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【特集】2019/20連邦政府予算案

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2019/20連邦政府予算案
松本直樹
政局展望

来年度連邦予算案の特徴

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー
松本直樹

4月11日(木)、自由党・国民党保守連合政権のモリソン首相が、大方の予想通り、来たる5月18日(土)に下院の解散選挙と上院の半数改選選挙を同時に実施することを公表し、いよいよ5週間にわたる選挙戦の火ぶたが切られた。一方、それに先立つ4月2日(火)、モリソン政府は、通常の公表日よりも1カ月程前倒しにして、来年度連邦予算案を公表している(注:通常、連邦予算案は5月の第2火曜日、正確には同日の午後7時半に解禁、公表される)。保守連合政権が誕生したのは2013年の9月であったことから、同政権としては今回で通算6回目の予算案の公表となる。

2019年連邦予算案の概要

アボット/ターンブル/モリソン保守政権の全6回の予算案に共通しているのは、やはり国家財政の再建を重視するという姿勢である。財政の状況は、有権者にとって政党の経済運営能力を判断する上で重要な材料であり、そのためリーダーシップへの評価や好悪と並んで、有権者の投票行動を決める重要要因でもあるからだ。ただし、中味は各予算案ごとにかなり異なっている。ところが今次19年予算案で採択された方針や路線は、恐らく次期連邦選挙前の最後の予算案になると予想されていた、昨年5月公表の18年予算案と驚く程類似したもの、それどころか「双子予算案」と形容すべきものとなっている。

要するに、今次予算案の特筆すべき特色とは、昨年の予算案の政策路線などをそのまま踏襲した上で、内容を「量的に拡大」したものという点にある。具体的には、今次予算案も18年予算案と同様に、選挙直前予算案の例に漏れず、包括的な個人所得税の大幅減税策や運輸インフラを中核とする大規模な整備プロジェクトを予算案に盛り込み、しかも教育や保健・医療といった、基盤的サービスを提供する部門にも十分な歳出を行い、他方で、アンダーライング(基礎)現金ベース財政収支の黒字転換を確実にし、しかも以上のことを、他部門の増税や新税の導入、もしくは他部門の厳格な歳出カットという方策によらずに、達成しようとしている。

ただ19年予算案では、予測を上回る法人所得税収や個人所得税収の一層の増加に助けられて、例えば18年予算案内の大規模な個人所得税減税やインフラ整備に、莫大な追加予算措置が盛り込まれているのだ。現時点では、その「寛大さ」と「規律性」故に、19年予算案の評価は政府にとって満足のいくものとなっている。以下、特徴をより詳しく見てみよう。

特徴1:有権者懐柔の個人所得税減税

自由党・国民党保守連合政権のモリソン首相
自由党・国民党保守連合政権のモリソン首相

そもそも財政的に余裕がある場合、労働党が教育や医療サービスといった、社会資本への歳出増加を通じて国民に還元する傾向があるのに対して、個人主義を標榜する自由党の場合は、所得税の減税を通じて還元することが一般的である。実際にターンブル前保守連合政府は、同政府としては初の16年予算案の中にも、個人所得税の減税策を盛り込んでいる。16年予算案は、前回16年選挙の直前に公表されたものであったが、ただその中の減税策は、選挙対策としては穏当過ぎるものであった。

むしろ16年減税策は、当時のモリソン財務大臣(現首相)も繰り返し強調していたように、いわゆる「ブラケット・クリープ」効果対策に過ぎないものであったと言える。これは、インフレに伴う賃上げによって名目賃金が上昇し、その結果、多くの就労者の個人所得に一段高い税率が適用され、税収入が増加する現象を指す。実質賃金/給与が上昇しない一方で、納税額だけが増加する「ブラケット・クリープ」の存在は、国民の勤労意欲を削ぐものであることから、政府としては「敷居」の上昇などを通じて、頻繁に同現象を回避することが必要となる。16年予算案の減税策は、そういった「ルーティン的」なものであった。

