温は全州で平年を上回る見通し。水不足を解消するには「平年を上回る降水量が数カ月間続く必要がある」という。
豪州の干ばつは、国内にとどまらず、国際的な食料流通にも影響を与える。2000年代の前回の干ばつ時には、豪州産小麦の不作が引き金となり、07年から08年にかけて世界で食料価格が高騰。食糧難となった途上国では暴動が頻発する事態に発展した。
豪州の農産品は日本の食文化にも重要な役割を果たしているだけに、干ばつの影響は無視できない。例えば、讃岐うどんのほとんどが原料に豪州産小麦「オーストラリアン・スタンダード・ホワイト」(ASW)を使っている他、仙台の牛タンも豪州産が多いと言われている。恵みの雨が大地を潤すまで安心できない。