熱戦!「2022年全豪オープン」前半戦を振り返る
2022年グランドスラム(GS)の第1戦「全豪オープン」は、メルボルン市内ヤラ川河畔のメルボルン・パークで1月17日(月)から1月30日(日)まで行われている。その前半戦を長年にわたり同大会を取材する日豪プレス記者・板屋雅博が振り返る。
(文・写真=板屋雅博)
全豪4連覇の偉業が懸かるノバク・ジョコビッチ(セルビア、35歳、男子シングルス世界ランキング1位)が、新型コロナワクチンの接種をめぐりオーストラリア入国を拒否されるという、前代未聞の衝撃的な事件の発生と共に幕が明けた2022年全豪オープン。しかしながら、新型コロナウイルスの影響も大きく残る中でも、50%という入場制限はあったものの多くの観客が全豪を楽しんでおり、天候にも恵まれた大会の様子は全世界へ配信されている。
男子では、ロジャー・フェデラー(スイス、41歳、同17位)とジョコビッチが不在の中で、ビッグ3で唯一の参加しているラファエル・ナダル(スペイン、35歳、同5位)と新鋭との対決が見どころであり、ダニール・メドべージェフ(ロシア、25歳、同2位)、ステファノス・チチパス(ギリシャ、23歳、同4位)と共に4回戦まで勝ち進んでいる。
女子では、オーストラリアの期待を一身に集めるアシュリー・バーティ(オーストラリア、25歳、女子シングルス世界1位)が、全豪初優勝を目指してベスト8へ進んでいる。
日本勢では、錦織圭(32歳、男子シングルス世界46位)が股関節負傷のために不参加となったが、ダニエル太郎(28歳、同120位)が3回戦まで進出して気を吐いた。日本期待の大坂なおみ(24歳、女子シングルス世界ランキング14位)は試合勘が戻らず、残念ながら3回戦で敗退した。女子ダブルスの青山修子(34歳、女子ダブルス世界6位)・柴原瑛菜ペア(23歳、同)は、初優勝を目指して3回戦へ進んでいる。
ジョコビッチ・ビザ取り消し問題
ノバク・ジョコビッチのビザ取り消し問題は二転三転し、オーストラリア国内外に大きな波紋を呼ぶ事態となった。
ジョコビッチは昨年末にオーストラリア連邦政府から正式なビザを発給されていた。しかし、1月5日にメルボルン空港に到着後、入管当局によって突然にビザがキャンセルされ、メルボルン市内のホテルで隔離されることとなった。
ジョコビッチは過去6カ月以内に新型コロナウイルスに感染した経緯があり、新型コロナワクチン接種の免除は認められると主張。これに対し、連邦政府が免除は認められないと主張して入国を拒否したが、連邦裁判所の判事は10日に政府の対応には合理性がないとして入国を認めるよう政府に命じた。
これを受けてジョコビッチは全豪オープン会場に姿を見せ、メルボルン・パークで全豪オープン出場へ向けて練習を開始した。このビザ問題に揺れるジョコビッチの練習風景はメディアから全世界へ発信された。しかし全豪スタートの直前の15日、連邦政府は再度、ビザを取り消して、連邦裁判所も今回は政府の措置を認めた。そして16日夜、ジョコビッチはメルボルン空港から祖国へ向かって出国した。
全豪オープン優勝9回、GS優勝20回というテニス界のレジェンドであるジョコビッチの今回の騒動は、テニスに限らずスポーツ界全体に影響を及ぼす事件と言える。ジョコビッチの手続きのミス、オーストラリア連邦政府のビザ発給体制やジョコビッチへの対応など、双方に疑問視される点もある。
今後、全豪オープン終了後にさまざまな問題点や課題がメディアや専門家から指摘されると思われるが、不世出の選手であるジョコビッチと全豪オープンの将来に関わる問題であり、早期に円満解決を図ってもらいたい。
男子シングルスの行方
ラファエル・ナダルに注目が集まっている。ジョコビッチ、フェデラーと並びGS20勝と史上最多勝利を誇る彼が、この全豪オープンで優勝すれば単独トップに輝き、歴史に名を残すからだ。