これに対して、昨年公表された18年予算案に盛り込まれた個人所得税減税策は、多くの納税者がほぼ永続的に「ブラケット・クリープ」効果自体から免れることを狙った、構造的な変更であった。減税策は3段階/ステップから構成されており、第3段階の実施はFY2024/25からという、相当に長期的な減税計画となっていた。減税第3段階の実施後には、94%の納税者に適用される限界税率は、最高でも32.5%となり(注:現行制度のままでは納税者の63%のみ)、多くの納税者が「ブラケット・クリープ」の頸木(くびき)から逃れることとなる。

実際に現在4万1,000ドル以上の所得層のほとんどは、一生働いてもより高い限界税率が適用されることはないものと見込まれていた。そして18年予算案の「目玉」であった個人所得税の減税策は、今次予算案内の「目玉」として再度採択されている。しかも減税政策の基本コンセプト、枠組みは現行政策とほぼ同じで、相違点は減税の規模、すなわち量的な相違に過ぎないものである。しかしながら、「量的な相違」とは言っても、その規模の差は極めて大きなものとなっている。

すなわち、18年予算案で公表され、法制化も完了した減税規模が、向こう10カ年度で総額1,440億ドルであったのに対し、今次19年予算案に盛り込まれた所得減税策は、これに更に1,580億ドルが追加されて、向こう10カ年度の減税総額は実に3,020億ドルと、倍増されているのだ。追加減税政策の結果、FY2024/25以降、限界税率が最高でも19%となるのは納税者のうちの24%、30%となるのは全体の70%、そして最高限界税率の45%が適用されるのは、全体の6%になるものと予測されている。

特徴2:運輸インフラストラクチャー整備

第2の特徴は運輸インフラの整備である。実はインフラの整備策も、18年予算案ばかりか、17年予算案でも重視された政策であった。実際に17年予算案では、全国的に意義深い運輸インフラ整備プロジェクトに対し、向こう10カ年度で総額750億ドルもの整備計画が明らかにされていた。その背景には、ターンブル政府が16年予算案以降、成長戦略の中核に据えてきた方策、すなわち、中・長期法人税減税策の行方が相当に不透明との政府の判断、そして政府が同じく経済成長路線の「ビークル」と位置付けてきた、生産性向上のためのイノベーション促進策が、期待していた政治的効果も、経済的効果も上げてこなかったとの事情があった。

以上のように、17年予算案における運輸インフラ整備策は、主として経済成長の「ビークル」として期待されていたものだが、245億ドルを拠出した18年予算案におけるインフラ政策は、もちろんそれも重要であったものの、むしろ直接の目的は選挙対策にあった。具体的には、都市部や都市郊外の人口増加に伴い、運輸インフラの不備に住民の不満が高まっていることへの対処と言えた。

一方、19年予算案であるが、今次予算案も過去2年の予算案と同様に、道路、鉄道、橋、港湾といった、運輸インフラ整備プロジェクトに高い優先度を置いている。19年予算案では整備プロジェクトに250億ドルが追加され、向こう10カ年度のインフラ整備の総額は合計で1,000億ドルと、大きく拡大されている。

ちなみに、19年予算案におけるインフラ整備の戦略上の位置付けとは、過去2年の予算案の折衷、すなわち、17年予算案の最大の目的であった生産性の向上を通じた経済成長の実現と、18年予算案で追求された有権者懐柔という目標を、同時に達成するというものである。ただ、有権者懐柔策としてのインフラ整備に関しては、18年予算案が、主としてシドニーやメルボルンといった都市の郊外の有権者への懐柔を主目的としていたのに対し、19年インフラ整備では、連立先の与党国民党の懐柔も狙って、地方有権者の喜ぶ地方インフラ整備を昨年よりも重視している(注:ただ通勤や通学時間の短縮化を目指した郊外有権者懐柔策には、依然として高い優先度が与えられているが)。

インフラ整備に関する両予算案のもう1つの違いは、ターンブル指導下の保守政府が、連邦主導のインフラ整備を目指してきた一方で、モリソン指導下の保守政府は、州等政府との共同、協調によるプロジェクト推進を重視していることだ。

