新年は景気対策が焦点に
9月期GDP依然低調――減税効果乏しく
2020年の豪州経済は、金融・財政の景気対策が焦点となりそうだ。19年7~9月期の国内総生産(GDP)の伸びは依然として低調で、先の所得税減税による景気の浮揚効果はまだ現れていない。景気を下支えするため、中央銀行の豪準備銀(RBA)は2月の年初会合で追加利下げに踏み切る可能性がある。ただ、現行0.75%と史上最低水準にある政策金利を更に引き下げても効果は限定的だ。成長が更に鈍化すれば、豪州で史上初となる量的緩和政策や、大胆な財政政策の発動が現実味を帯びる。
豪統計局(RBA)が19年12月4日に発表した国内総生産(GDP)統計によると、7~9月期の実質GDP成長率は前期比0.4%増(季節調整値)と前期の0.6%増(同改定値)から減速した。前年同期比では1.7%増となり、世界金融危機直後の09年9月期以来最低の水準を記録した前期の1.4%増を小幅に上回った。
GDPの6割近くを占める家計最終消費(個人消費)は前期比0.1%増、前年同期比1.2%増と更に減速した。非生活必需品・サービスの消費は前期比0.3%減少した。個人消費が依然として低調で、成長の足を引っ張っている。新築・中古住宅への投資も前期比2.8%減、前年同期比11.0%減と依然として低迷している。
減税分は消費より貯蓄に回す
低・中所得者を対象とした連邦政府の所得税減税策が施行されたことで、名目可処分所得は前期比で2.5%拡大した。しかし、家計の貯蓄率は4.8%と前期の2.3%から大幅に伸びた。ABSのブルース・ホックマン主席エコノミストは「減税は非生活必需品(ぜいたく品)の消費につながっておらず、(減税の)影響は貯蓄の伸びに顕著に現れている」と指摘した。
所得税減税を巡っては、減速感が強まっている景気を刺激する効果が期待されていた。だが、消費者は財布のひもを緩めていない。減税で浮いた資金を使わず、貯金に回している様子がうかがえる。
一方、政府部門の最終支出は前期比0.9%増、前年同期比6.0%と好調を維持した。障がい者や高齢者の介護サービスへの支出が引き続き寄与した。ヘルスケア・介護の付加価値額も前期比2.6%増、前年同期比8.3%と好調に伸びた。
同主席エコノミストは「経済は成長を維持しているが、成長の速度は長期的な平均値を大幅に下回っている」と指摘した。
金利0.25%で量的緩和検討も
減速感を強める景気を下支えするため、中央銀行の豪準備銀(RBA)が政策金利を2020年上期には、政策金利を0.25%程度まで引き下げるとの観測も強まっている。こうした実質的なゼロ金利政策の下で景気が低迷するようなら、中央銀行による国債の大量購入などの金融政策「量的緩和」(QE)も視野に入る。
RBAのフィリップ・ロウ総裁は昨年11月26日の講演で、マイナス金利やQEなどの「非伝統的金融政策」について海外の導入例を紹介した上で、「豪州におけるマイナス金利政策はきわめて可能性が低い」と従来の見解を繰り返した。
その上で同総裁は、RBAがQEの一環として民間の資産を購入しないと言明しつつ、「もしRBAがQEを実施すると仮定すれば、国債を二次的な市場から購入するだろう」と指摘。QEに踏み切る時期に関して「政策金利が0.25%となれば、検討の選択肢の1つとなる」と述べている。豪州で史上初となるQEがいよいよ俎上(そじょう)に上がるか。
JAL、シドニー―羽田線参入
ANAは1日2便に増便
日本航空(JAL)と全日空(ANA)は2020年3月29日以降、羽田―シドニー間の直行便を大幅に拡充する。JALは週7便(毎日運航)を新規就航させる。ANAは既存の1日1便(週7便)に加え、1便増便して週14便を運航する。豪州の航空会社2社の新規就航と合わせ、都心に近く利便性が高い羽田への航空座席供給が一気に拡大することで、日豪間の人の流れが更に拡大しそうだ。
JALは羽田―シドニー線への参入を実現する。JAL52便は、シドニーを午前9時15分に経ち、羽田に午後7時5分に到着する。同51便は羽田発午後7時20分、シドニー着午前7時10分(翌日)となる。機材は「ボーイング787-9」を使用する。ANAの増便分の運航ダイヤは12月中旬の時点で未発表だが、近く詳細を明らかにする。