過去16年間でGSのタイトルをほとんどビッグ3で独占、前半戦では、ナダルは4戦の中で落としたセットは1つだけと好調を保っており、その期待も大きい。
昨年も全豪、全仏、全英を勝ったジョコビッチの今後の動静も気になるところだが、ただし若手の台頭も予想されており、世代交代の幕開けも間近いのではと筆者は考えている。
昨年の全米でGS初優勝したダニール・メドベージェフ、2019年ツアー・ファイナル覇者ステファノス・チチパス、世界3位のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ、24歳、世界3位)を破ったデニス・シャポバロフ(カナダ、22歳、同14位)、ベテランのガエル・モンフィス(フランス、35歳、同20位)などが2週目に残っている。
ダニエル太郎は予選3戦をストレートで勝ち上がり、本戦1回戦でもストレート勝ち。2回戦ではかつての4強の1人、アンディ・マレー(イギリス、34歳、同113位)戦にもストレート勝ちして、予選・本戦の5戦全てを3-0のストレート勝ちした。
3回戦では新鋭のヤニク・シナー(イタリア、20歳、10位)に3-1で屈したが、強く正確なサーブや、ピンチになっても下がらずに前に出る攻め、低い弾道などでトップ10選手を追い詰め、トップ10でも互角に戦えることを世界に示した。6戦目の疲れが出て、後半はスタミナ切れとなって敗れたが、次のGSである全仏や全英では100位以内に入り本戦からの出場となるので、今後の活躍が大いに期待される。来年の全豪では50位以内に入ってくることも期待されるだろう。
大坂なおみは3回戦敗退
ディフェンディング・チャンピオンとして今年の全豪オープンを迎えた大坂なおみ。18年と20年の全米、19年と昨年の全豪を優勝して、現在、アッシュバーディと共に世界最強の1人である。
昨年の全豪を優勝した後、精神的に不安定であるとして全仏を途中棄権、全英は不参加、全米では3回戦で敗退した。今年の全豪では1、2回戦では2-0と快勝したが、3回戦では急成長している新鋭のアマンダ・アニシモバ(米国、20歳、女子シングルス世界60位)にまさかの敗退となった。
大坂は、過去にも若手のコリ・ガウフ(米国、17歳、同16位)に敗退するなど、若手に弱いところがあるが、それよりも昨年の試合数の少なさがプレー内容に出ていると感じた。今後、全仏、全英の他、前哨戦などの参加試合数を上げて、好調に持っていきたい。
アッシュ・バーティと女子シングルス
クイーンズランド州出身の25歳、世界ランク1位。19年全仏オープンと昨年の全英でGS2勝を挙げている。GS4勝の大坂なおみを除くと世界第1位の名に恥じないプレー内容である。今年の全豪前半戦4戦を全て2-0のストレートで勝ち上がっている。
アリナ・サバレンカ(ベラルーシ、23歳、2位)、バーボラ・クレチコバ(チェコ、26歳、4位)、20年全仏の女王イガ・シフィオンテク(ポーランド、20歳、9位)、ベテランのシモナ・ハレプ(ルーマニア、30歳、15位)などが2週目に駒を進めているが、アッシュ・バーティが1歩抜きんでているようだ。
女子ダブルスで青山・柴原ペア、準々決勝進出
青山修子(34歳、6位) 柴原瑛菜(23歳、7位)ペアは、全豪第2シードで優勝候補の一角として初優勝を目指している。1回戦では第1セットを落としたが、その後は3回戦まで危なげなく勝ち進み、準々決勝へ駒を進めた。
車椅子部門
車椅子部門では、国枝慎吾(37歳、1位)が初戦を勝利して準決勝へ進んだが、上地結衣(27歳、2位)は初戦で敗退している。
■会場:Melbourne&Olympic Parks, Batman Ave., Melbourne
■日程:1月17日(月)〜1月30日(日)
■Web: australianopen.com