日豪プレスの2022年最終発行号に寄せて、1年間のオーストラリアでの不動産市場の動向を振り返ってみることにしましょう。未曽有のパンデミックからの経済復興下、豪州不動産の移行を確認します。
社会の変化とその影響ーー記録的な賃貸空室率
まず、今年の最大の特徴としては、2020~21年に社会生活に多大な影響を与えたコロナ禍からの脱却が社会的背景として挙げられるでしょう。
経済は停滞期からの復興状態が顕著になり、経済活動の正常化と共に深刻な人手不足や収入増の傾向も見られました。連邦・州等政府のさまざまな規制が緩和や撤廃されたことで、パンデミック前ほどではありませんが海外からの渡航者は戻りつつあり、人口も順調に増えています。
不動産業界では、昨年不動産価格が史上最大の上昇率を記録。22年には賃貸家賃が、コロナ禍下でインパクトを受けた都心アパートなどを中心に、記録的に上昇するエリアもありました。また同時に、人口増加から空室率が急低下し、22年9月の全豪の空室率はついに1%以下となったことが発表されました。
この前代未聞の賃貸需要の増加は、賃貸者の物件の借り入れを困難にするだけでなく、競争による更なる家賃上昇という、賃貸者にとっては望ましくない結果をもたらしました。
不動産価格高騰に対する政府対応と施策
これらの賃貸空室率の低下は、既存住宅が高額過ぎて購入しにくいという社会状況を反映しているとも言えます。では豪州政府はその対応策をどのように考えているのでしょうか。
昨年の史上最大の不動産価格高騰を受け、豪州政府は今後の極端な価格の値上がりを抑制するために、一旦、コロナ禍期間中に下げた法定金利を徐々に上げ、過熱する購入動向に水を差そうとしています。
この影響により、2年後には15%もの不動産価格の下落を予測する金融機関も存在しています。その効果予測が的中するかどうかは、今後の需要と供給のバランス次第とも言えます。
また、不動産価格の上昇によって、初めての自宅を購入しにくくなっている状況を是正するため、9 年ぶりとなる労働党による連邦新政権は2023年1月16日から、「First Home Buyer Choice」という施策を導入するとしています。
「初めての自宅」として150万豪ドルまでの物件を購入する場合には、印紙税を購入時に一括で支払うか、Property Taxを支払うかを選択できるようになり、これまでに比べて購入者の選択肢が増えています。これらの有利な条件を利用して自宅購入を検討している社会層も急増中です。
インフレ―ションと不動産の緊密な関係性
不動産価格高騰の抑制を目標とした対応がされる中、更に深刻な供給側の事情もあります。インフレーションに伴う建築原材料費の値上がり、輸入機具・部材の入手困難、人件費の上昇、建築場所である地価の上昇です。
特に建築資材に関しては、戸建て住宅、マンション、事務所、工場、商業施設、物流施設などを建設する際に必要な木材、鋼材(鉄筋や鉄骨)など、主要な建設資材の価格が高騰したことにより、全体的な建設資材の物価が上昇傾向にあると言われています。
中でも木材は、米国での住宅用建築の増加が引き金となり、全世界的に需給が逼迫したことで価格が上昇しつつあると見られています。また鋼材は、世界的な需要の高まりを受け、原材料である鉄鉱石や原料炭の価格が上昇し、鉄筋や鉄骨などの価格高騰につながっています。
このような豪州国内外のさまざまな影響によって、今後新規に建築される住宅物件に関する費用の増加は避け難い状況であると言え、ディベロッパーやビルダーなど住宅製造企業の負担も増えています。
今後の不動産価格は上昇? 下落?
今後の不動産価格の上昇につながる要因として挙げられるのは、以下の通りです。
・海外からの流入者による人口増加
・ 賃貸家賃高騰により「賃貸⇒購入」への移行のトレンド
・資材高騰による建築費用の増加
・インフレーションによる物価高
しかし、豪州政府が今後も法定金利を上昇すれば、市場の冷え込みや、投資家の買い控えなどが予測され、銀行発表のような価格の低下も見込まれます。そして、政府の施策によってファースト・ホームを購入する若い層や新移民にとって購入しやすい市場が広がれば、「手の届きやすいマイホーム購入者」が増えることも予測できます。
このように2022年の不動産市場は、賃貸者に厳しい一方、購入者には良いチャンスとなった年と言えます。法定金利は毎月第1火曜日の午後2時に発表されます。豪州の不動産市場の動向は引き続き、来年も目が離せない状況になりそうです。不動産にまつわるトラブルを避けるため専門家の意見をご参照下さい。
●賃貸物件空き室率
出典:DOMAIN RESE ARCH(https://w w w.domain.com.au/research/vacancy-rates-august-2022-1164176)
鶴美枝
グローバル・インテリジェンス・マネージメント代表。創業2010年以来、豪州各地の優良不動産を厳選し、豪州及び日本在住のホーム・オーナー若しくは投資家の方々の購入をサポートし資産増幅、理想の住まいの確保に日々尽力中。日本と豪州にて法学部大学院卒業。豪州不動産フルライセンス保持。