特徴3:経済運営能力の誇示

大型の個人所得税の減税策という「バラマキ」や、大型の運輸インフラ整備策という「バラマキ」に加えて、19年予算案の第3の特徴と見なせるのは、やはり昨年の予算案と同様に、それが保守連合の経済運営能力を強く誇示したもの、同能力を喧伝することを前面に掲げたものである点だ。すなわち、両予算案共に、財政再建、具体的には、可及的速やかにアンダーライング現金収支を黒字転換することに、高い優先順位を与えている。

18年予算案と同じく今次予算案も、最近の予測を上回る法人税収入や個人所得税収の増加(注:好調な資源部門や雇用市場、そして「ブラケット・クリープ」によるもの)、他方で、例えば全国身障者保険制度(NDIS)など、重要政策分野の歳出が予測を下回ったことなどにより、相当にポジティブなものとなっている。しかも保守政府は、潤沢な資金を選挙対策の「バラマキ」にのみ使うのではなく、財政収支の健全化のためにも活用し、今次予算案では、昨年の予算案と同様に、来年度(FY2019/20)にはアンダーライング現金収支が12年ぶりに黒字に転換すると宣言している。これが、今次予算案の最大の「ハイライト」ともなっている。

キャンベラの国会議事堂(Photo: Tourism Australia)
キャンベラの国会議事堂(Photo: Tourism Australia)

予算案によると、来年度の財政黒字幅は71億ドルと、18年予算案で予測された22億ドルをかなり上回り、また「予算の将来見積もり」、すなわちFY2019/20からFY2022/23まで4カ年度の黒字合計は450億ドルと予測されている。「予算の将来見積もり」の期間中、黒字幅がピークとなるのはFY2021/22の178億ドルで、これはGDPの0.8%に相当する。一方、翌FY2022/23の黒字幅は、GDPの0.4%に相当する92億ドルと予測されている。また財政黒字の幅が、目標であるGDPの1%に達するのは、FY2026/27と予測されている。

一方、政府の借金、すなわち、政府(公的)純債務残高の問題だが、19年予算案では、この政府純債務残高についても、FY2029/30までにはゼロになると豪語している。はるか将来のことではあるものの、やはり一定の評価を受けるものと言えよう。

予算案の行方

以上のように、確かに僥倖(ぎょうこう)もあったものの、モリソン保守政府の初回予算案は相当に優れたものとなっている。ただし、その行方は限りなく不透明である。

言うまでもなく、5月18日には下院の解散と上院半数改選の同時選挙が実施されるからだ。今次予算案の行方は、偏(ひとえ)に次期選挙の結果次第であり、仮に大方の予想通りにモリソン保守連合が敗北を喫した場合には、今次予算案内に盛り込まれた重要政策のほとんどが無意味となる。そして政権党となった労働党は、独自の政策を施行させるべく、鋭意努力することとなる。

一方、大方の予想に反してモリソン政府が再選を果たしたとしても、与党保守連合が上院で過半数を制する可能性は皆無であり、従って政府の重要政策施行法案の行方もやはり不透明と言える。

キャンベラの国会議事堂(Photo: Tourism Australia)
キャンベラの国会議事堂(Photo: Tourism Australia)

2019/20連邦政府予算案
菊井隆正

総選挙を目前に控えた保守連合の連邦予算案

Ernst & Young
EYパートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
オセアニア/アジア太平洋地域統括
菊井隆正

2019 / 20年度オーストラリア連邦予算案が19年4月2日にジョシュ・フライデンバーグ財務相によって発表された。今回はこれといって特筆すべき政策は発表されなかったが、おおむね健全な予算案ではある。総選挙が目前に迫る中、票さえ集められれば良いという誘惑を断ち切り、予想以上に堅調だった経済の成果による恩恵を生かしながら、特定の景気刺激策を行うというバランスの取れたものと言える。また、好景気はこれまで堅調だったコモディティー価格に起因しているが、政府の先行き見通しではコモディティー価格を当てにしない構図となっている。今回の予算案における経済、及び日系企業の関心が高いと思われる税制上のポイントに焦点を当てて簡単に解説したい。

