ホテル隔離ルポ、シドニーから東京へ(2)
──隔離中のメリー・クリスマス、クオリティー・オブ隔離ライフ向上
(文・写真:馬場一哉)
空港到着から4時間半後、行き先を知らされぬままバスに乗り込み、その後首都高を経て到着したのはまさかの実家至近のホテル。どのような生活を送ることになるのか全くよく分からないまま初日を迎えたが、1日の終わりにはリズム、ルールを頭の中で整理することができた。ざっとまとめるとこんな感じだ(時間は隔離施設によって異なる)。
- ・部屋から出ることはできない
- ・食事は決められた時間前後にドアノブに掛けられる(朝食8:30AM、昼食12PM、夕食6PM)
- ・ゴミは提供された食事が入った袋に入れ、縛った上でドアの前に置いておく(要分別)
- ・飲酒は禁止(ノン・アルコール・ビアなどはOK)
- ・退所後は指定のバスで到着時空港に戻される
- ・毎朝8AMに流れるアナウンスにしたがって検温、健康管理チャットに報告
- ・同様にアプリ「My SOS」に報告
- ・待機期間中、3日目、6日目、10日目の6AM〜6:30AMの間に新型コロナウイルス定性検査(ドアノブに掛けられた検査キットで唾液を採取、ドアノブに戻す。定性検査の結果は陽性ならばその日に連絡が来る。陰性ならば連絡なし)
- 6:00 定性検査キット配布の連絡
- 8:00 検温及び、健康状態報告の連絡
- 8:30 朝食配達の連絡
- 12:00 昼食配達の連絡
- 18:00 夕食配達の連絡
- 20:00 翌日の検査キット配布、及び提出に関する連絡
- ・家族などからの差し入れ(「など」となっているので広義では知り合いも可だろう)
- ・デリバリー、ネット・ショッピングの利用(カードなどの事前決済のみ、すぐに届けられない可能性があるため生モノ、冷凍・冷蔵品はNG)
「食」のクオリティ・オブ・隔離ライフを改善
初日を終え、朝昼晩おいしい弁当が配られることが分かり安心した一方で、6日間、全17食(最終日夜は退所後のためなし)ということを考えると課題も同時に見えてきた。以下、僕の感じた課題と、対応を紹介する。
(1)温かい食事がない
部屋に電子レンジが備えられていないので弁当を温めることができない。真冬ということも相まって、毎食冷たいのはきつい。部屋にはケトルが備え付けられていたので、インスタント味噌汁、簡易ドリップコーヒー、似た内容が続き飽きてしまった時のためにインスタント・ヌードルを差し入れてもらった。
また、弁当自体の温めにもトライした。ケトルで沸騰させた熱湯と弁当の蓋を使って全体をスチームするなど試行錯誤を繰り返してみたが失敗。最終的には洗面所に熱湯を張りその上に浮かべ下から温めるという方法に落ちついた。器が薄いプラスティックなどであれば「表面がちょっと温かい」レベルまではいけた。
(2)野菜不足の解消
弁当自体のクオリティは高く、味もおいしかったが、毎日の食事と考えると明らかに野菜が足りていない。そこで、ウーバー・イーツを利用して、サラダ専門店のサラダをデリバリーすることにした。頼んだのは、地元で人気のパワーサラダ専門店「HIGH FIVE SALAD」の「プロテインパワーコブサラダ」。同店は美容、アンチエイジング、疲労回復、筋力アップ、免疫力向上の5つの機能を持たせたサラダ・メニューを揃えており、どのサラダも1日に必要なタンパク質の3分の1以上を含んでいるという。
主食にできる量のため、冷蔵保存しながら2日間3食分の前菜サラダとして食した(食材によっては消費期限にお気を付けを)。都内にはサラダをテーマにしたお店が数多くあるのでこのようなお店を周辺エリアで探してみるといいだろう。イメージの参考までに同店のリンクを貼っておく(地元だからって贔屓しているわけではない)。
■パワーサラダ専門店「HiGH FIVE SALAD」
僕の場合、家族が近くにいるロケーションだったため必要なものをすぐに差し入れてもらえたのはラッキーだった、しかし今は注文商品の当日届けも可能な時代。住所が判明してすぐに注文すれば、そう待たされるようなことはないだろう。
また、「もったいない」という意識から、僕は配給される「弁当」を主軸に足りないものを補うというスタンスを取ったが、合わない方は思い切って「ウーバー・イーツ」「出前館」などのフード・デリバリー・サービスで都内の気になる店のメニューをいろいろテイスティングするという楽しみ方も、この際ありかもしれない。
不意打ちのコンビニ・サンド、クリスマス・ケーキの差し入れ
2日目、3日目を過ごし隔離生活の食生活にもすっかり慣れた4日目、12月25日(クリスマス)。
「お待機中の皆様にお知らせします。お食事の配達が完了しました……」
午前8時30分、唯一のくつろぎスペースであるベッドに座ってテレビを観ていると定例のアナウンスが流れてくる。
「お待機中」、そんな日本語あるかいな……。
毎度のことながら頭の中でツッコミを入れつつ、ベッド脇に降りる。ドアを薄く開け、廊下側のドアノブに手を伸ばし、掛けられていた袋を外し、部屋へと引き入れる。
軽い。
そう思いながら中身を見ると、袋の中に入っていたのは、某コンビニエンス・ストアのサンドイッチであった。
「May I have your attention please…」
アナウンスはいつの間にか英語に変わっていた。
朝はコーヒー、ヨーグルト、もともと普段はそれくらいしか口にしないため、毎朝届く弁当はたしかに僕には重かった。それを考えると、むしろこれくらいがちょうどいい(のかもしれない)。サンドイッチの具材はチキン。うん、クリスマスにピッタリの具材ではないか。
味もうまい。OK、OK。
サンドイッチを「秒」で食べ終わり、ケトルでお湯を沸かし、コーヒーをドリップ。暖かなコーヒーを飲みながら、しかし、と考える。
なぜ、銀座の仕出し店の弁当から、いきなりコンビニ・サンドへとダウン・グレードしたのか(コンビニを悪いと言っているわけではない)。
前夜はクリスマス・イブ。繁忙期で対応できなかったのだろうか。
あるいは3日ローテーションで食事供給元が変わるシステムなのか。もしそうだとすると、次の3日はずっとコンビニ飯!?