羽田空港は20年東京五輪・パラリンピックに向けて、3月29日の夏ダイヤ開始以降、都心上空を通る新経路を運用。同空港の国際線の年間発着回数は現行の約1.7倍の約9万9,000回に増える。これを受けて、日本の国土交通省は19年9月、同空港の昼間国際線発着枠を50枠拡大すると発表。このうち豪州線には、日本と豪州の航空会社にそれぞれ2枠ずつ、合計4枠を割り当てた。日本の航空会社にはJALとANAに1枠ずつ配分していた。
一方、豪航空会社の2枠を巡っては、連邦政府の国際航空サービス委員会(IASC)が19年10月、カンタス航空とヴァージン・オーストラリアに1枠ずつ配分することを決定。ヴァージンはブリスベン―羽田間に週7便を就航させ、日本路線に新規参入する。カンタスは19年12月16日、メルボルン―羽田間に週7便を就航させると発表した。既存のメルボルン―成田線は運休する。
訪日豪州人数、ラグビーW杯効果で大幅増
年間で過去最高更新へ
豪州からの訪日客数が2019年9~10月、日本で開催されたラグビー・ワールド・カップ(RWC)の影響で大幅に伸びた。19年通年の豪訪日客数は前年を上回り、過去最高を更新する可能性が高まっている。
日本政府観光局が11月20日に発表した訪日外客数に関する統計によると、10月の豪州からの訪日客数は5万1,600人と前年同月比で6.5%増え、同月としては過去最高を記録した。RWC観戦を目的とした訪日需要の高まりや、9月の全日空パース―成田線就航などが寄与した。
19年1~10月の10カ月間の総数は50万800人と前年同期比で11.5%増えた。11月、12月の2カ月間も伸びを維持すれば、年間で過去最高を記録した18年の55万2,240人(前年比11.6%増)を上回るのは確実で、60万人の大台をうかがう勢いだ。
RWCが開催された9月・10月の豪州からの訪日客数は、11万2,100人と前年同期比で16.7%拡大した。RWC出場国・地域で比較すると、豪州は米国(12.9%増の28万600人)、イングランドとスコットランド、ウェールズを含む英国(85.1%増の11万8,000人)に次いで3番目に多かった。
直行便就航で北海道観光PR
道副知事、札幌副市長ら訪問団が来豪
カンタス航空のシドニー―札幌(新千歳空港)直行便就航に合わせて、オーストラリアの一般消費者を対象に北海道への誘客を促進する催しが2019年12月15~17日、シドニー市内南部の商業施設「セントラル・パーク・モール」で開かれた。
スキー・リゾートの他、ラーメンや魚介類などのグルメ、札幌雪まつりなどの季節のイベント、豊かな大自然、アイヌ文化など北海道観光の魅力をPRした。パンフレットの配布やアンケートを実施した他、訪問を予定したり、検討している人に北海道の観光情報を詳しく説明した。
質の高いパウダー・スノーが降る冬の北海道は、豪州人のスキーヤーに特に人気が高い。2月に北海道への旅行を予定しているという男性は「(北海道美玲町の)青い池を見に行きたいが、雪道をレンタカーで走るのは危険か?」、「札幌近郊で、日帰りで入浴できるお薦めの温泉はあるか?」など詳しい質問を投げかけていた。また、スキーで何度も北海道を訪れているという女性からは「ニセコは豪州人ばかり。豪州人がいないお薦めのスキー・リゾートはないか?」といった質問もあった。
イベントは、国土交通省北海道運輸局と北海道庁、札幌市の3者が共同で主催した。JTB北海道事業部が業務を受託し、シドニーのマーケティング会社グローバル・プロモーションズ・オーストラリアが現地手配を請け負った。
副知事「通年就航につなげたい」
直行便就航を記念して、浦本元人・北海道副知事や石川敏也・札幌市副市長、横田隆一・千歳市副市長、新千歳空港関係者らが同17~19日、シドニーを訪問した。訪問団は17日、シドニーの商業施設で開催中の観光PRイベントを視察し、在シドニー日本国総領事館の紀谷昌彦・総領事が同行した。
訪問団の団長を務めた北海道の浦本副知事は「12年ぶりに(豪州と札幌間の)直行便を就航できたことは大変うれしい。豪州の方には、夏の北海道も体験してほしい。豪州と北海道の交流を更に深めるためにも、今回の就航が持続し、通年の就航になることを期待している」と話した。
また、札幌市の石川副市長は「豪州の方々はスポーツが大好き。スキーに限らず、サイクリングやマラソンなど夏も含めたスポーツ・アクティビティーを通して、豪州と北海道、札幌の交流を深めていきたい」と述べた。