経済

財政規律を重視

政府は19/20年度の黒字をGDPの0.4%、71億豪ドルと見積もっている。黒字額は、翌年以降毎年増加し21/22年度にはGDPの0.8%でピークを迎えると予想されている。経常的歳入が経常的歳出を上回り、債務を圧縮しながら企業の設備投資の手当てをすることができるであろう。つまり財政黒字化及び債務の支払いという大筋の軌道に変更はない。財政見通しの前提条件である基礎的な経済予測はおおむね信頼できるものであり、GDP予測は民間予測より若干高いものの、オーストラリア準備銀行(RBA)の予測と一致している。またコモディディー価格の前提も保守的である(図1、図2)。

図1. 基礎的現金収支

図1. 基礎的現金収支

堅調な経済により19/20年度の財政収支は黒字を達成。ただし、20/21年度以降に期待できる黒字は縮小する見込みで、特に22/23年度は個人所得税減税を反映して縮小

図2. 一般政府純負債

図2. 一般政府純負債

財政規律は重視されており、3,730億ドルに上る債務残高は今後時間を掛けて返済することができる

目玉は低・中所得者への減税

予想通り、今回の予算案の目玉は今後10年間にわたる3,020億ドルの所得税の減税策である。まず即効性のある施策として低・中所得者への税控除拡大が足元の景気への刺激となることが期待される。18/19年度の個人所得税申告を済ませることにより、約450万人の納税者が、単身世帯で1,080ドル、共働き世帯で2,160ドルに上る還付を受けることになる。最近のEY Sweeneyが行った調査では、オーストラリア人のほぼ3分の2が高騰する生活費、基礎的サービスの費用、エネルギー価格について大きな懸念を持っていることが明らかになった。このように個人消費が国内の主なリスクであることから、減税は時宜にかなった景気刺激策であると言えるが、還付金が思惑通り支出に回されるかどうかが要となる。

減税が消費を喚起

政府は下落が続いている住宅価格に起因する逆資産効果が個人消費に影響を与えていることを認めつつも、個人消費の伸びについて、18/19年度の2.25%から、19/20年度には2.75%、20/21年度には3%に上昇すると見積もっている。これは減税分が支出に回されることを見込んだものである。賃金の伸び悩み、史上最高の家計債務、非裁量支出が家計に占める割合の大きさ、住宅価格の下落など家計が直面する多くの課題を考えると、これは楽観的な予想に見える。

中小企業への支援拡大

中小企業に対する即時資産償却枠の拡大や、中小企業に対する税率を25%まで引き下げる提案の前倒しなどの刺激策は、現在逆風にある中小企業を支援する。政府はオーストラリアで雇用を生み出す企業や、即効性のある景気浮揚につながる企業に注目している。家計にばらまくよりも、追加的な現金の利用方法としては生産能力向上につながり、経済の観点から賢明である。

賃金上昇予測は楽観的

しかし、政府の賃金上昇の予測は過剰である。失業率が5%のまま推移するにもかかわらず、予算案では賃金の伸びが加速すると見積もっており、賃金指数(Wage Price Index)は18/19年度の2.5%から20/21年度には3.25%に上昇すると予測されている。RBAの直近の金融政策報告では21年6月の賃金上昇の伸びを2.6%としており、政府の予測はRBAに比べて非常に楽観的である。雇用の伸びの予測は合理的であるが、CPIについてもRBA及び民間のコンセンサスよりも速いペースで回復すると予測されている。これは今後の見積もりに大きなリスクとなる(図3)。

