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日豪フットボール新時代「引き際」第117回

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日豪フットボール新時代 第117回
引き際

 ドラクエ世代なら必死に書き取り一字一句間違えずに打ち込むのが、復活の呪文。当連載は、担当からのEメールの知らせで、1年弱の休載から復活できた。今回のコロナ禍での休載の間にもいろいろなことがあったが、今回触れるのは個人的に一番長く追ってきた選手の引き際。

 クイーンズランド州1部(NPLQ/豪州2部相当)のオリンピックFCに8年間所属、“キング・カズ”と愛された伊藤和也(34)。NPLでの出場記録は、日本人選手としての最高の数字を誇り、NPLQの歴代ベスト・イレブンにも名を連ねた正真正銘のレジェンドだ。

 その彼のスパイクの脱ぎ方が、なかなか憎い。昨季は「今までにないくらいに調子が良い」と自身のコンディションの良さを強調し続け、チームに関しても「今までで最高の完成度」と太鼓判。そんなチームは、クラブにも伊藤にとっても悲願となる2度目のNPLタイトルをしっかり視野に入れ、当然のようにファイナル進出を決めた。そんなファイナルの初戦、ホームでのセミ・ファイナル直前、伊藤からの知らせが届いた。

 「今季限りで引退します」。伊藤がクラブと契約更新をせずに新天地を求めることはあっても、まさか引退とは思いもよらなかった。何とも憎いくらいに彼らしい引き際の潔さ。

背番号8のユニフォーム姿は、この夜で見納め(筆者撮影)
背番号8のユニフォーム姿は、この夜で見納め(筆者撮影)

 有終の美をタイトルで飾りたかったグランド・ファイナルは、惜敗に終わった。その涙が乾き切らないグランド上で「悔いはないか」と聞くと、「今まで一番走れて、プレーできて、周りからは『まだできる』って言われながら引退できるなんて、最高ですよ」と涙顔で笑う。

 敗戦後、最後までファンに応対してから、引き上げる後ろ姿。何かをやり遂げたその背中には、寂しさはなかった。信念を貫き惜しまれながら去る――あまりにも痛快な男の引き際。誰もいなくなったスタジアムの照明が去りゆくレジェンドを照らす。「和也、8年間お疲れ、そして、本当にありがとう」――。そっと、もう見られなくなる背番号8に呼びかけた。

解説者

植松久隆(タカ植松)

植松久隆(タカ植松)

ライター、コラムニスト。日豪フットボール事情のニッチを守り続けて早10余年。雌伏の時を経て、今、新創刊の日豪プレスにお呼びが掛かり喜ぶアラフィフ。「『うえまつのひとり言』が新しい誌面ではないので、今後はこのスペースで『うえまつの呟き』を入れていくのでお付き合いあれ」





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