次期選挙、5月11日か18日濃厚
新年度予算案発表、4月に前倒し
2019年は選挙の年――。連邦下院(任期3年)の全議席と上院(任期6年)の約半数を改選する次期連邦選挙の投票が、19年5月に行われる公算が高まっている。現在の支持率動向が投票日まで続けば、中道左派の最大野党・労働党が勝利し、13年以来約6年ぶりに政権を奪回する可能性がある。
保守連合(自由党、国民党)のスコット・モリソン首相は18年11月27日、新年度予算案を19年4月2日に発表すると表明した。首相は投票日を明らかにしていないが、例年5月第1週となっている予算案の発表を約1カ月前倒ししたことで、投票日は5月11日または5月18日でほぼ固まった。
モリソン首相は会見で「政府(保守連合政権)は、力強い経済を運営してきた」と述べ、若年層の失業率低下など雇用面の実績を特に強調した。18年12月に発表した年央経済財政見通し(MYEFO)では、安定した経済成長と税収の増加を背景に、19/20年度の財政収支黒字化を明記した。
経済・財政運営の両輪で保守連合政権の実績をアピールした上で、予算案で有権者の懐柔策を盛り込み、選挙戦を有利に戦うシナリオを描く。
6年ぶり政権交代か
マルコム・ターンブル前首相の退陣に伴って18年8月に就任したモリソン首相にとっては、国民の信任を問う初の選挙となる。しかし、主な世論調査の支持率では、与党保守連合は、中道左派の最大野党・労働党の後塵を拝しており、このままでは政権の座を失う公算が高い。ターンブル前首相を退陣に追い込んだ党内の権力争いが、支持率に影を落としている。
全国紙「オーストラリアン」が掲載したニューズポールの最新の世論調査(12月8日)によると、実際の選挙結果に近い2大政党別支持率は、労働党が55%、保守連合が45%(前回調査と変わらず)だった。各政党別支持率は、労働党が41%(前回比1ポイント上昇)、保守連合が35%(1ポイント上昇)、左派の環境保護政党グリーンズが9%(緑の党=1ポイント上昇)、「その他の政党」が8%(1ポイント下落)、右派の「ワン・ネーション党」が7%(1ポイント下落)となった。
ニューズポールの分析によると、仮に現時点で連邦選挙が行われた場合、保守連合は下院で20議席を失い56議席。一方、労働党は20議席増やして89議席を獲得し、政権を奪回する見通しだ。
次期首相は07年以来7人目か
2大政党制が定着しているオーストラリアの連邦政界ではかつて、1人の首相の下で最低でも2期6年以上の長期政権を運営するのが通例だった。労働党政権では、ボブ・ホーク氏が1983年から90年まで首相を務め、経済・社会のアジア化、貿易の自由化などを推進した。96年から07年まで首相を務めた保守連合のジョン・ハワード氏も、消費税に相当する財・サービス税(GST)導入を含む税制改革、連邦財政の黒字化、労使関係改革、国営企業の民営化などを進めた。
党派こそ異なるものの、いずれのリーダーも長期安定政権の下で大胆な経済・財政改革を進め、現在の豪州経済の繁栄に道筋を付けた。
ところが、労働党の前政権(07年~13年)では延べ3人(ジュリア・ギラード氏の2回を含む)、現在の保守連合政権(13年~)でもトニー・アボット氏、ターンブル氏、モリソン氏と既に3人がリーダーに就いた。19年の次期選挙で労働党が政権を奪回すれば、07年以降で7人目の首相が誕生することになる。
安定政権の下で長期的な視点で改革を実行できる指導者が求められるが、与野党共にそうした「強いリーダー」に恵まれていない。
ショーテン労働党党首、首相待望論は低調
政党支持率と党首の人気にねじれ
中道左派の労働党が2019年の連邦選挙で政権に復帰すれば、ビル・ショーテン党首が次期首相に就任する。労組出身のショーテン党首は労働党党首としては正統派だが、一般国民の間ではカリスマ性に乏しい。必ずしも同氏への首相待望論が盛り上がっているわけではない。
ニューズポールの2大政党別支持率では、労働党は16年9月以降2年以上、与党を上回っている。ところが、党首の人気の指標となる「どちらが首相にふさわしいか?」の設問では、ショーテン党首はモリソン首相の後塵を拝してきた。
12月8日の同調査でも、ショーテン党首は36%(前回比2ポイント上昇)とモリソン首相の44%(2ポイント下落)を下回った。政党別支持率では労働党が与党を上回っているが、党首別ではモリソン首相の人気がより高いという「ねじれ現象」が続く。
「次期首相候補」の横顔
ショーテン党首は1967年メルボルン生まれの51歳。英国人の父とアイルランド系の母の間に生まれた。前妻と離婚後、2009年に当時連邦総督だったクェンティン・ブライス氏の娘と再婚。これを機に、宗教をカトリックから英国国教会に改宗したとされる。
労組の全国組織「オーストラリア労働組合評議会」(ACTU)書記長を経て、07年の連邦選挙で初当選した。ACTU書記長出身者はかつて、労組を支持母体とする労働党では「サラブレッド」的な存在だった。ショーテン党首も前労働党政権で労使関係相や教育相を歴任するなど順調に出世し、13年に党首に就任した。労働党内では、社会政策では保守、経済政策では自由主義を志向する右派に属している。
外交・安保政策は継続へ
仮に次期連邦選挙で労働党が政権交代を実現した場合も、対日関係や米国との同盟関係を含む外交・安保の基本政策に変更はないと見られる。