図3. 賃金と雇用

図3. 賃金と雇用

賃金上昇は非常に楽観的である。雇用の伸びが鈍化していることもあり、税収のほぼ3分の2を占める所得税には大きなリスクがある

インフラ投資を引き上げ

政府はインフラ投資の予定額を750億ドルから1,000億ドルに引き上げることを発表した。インフラ投資はオーストラリア全土で行われるが、即投資が実行されるわけではない。インフラの供給能力に限りがあることを考えると、これは合理的であるといえ、現実問題として今すぐにより多くの大規模プロジェクトを推し進めるのは容易ではないであろう。政府は、誰もがインフラ計画のメリットを感じられるよう、大いに配慮している。

イノベーションと生産性に関する施策はわずか

予算案には、イノベーションと生産性に関する対策がわずかしか盛り込まれておらず、これは期待外れである。例えば、学校及び職業教育・訓練(人材不足の職種における8万人の新たな実習生枠)、基礎的な読み書き計算能力とデジタル・スキル(小規模事業向けの規制緩和)などが盛り込まれている。しかし、1人当たりで考えれば18年後半には景気後退に入っており、これこそ長期的な経済の課題である。今までの景気拡大は経済活動への参加率や生産性の向上によるものではなく、人口増加に後押しされていたということである。歴史的に見て経済活動への参加率は既に高い水準にあり、今後の成長や生活水準の向上には生産性改善が欠かせない。これから政府の注力が必要になる分野である。

地方や遠隔地への送電能力を強化

エネルギーについては、マリナス・インターコネクター(Marinus Interconnector)を通した送電能力強化など、優れてはいるものの規模は小さい取り組みが盛り込まれている。重視されているのは、マイクログリッド(小規模発電網)によって地方及び遠隔地の顧客への送電を改善することである。また、地域社会における弱者を対象として電気料金を引き下げることで、生活費の負担軽減も目指している。しかし、未来型電力システムの実現に向けて(特に今年度予算案ではほとんど注目されていない送電セクターなど)、政府は更に多くの対策ができたはずで、今後も手当てしていく必要がある。

税務

中小規模企業に対する一括減価償却規定の適用を拡大

現行の事業資産に対する一括減価償却制度を19年4月2日以降、2部に分けて拡大することが発表され、修正法案は一括減価償却制度拡大に向けて迅速に議会に提出された。

年間売上高(Aggregated Turnover)が1,000万ドル未満の小規模企業向けの一括減価償却の上限が2万5,000ドルから3万ドルに引き上げられる。この措置は19年4月2日以降に初めて使用、または設置され使用可能な状態となった資産に適用される。

年間売上高が1,000万から5,000万ドルの中規模企業についても一括減価償却の上限が適用される。19年4月2日以降に取得され、19年4月2日から20年6月30日までに初めて使用、または設置され使用可能な状態となった資産に対し、中規模企業向けの新たな規定が適用される。

なお、予算案にある年間売上高はグローバル・レベルでの関連企業グループの年間売上高を基準とする可能性がある。

ATOの租税回避タスクフォースの強化

ATOは今後4年間にわたり10億ドルの財政支援金を受け取り、租税回避タスクフォースの運用の拡大に充てる。この期間中、46億ドルの追徴課税が見込まれている。

租税回避タスクフォースは多国籍企業、大規模上場企業及び非上場グループ、トラスト、富裕層個人を対象としたコンプライアンス調査活動に着手するものである。

ATOの雇用主の義務に関する調査の強化

所得税及びスーパーアニュエーションの未払い額に関する調査のため、4,200万ドルもの追加支援金がATOに支給される。この調査は大企業及び富裕層個人を対象とするものとなる。この追加資金によってATOは大きなリソースを得られることとなり、シングル・タッチ・ペイロールから入手した情報を使った調査及び罰則の強化が想定される。提案されていた従業員年金保障(Superannuation Guarantee)に関する特赦が議会を通過しなかったことから、企業は給与データを見直し、必要に応じて自発的な開示を検討することも必要となってくる。

研究開発税制優遇制度――不透明性

研究開発(R&D)税制優遇制度については今回の予算案では触れられておらず、昨年度予算案に盛り込まれていた優遇制度(新しい研究開発集約度テスト、支出上限、優遇制度の引き下げを含む)の変更については不透明さが残る。上院の諮問委員会が更なる審査の必要性を提案したことを受けて、まだ法制化されていない。

