先住民問題の解決と格差是正は道半ば
【解説】先住民「アボリジナルおよびトレス海峡島しょ民」が「最初のオーストラリア人」であることを明記するオーストラリア憲法改正案。14日の国民投票でその是非が問われたが、東部時間の同日夜までに否決が確実となった。先住民への侵略という歴史認識をめぐるリベラル派の主張は、国民の幅広い層に広がらなかった。変化を好まない保守層から中間層までの多数派は、先住民と非先住民の分断ではなく、国家の結束を選択した格好だ。 (ジャーナリスト:守屋太郎)
メルボルン市内で2020年1月26日、祝日「オーストラリア・デイ」を「侵略の日」に改めるよう訴える抗議集会に参加した市民ら(Photo: Johan Mouchet on Unsplash) 先住民改憲は、2022年5月の連邦選挙で政権を奪還した中道左派・労働党が公約した。議会でキャスティングボートを握る左派「グリーンズ」も支持した。一方、最大野党の保守連合(自由党、国民党)は、分断をあおるとして反対した。一部の先住民勢力や急進左派は、現政府との「トリーティー」(条約)締結など、改憲案よりも強力で対等な関係を求めていた。
最古で約6万年前からオーストラリア大陸に渡ったとされる先住民は、18世紀の英国植民地建設以来、免疫のない海外由来の感染症や虐殺などによって駆逐された。先住民人口は近年増加傾向にあるものの、全体の3.2%(22年)にとどまる。
しかし、近年は先住民土地権の承認(1993年)や、ケビン・ラッド首相(当時=労働党)による謝罪(08年)など、地位回復や和解の動きが強まった。先住民出身議員は連邦と州議会で合計26人(22年)まで増え、全体の3.1%と人口比とほぼ同じ割合に達するなど、一定の社会進出も進んだ。
また、建国記念日に相当する1月26日の「オーストラリア・デイ」を「侵略の日」に改めるべきだとの主張も、リベラル派を中心に一定の支持を得ている。英国第一船団が1788年にシドニー湾に到着して入植を開始したこの日は、先住民にとっては侵略が始まった日だからだ。最近では、オーストラリア国旗とアボリジナルの旗の両方を手に持って、この日を祝う国民も増えている。
こうした経緯から、改憲案にあった「最初のオーストラリア人」の記述は、賛成派、反対派にかかわらず誰も否定しない史実と認識されており、仮に実現していたとしても改憲は象徴的だった。先住民の声を代表する機関「ボイス」も強制力はなかった。
むしろ支配層を占める欧州系オーストラリア人にとって、改憲は過去の歴史認識をめぐる「贖罪」の意味合いが大きかったと言える。
遠隔地の先住民、寿命14年短い 居住区の治安改善も道半ば
いずれにせよ、先住民の格差問題が依然として深刻であることに変わりはない。
特に健康面の格差は大きい。航空機で医師を派遣する「王立飛行医師サービス」(RFDA)によると、先住民の多い遠隔地では、先住民の平均余命は非先住民と比べて男性で13.8年、女性で14年短い。
また、先住民の高い犯罪率、治安悪化、勾留中の先住民容疑者の不審死といった闇の部分も、オーストラリアの経済的繁栄の影に取り残されたままだ。
遠隔地にある先住民居住区では、アルコール・薬物中毒のまん延や子どもへの虐待、暴力などの治安悪化が問題となり、07年には連邦政府が北部準州の居住区に治安部隊を投入して鎮圧。アルコール販売を禁止するなど強制介入した。国連は人権侵害と批判したが、一定の成果を上げたとされる。
しかし、アルコール禁止令などの期限が22年に切れると、北部準州のアリス・スプリングスでは、酒に酔った先住民の子どもや若者が暴力を振るったり、商店を破壊したりして治安が再び悪化した。
アルバニージー首相は23年1月に準州政府と対策を協議。禁酒令を一部再開するなど再び介入を始めた。ABCによると、北部準州の州境に近いクイーンズランド州西部では、酒を飲むため越境してきた先住民が暴力事件を起こす騒ぎも起きている。
改憲の可決、否決のいかんに関わらず、先住民の真の自立と和解への道のりは長い。
■ソース
Voice referendum live updates: Voice to Parliament referendum defeated as three states vote No(ABC News)
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オーストラリア改憲案、国民的支持広がらず ヨーロッパ人侵略の歴史に「贖罪」の色濃く