前労働党政権は、対中防衛協力を進めるなど「親中政権」と言われた。ショーテン党首自身も10月、地元紙のインタビューで、トランプ米大統領と一定の距離を置き、独自外交を目指す考えを表明した。
しかし、オーストラリアは米、英、カナダ、ニュージーランドのアングロ・サクソン陣営5カ国と諜報情報を共有する「UKUSA協定」(通称「ファイズ・アイズ」)の一員だ。サイバー・セキュリティーや情報技術(IT)の覇権争いで、最大の同盟国・米国が中国との対決姿勢を強める中で、次期労働党政権が中国寄りに傾斜することは考えにくい。
貿易政策では、保護主義を排除し、自由貿易を推進するという立場では、保守連合と一致している。ただ、過去の労働党政権は、2国間の自由貿易協定よりも多国間の枠組みをより重視する傾向が強かった。
一方、内政・経済政策では、保守連合との違いがより鮮明になる可能性はある。「富の再配分」や「弱者救済」といった労働党のリベラルな価値観を背景に、中・低所得者層に手厚い減税や優遇措置、住宅購入の支援策などが想定される。保守連合政権が進めてきたインフラ政策では、労働党は道路よりも鉄道の整備を重視する傾向があり、整備計画の細部が変更される可能性は否定できない。環境政策では、再生可能エネルギーの拡大、温室効果ガスの削減をより積極的に進める。
19/20年度財政収支、黒字拡大へ
41億ドルに上方修正――年央経済財政見通し
2019/20年度(19年7月1日~20年6月30日)の連邦政府の財政収支(単年度)は、黒字幅が半年前の予測から大幅に拡大する見通しだ。政府が18年12月17日に発表した年央経済財政見通し(MYEFO)で明らかにした。
これによると、基礎的現金収支の赤字額は、18/19年度が18年5月の予算案発表時の予測より約93億ドル縮小して約52億ドル。19/20年度は約41億ドルの黒字となる。財政収支の黒字転換は、世界金融危機前の07/08年度以来12年ぶり。政府は18年5月の予算案発表の時点で、既に19/20年度の黒字化(約22億ドル)を見込んでいたが、今回、好調な税収の伸びを背景に黒字幅を2倍近い水準まで上方修正した。更に、20/21年度は約125億ドル、21/22年度は190億ドルと黒字幅は従来予想と比較してほぼ倍増する。
ジョシュ・フライデンバーグ連邦財務相は、黒字拡大予想の要因について「経済成長と雇用拡大の相乗効果によって、歳入が増える一方で歳出が抑制される」と指摘した。
財政収支の改善により、国内総生産(GDP)に占める債務の割合は、実質で18/19年度の18.2%から28/29年度には1.5%まで低下すると予測している。
また、MYEFOの主な経済見通しによると、18/19年度の実質GDP成長率は2.75%と予算案発表時の3%から下方修正。同年度の失業率も5.25%と下方修正(予算案では5%)した。消費者物価指数(CPI)は2.25%と予測(予算案では2%)した。
経済見通しは「実質GDPは潜在成長率に沿う形で推移し、19/20年度には3%まで加速する」と予測した上で、「予測期間(今後4年間)にわたり、個人消費と公共部門の支出、非資源部門の民間投資の伸びが、GDPの伸びをけん引するだろう」と指摘した。今後の景気へのマイナス要因としては、①干ばつの影響で18/19年度の農業輸出が落ち込むとみられること、②19/20年度の住宅建設投資が減少する見通しであること、を挙げた。
主な経済指標の見通し
実績 | 予測 | ||
2017/18年度 | 2018/19年度 | 2019/20年度 | |
実質GDP成長率 | 2.80 | 2.75 | 3.00 |
雇用の伸び率 | 2.70 | 1.75 | 1.75 |
失業率 | 5.40 | 5.00 | 5.00 |
消費者物価指数 | 2.10 | 2.00 | 2.25 |
賃金指数 | 2.10 | 2.50 | 3.00 |
名目GDP成長率 | 4.70 | 4.75 | 3.50 |
単位:% 出典:連邦財務省年央経済財政見通し
9月期GDP減速、2年ぶり低水準
前期比0.3%増、前年同期比2.8%増
豪統計局(ABS)が2018年12月5日に発表した統計によると、同年7~9月四半期の国内総生産(GDP)の成長率(季節調整値)は、前期比0.3%増、前年同期比2.8%増だった。4~7月期の前期比0.9%増から減速し、16年7~9月期以来2年ぶりの低水準となった。市場予測の前年同期比0.6%増(公共放送ABC)を下回った。
ABSのブルース・ホックマン主席エコノミストは、声明で「家計収入の堅調な伸びに支えられ、消費の伸びが内需を押し上げた」と指摘した。
しかし、景気の目安となる家計最終支出(個人消費に相当)は前期比0.3%増と7~9月期の同0.7%増から減速した。一方、家計の貯蓄率は2.4%まで低下し、世界金融危機以前の07年12月以来最低の水準を記録した。
政府部門の支出は0.5%増と堅調だった。輸出から輸入を引いた純輸出のGDP寄与度は0.3ポイントだった。
豪州経済は1991年9月期以来27年間、景気後退の定義である「2期連続のマイナス成長」を回避し、息の長い安定成長を続けている。ただ、不動産価格の下落と住宅ローンの貸出規制強化を背景に、新年は一段の景気減速を予測する声も出ている。英国の経済調査会社、キャピタル・エコノミクスは、今回のGDP統計について「住宅価格の下落と貸出締め付けによる影響の大半は、まだ顕在化していない。2019年に向けてGDPの伸びは更に鈍化するだろう」との見方を示した。