カンタスは、豪州人のウィンター・スポーツ需要が高まる日本の冬に照準を合わせ、12月16日にシドニー―札幌直行便を就航させた。20年3月28日までの期間限定。シドニーを月・水・土曜日に出発する週3便を運航している。カンタスはかつてケアンズ―札幌間に直行便を運航していたが、07年に撤退していた。シドニーと札幌間の直行便開設は今回が初めて。
政府の「財政規律重視」批判は間違い
オーストラリアのシンクタンクは、モリソン政権が景気刺激策を行う上で財政規律を重視し過ぎているとの批判に関して、政府の支出が過去10年で最大になっているとして、批判は誤りとの見解を示した。2019年12月2日付の豪経済紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビューが報じた。
豪中銀は今年3回の利下げを実施し、現在の政策金利は過去最低の0.75%となった。中銀は金融政策の効果がなくなるのを懸念して、政府に対して財政出動を増やして景気をてこ入れするよう繰り返し求めている。
大手会計事務所デロイト傘下のシンクタンク「デロイト・アクセス・エコノミクス」は最新報告書で、2017年終盤の中間経済・財政見通しから19年4月に公表された予算案の間に、政府が420億豪ドルの予算措置を伴う新たな政策を発表したと説明した。これは世界金融危機以来の高水準という。
デロイトのパートナー、クリス・リチャードソン氏は、財政が改善したのは政府が財政を引き締めたためではなく、景気の変動が税収増を支えたことによると語った。法人税の税収は16年4月までの1年間の630億豪ドルから、19年10月までの1年間に950億豪ドルに増加した。
最優秀アニメ長編映画賞『天気の子』
新海誠監督作品――アジア太平洋映画賞
第13回アジア太平洋映画賞(APSA)の授賞式が2019年11月22日、ブリスベンで開かれ、新海誠監督の最新作『天気の子』が最優秀アニメ長編映画賞を受賞した。『天気の子』は、天候が狂って雨がやまなくなった東京を舞台に、離島出身の家出少年と、「祈る」ことで天気を晴れにできる不思議な能力を持つ少女の切ない恋を描いた物語で、19年7月に日本で劇場公開された。
新海監督は、日本の現代アニメ界を代表する監督として世界的に注目を集めている。前作の『君の名は。』(16年)は全世界で約400億円の興行収入を叩き出す大ヒットを記録した。新海監督は07年にも『秒速5センチメートル』でAPSAの最優秀アニメ長編映画賞を受賞している。
新海監督は同賞のインタビューで「バッテリー切れを気にしないような2人。充電が残り数パーセントだからと立ち止まって、電源を差すことをしない人たち。ただ真っすぐに走り抜けていく人たちを、僕が目撃してみたかったんです」と話している。
APSAはアジア太平洋地域の70の国・地域の優れた映画作品を称えるイベントで、毎年11月にブリスベンで授賞式が行われている。今年は289作品の中から22カ国・地域の37作品が受賞候補にノミネートされた。最優秀長編映画賞には、第72回カンヌ国際映画祭最高賞も受賞した韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が選ばれた。
ニュース解説
路面電車が60年ぶりに復活
シドニー中心街で営業運転始まる
シドニーの中心街「ジョージ・ストリート」に約60 年ぶりに路面電車が復活した。市内北部の交通の要衝であるサーキュラ・キーから市内中心部を南北に縦断し、南東郊外ランドウィックまでの約12キロを結ぶ州営の路面電車「ライト・レールL2線」が2019年12月14日、営業運転を開始した。開業初日、無料開放されたライト・レールに乗ってみた。(リポート:守屋太郎)
終着駅まで1時間
無料開放された開業初日、サーキュラ・キー駅前には、新しいライト・レールを真っ先に体験しようと、子ども連れの家族らが長い行列を作っていた。混乱を避けるため、大勢の係員が乗客を誘導している。15分ほど待ち、赤・黒・白の3色に塗られたピカピカの車両に乗り込んだ。
フランスの大手鉄道車両メーカー、アルストム製の車両は、5両ずつの2編成が連結されていて、合計10両。平均的なバスの9台分に相当する450人の輸送力を誇る。車内は天井が高く広々としていて窓も大きく、開放感がある。
サーキュラ・キーを出発するとすぐに左折し、シドニーの目抜き通りであるジョージ・ストリートに入る。カーブでは車輪と線路の摩擦音が聞こえるものの、直線では騒音や振動はほとんど気にならない。音もなくグイグイ加速していく様子は、大きな電気自動車といった印象だ。