あるいはこの隔離日記に気づいたスタッフの仕込みか!?(そんなわけはない)……。
外に出ることもできないため、何となく釈然としない気持ちと共にもやもやと考え事をしているうちあっという間にランチの時間になった。
届けられた弁当はいつもの仕出し店からのものに戻っていた。だが、焼肉弁当という名に対して肉、そしておかずのバリエーションも少ないなどその内容はいつもより頼りないものであった。
推論。クリスマスで現場の手が足りないなど、何かしらの理由で供給が追いつかなかったのだろう(なお、夜からは元のクオリティに戻った)。
さて、日中、地味にごちゃごちゃと考え事をしていると、突然フロント(正式にはコールセンターと呼ばれている)からのコール音が鳴った。
「ご家族から差し入れがありましたが、間違いないですか?」
たしかノンアルコール・ビアの差し入れを頼んでいた。
「間違いないです。お届けお願いします」
しばらくするとスタッフがドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、既に荷物を置き立ち去るスタッフの背中が廊下の先に見えた。ドア前に置かれた袋を回収し、部屋の中で開けると、ノンアル・ビアに加え、クリスマス・ケーキ、そしてスパークリング・ワイン(ノン・アルコール)が入っていた。
……。
ありがとう。
そしてメリー・クリスマス。
室内エンタメ、ボディ&メンタル・ケア
食生活の充実に加え、長い時間を過ごすことになる部屋の中でどのような充実した時間を過ごせるかという点も重要だろう。今回に限らず、出張など1人で過ごすことが多い旅行の際、僕が必ず荷物に入れているのが数冊の文庫本とHDMIケーブルだ。
文庫本もベッドサイドでじっくり読む長編小説、湯船に浸かりながらサクッと読める短編集、その他、ビジネス系など気分やシーンに応じて読み分けられるようにバリエーションを持たせることに加え、普段億劫で手が伸びないままになっていた少々手強い本を混ぜるようにしている。普段の生活では好きなものばかり読んでしまうが、1人時間を過ごさざるを得ない時こそ、こうした本を読み進める良い機会だと思う。
また、HDMIケーブルを1本持っていると、ラップトップの画面をテレビの大画面に映せるので便利。映画などに没入すれば、狭い部屋の中にいることも簡単に忘れられる。施設のテレビが古くHDMIケーブルをつなげないケースもあるかもしれないが、経験上、よほど古いビジネス・ホテルでなければ大概つなぐことができる。
そして忘れてはいけないのが、体と心のケアだろう。全く運動ができない環境の中、体がこわばるなど固まってしまわないようにすること、そして気が滅入らないようにすることが何より大切だ。両者はリンクしており、どちらもないがしろにはできない(ことを経験から実感したことがある)。
そんな中、僕が必ず旅行で持参するものの1つにマッサージ・ボールがある。ボール型のマッサージ機で、ボタンを押すと全体が振動する。首や肩、腰、腿裏などベッドで寝転がって、あるいは椅子に座って、さまざまな体勢で気になるところを効果的にほぐすことができ、アスリートの利用者も多い。仰向けになって体の下に置けば、自重を使った強いマッサージ効果も期待できる。ボール型なので旅行バッグの端など隙間にうまく入るのもグッドだ。
そして滞在中、思い立ってアマゾンで注文したのが「湯の花」と「アロマオイル」だ。もともと風呂好きだが、隔離生活の中ではいつも以上に心と体をほぐすことが大切と思い、入浴の時間をより充実したものにしたいと考えた。
結果、1日2回は湯船に入るようになった。日中一度運動代わりに汗をかくと共に体をほぐし、夜はバスルームの電気を消し部屋からの間接照明、You Tubeでリラックスできる音楽を流しながら、目と耳と心を癒やしている。
アロマオイルは湯船に入れて楽しむこともできるし、カップにお湯を入れオイルを数滴垂らせばベッドサイドで香りを楽しみながら眠りへの誘いとすることもできる。その昔、ストレスまみれの生活を送っていた時に多少かじった知識だ。そして何よりオーストラリアに比べて価格がはるかに安いのがうれしい。
ウーバー・イーツ、差し入れ、そしてアマゾンの活用でクオリティ・オブ・隔離ライフは大幅に向上した。快適な時間を送れるようになったことに伴い、この生活が数日で終わってしまうことをちょっと残念に思う気持ちも少し芽生え始めた。どこも住めば都、ということか。
P.S. 行きの飛行機〜到着後の空港で3人の子ども(そのうち1人は1歳くらいの赤ちゃん)を連れたママさんを見掛けた。1人ならではの寂しさはあるものの自分のために時間を使える僕と異なり、子連れ隔離生活は本当に大変だろう。バスは一緒ではなかったので滞在先は異なるが頑張ってくれていることを願う。
(次回、第3回は29日配信予定)