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先住民問題の解決と格差是正は道半ば
【解説】先住民「アボリジナルおよびトレス海峡島しょ民」が「最初のオーストラリア人」であることを明記するオーストラリア憲法改正案。14日の国民投票でその是非が問われたが、東部時間の同日夜までに否決が確実となった。先住民への侵略という歴史認識をめぐるリベラル派の主張は、国民の幅広い層に広がらなかった。変化を好まない保守層から中間層までの多数派は、先住民と非先住民の分断ではなく、国家の結束を選択した格好だ。 (ジャーナリスト:守屋太郎)
先住民改憲は、2022年5月の連邦選挙で政権を奪還した中道左派・労働党が公約した。議会でキャスティングボートを握る左派「グリーンズ」も支持した。一方、最大野党の保守連合(自由党、国民党)は、分断をあおるとして反対した。一部の先住民勢力や急進左派は、現政府との「トリーティー」(条約)締結など、改憲案よりも強力で対等な関係を求めていた。
最古で約6万年前からオーストラリア大陸に渡ったとされる先住民は、18世紀の英国植民地建設以来、免疫のない海外由来の感染症や虐殺などによって駆逐された。先住民人口は近年増加傾向にあるものの、全体の3.2%(22年)にとどまる。
しかし、近年は先住民土地権の承認(1993年)や、ケビン・ラッド首相(当時=労働党)による謝罪(08年)など、地位回復や和解の動きが強まった。先住民出身議員は連邦と州議会で合計26人(22年)まで増え、全体の3.1%と人口比とほぼ同じ割合に達するなど、一定の社会進出も進んだ。
また、建国記念日に相当する1月26日の「オーストラリア・デイ」を「侵略の日」に改めるべきだとの主張も、リベラル派を中心に一定の支持を得ている。英国第一船団が1788年にシドニー湾に到着して入植を開始したこの日は、先住民にとっては侵略が始まった日だからだ。最近では、オーストラリア国旗とアボリジナルの旗の両方を手に持って、この日を祝う国民も増えている。
こうした経緯から、改憲案にあった「最初のオーストラリア人」の記述は、賛成派、反対派にかかわらず誰も否定しない史実と認識されており、仮に実現していたとしても改憲は象徴的だった。先住民の声を代表する機関「ボイス」も強制力はなかった。
むしろ支配層を占める欧州系オーストラリア人にとって、改憲は過去の歴史認識をめぐる「贖罪」の意味合いが大きかったと言える。
遠隔地の先住民、寿命14年短い 居住区の治安改善も道半ば
いずれにせよ、先住民の格差問題が依然として深刻であることに変わりはない。
特に健康面の格差は大きい。航空機で医師を派遣する「王立飛行医師サービス」(RFDA)によると、先住民の多い遠隔地では、先住民の平均余命は非先住民と比べて男性で13.8年、女性で14年短い。
また、先住民の高い犯罪率、治安悪化、勾留中の先住民容疑者の不審死といった闇の部分も、オーストラリアの経済的繁栄の影に取り残されたままだ。
遠隔地にある先住民居住区では、アルコール・薬物中毒のまん延や子どもへの虐待、暴力などの治安悪化が問題となり、07年には連邦政府が北部準州の居住区に治安部隊を投入して鎮圧。アルコール販売を禁止するなど強制介入した。国連は人権侵害と批判したが、一定の成果を上げたとされる。
しかし、アルコール禁止令などの期限が22年に切れると、北部準州のアリス・スプリングスでは、酒に酔った先住民の子どもや若者が暴力を振るったり、商店を破壊したりして治安が再び悪化した。
アルバニージー首相は23年1月に準州政府と対策を協議。禁酒令を一部再開するなど再び介入を始めた。ABCによると、北部準州の州境に近いクイーンズランド州西部では、酒を飲むため越境してきた先住民が暴力事件を起こす騒ぎも起きている。
改憲の可決、否決のいかんに関わらず、先住民の真の自立と和解への道のりは長い。
■ソース
Voice referendum live updates: Voice to Parliament referendum defeated as three states vote No(ABC News)
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