市内中心部のウィンヤードからタウンホール付近までのジョージ・ストリートは、ライト・レールの建設に合わせて歩行者天国が整備された。車窓から初めて見るシドニーの街の景色は新鮮だ。シートは幅に余裕があり、クッションも分厚く、座り心地も悪くない。
ただ、ジョージ・ストリートが歩行者天国になったとは言うものの、交通量の多い通りをいくつも横切るため、交差点では赤信号で頻繁に停車する。中心街では駅の間隔も数百メートルと短いため、速さは以前のバスと変わらない印象だ。
車両は、市内南部セントラル駅の手前で東に向きを変え、同東部サリー・ヒルズを過ぎるとようやく速度を上げた。東郊ムーア・パークの地下に建設されたトンネルからは、専用の線路を走る。線路脇の標識には、制限速度が時速50キロと書かれているが、運転席のスピード・メーターは時速35キロを超えることはなかった。
サーキュラ・キーから約12キロ離れた終着駅のランドウィックに到着したのは約1時間後。駅に立っていたNSW州交通局の係員に「なぜこんなに遅いのか」と聞くと、「しばらくは安全を確保するために、速度を落としている。数週間後には所要時間35~40分を目指す」と答えた。ちなみにランドウィックからの帰路は45分かかった。
開業日は休日とあって、ひとまず順調な滑り出しとなったが、一度にたくさんの乗客を運べる高い輸送力はバスと比較にならないものの、速達性はそれほど優位ではない。運行が軌道に乗るまでは、しばらくノロノロ運転が続きそうだ。
かつては南半球最大の路線網
シドニーでは、かつて「トラム」と呼ばれた路面電車が網の目のように走っていた。英国植民地時代の1861年、サーキュラ・キーからピット・ストリートを南下するルートで、馬がけん引する最初のトラムが開業し、蒸気機関で走るトラムが79年に営業を開始した。1910年までに全線が電化され、最盛期は「南半球最大」(公共放送ABC)の路線網を誇った。
今でもその痕跡を見ることはできる。東部郊外のクージー・ビーチにある飲食施設「クージー・パビリオン」は、もともとトラムの転車台があった歴史的建築物である。南東郊外を貫く幹線道路「アンザック・パレード」などに見られる幅広い中央分離帯も、かつてのトラム線路の名残りだ。
シドニー南方のロフタス(Loftus)には、シドニーを始めオーストラリア各地のトラムを保存した「シドニー・トラムウェイ博物館」(Sydney Tramway Museum)がある。毎週水曜日(午前10時~午後3時)と日曜日(午前10時~午後5時)に開館しており、全長3.5キロの線路で昔のトラムに体験乗車することもできる。
100年にわたってシドニー市民の足として親しまれたトラムだが、モータリゼーションの発展とともに自家用車やバスとの競争に敗れ、役割を終えることになる。最後のトラムが営業運転を終えたのは61年2月。以来、路面電車は長年、シドニーの路上から姿を消していた。
ところが、路面電車は近年、輸送力の高さ、渋滞の緩和、温室効果ガスの削減といった観点から見直されている。97年にはセントラル駅から市内西部ピアモントまでのルートでライト・レールが開業。2014年には南西郊外ダルウィッジ・ヒルまでの全線が完成し、全長12.8キロの「L1線」として運行している。
今回開業した「L2線」は、これに続く現代版トラムの第2弾。しかし、ほとんどのルートを貨物線の廃線を利用した「L1線」と異なり、市内中心部のジョージ・ストリートを通るL2線は想定外の難工事となった。地面を掘り起こしてみると、図面にない埋設物が次々と見つかるなどしたことから工事は遅れ、総工費も当初の13億ドルから29億6,000万ドルに膨れ上がった。このため、建設工事を請け負ったスペインのゼネコン「アクシオナ」が、損害賠償を求めてNSW州政府を訴えるなどトラブルが続いた。
当初予定していた19年3月の完成から約9カ月遅れ、ようやく開業にこぎつけた。20年3月には、ムーア・パーク付近で枝分かれして南東郊外キングスフォードに至る「L3線」も開業する。渋滞がなければ、ランドウィックまでのバスの所要時間は約35分。現状では時短効果は見込めないが、ジョージ・ストリートの大部分が歩行者天国となり街の景色が大きく変わったことは、市民にとって最大の恩恵だろう。
ただ、歩行者天国と線路の間にフェンスが一切なく、音も静かなので、州交通局は「左右を確認してから横断するように」と注意を喚起している。