予算案では、申請者の規模や数が減少することが想定されており、R&D優遇措置による費用負担が今後更に13億ドル減少すると予測している。これは発表済みの改定案によるコスト削減(当初予測24億ドルが19年3月に16億ドルに修正された)に更に上乗せされるものである。

オーストラリア事業者番号(ABN)制度の強化

ABN保有者に対して納税義務遂行について更なるアカウンタビリティーが求められる。新規定上では、ABNを維持するために次のことが義務付けられる。

所得税の確定申告義務がある場合、21年7月1日から確定申告をする22年7月1日より毎年ABN詳細を確認する。

個人所得税

税制政策の目玉は段階的な個人所得税減税で、法制化された18/19年度の個人所得税制を基盤とした低・中所得者向けの減税措置が適用される。

表1

税率(%)2018/19年度から2021/22年度(ドル)2022/23年度から2023/24年度(ドル)
00~18,2000~18,200
1918,201~37,00018,201~45000
32.537,001~9000045,001~120,000*
3790,001~180,000120,001~80,000
45180,001+180,001+

表2

税率(%)2024/25年度以降
00~18,200
1918,001~45,000
3045,001~200,000
-*
45200,001+*

*税率は発表済みの18/19年度の個人所得税減税を考慮したもので、新たな変更は太字で示されている。税率には2%のメディケア税徴収は含まれていない。

◆ 無還付型の低・中所得者税控除(LMITO)の増額

昨年度の予算案で低所得者控除(LITO)に加え、低・中所得者への支援を拡大した低・中所得者控除(LMITO)という税控除が新たに導入された。今回の予算案ではそれらの税控除が拡大された。
 18/19年度より、LMITOによる税控除の上限が年間530ドルから1,080ドルに引き上げられ、基準額が年間200ドルから255ドルに引き上げられる。納税者は課税所得のうち

  • 3万7,000ドルまでは(1ドルにつき19セントの税率区分)255ドルまでの税控除を受ける。
  • 3万7,000ドルを超える額(1ドルにつき32.5セントの税率区分)については税控除が1ドルにつき7.5セント引き上げられる(課税所得4万8,000ドルから9万ドルにつき上限1,080ドル)。
  • 9万ドルを超える額についての税控除は1ドルにつき3セント引き下げられ、課税所得12万6,000ドルで税控除がなくなる。
  • LMITOは2021/22年度まで適用される。

◆ 低所得者税控除(LITO)の拡大

22年7月1日からはLMITOとLITOが一本化され、税控除額を増やした下記のLITOに置き換わる。

  • LITOは645ドルから700ドルに引き上げられ、3万7,500ドルから4万5,000ドルの課税所得については1ドルにつき5セントに、4万5,000ドルを超える課税所得については1ドルにつき1.5セントに引き下げられ、課税所得が6万6,667ドルを超えた時点で税控除がなくなる。
  • 22年7月1日から適用される。

◆ 個人所得税の税率区分の調整

  • 22年7月1日から、19%の個人所得税が適用される税率区分の上限が4万1,000ドルから4万5,000ドルに引き上げられる。
  • 24年7月1日から、税率32.5%適用となる限界税率が30%に引き下げられる。

◆ メディケア税徴収が必要となる基準額の引き上げ

  • メディケア税徴収の基準額も2018/19年度から調整される。

予算案のポイント

  • 低・中所得者に向けた今後10年間にわたる3,020億ドル相当の所得税減税。
  • 小規模企業に加えて中規模企業に対しても、一括資産償却枠を拡大。
  • インフラ投資の予定額を750億ドルから1,000億ドルに引き上げ。
  • 高齢者介護王立委員会(Aged Care Roya lCommission)の調査に先手を打ち、高齢者介護予算の大規模かつ即時の引き上げ。
  • 低所得者及び退役軍人向けの電気料金に対する少額の補助金。
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