4年に一度開催されるサッカーのアジア王者を決めるAFCアジア・カップ(以下、アジア杯)が、1月5日に開幕する。前大会を制し現王者の豪州、そして過去4回と最多優勝回数を誇る日本。アジア杯での日豪両国の対戦は、これまでさまざまなドラマを生んできた。2月1日まで行われる同大会に臨む日豪両国の最新情報を紹介しつつ、盛り上がり必至の大会を本紙特約記者の植松久隆が展望する(選手の所属先は2018年12月19日時点、本文中敬称略)。(文=植松久隆/本紙特約記者)
アジアの覇権を争う大会
アジア・サッカーの王者を決める4年に一度の熱い戦い、アジア杯。第17回目の大会のホスト国は、中東のアラブ首長国連邦(UAE)。今回から開催国以外の予選免除がなくなったので、日豪両国を含む予選を勝ち上がってきた23カ国と開催国UAEの計24カ国が「アジア王者」の座を目指してぶつかり合う。その24カ国は6つのグループに分かれて、まずは決勝トーナメント行きの切符を争う。その後、16チームが決勝トーナメントに進出、約1カ月の熱戦の末にアジア王者が決まる流れだ。
ここで、簡単にアジア杯の大会の歴史をひも解こう。1956年に当時まだ英国領だった香港で開催された初回大会は韓国が制したが、その時の参加国数はわずか4カ国。64年の第3回大会までは参加国が4カ国のままで推移した。その後大会規模は大きくなり、今大会ではアジア全体のレベルが向上している現状も踏まえて、前大会までの16カ国から一挙に8カ国増で24カ国が参加して行われる。
歴代のアジア杯優勝国の顔ぶれを見渡すとなかなか面白い。前述の通り日本が4回(92、2000、04、11年)の優勝とアジア有数のサッカー強豪国にふさわしい結果を残しているのを筆頭に、優勝経験国の数は8カ国。その“優勝国クラブ”では、日本を優勝3回で追うイラン(1968、72、76年)とサウジアラビア(84、88、96年)、そして初回から2連覇を果たした韓国(56、60年)といったいわゆるアジアのサッカー強国が、きっちりと長い歴史の中で結果を残してきた。直近3大会では、イラク(2007年)、豪州(15年)がそれぞれ初タイトルを得ている。
紡がれてきた日豪戦の歴史
アジア杯での日豪戦は、豪州がアジア・サッカー連盟(AFC)に転籍し07年大会に初参加して以来、過去2回、実現している。最初の対戦は、昨年から12年ぶりに豪州代表を率いるグラアム・アーノルドの第1次政権下での試合だった。この時は、準々決勝でPKまでもつれ込んだ試合を日本が制した。
日豪両国のアジア杯での対戦を語る時に外せないのが、11年カタール大会での決勝戦。日本代表FW李忠成(りただなり)のすばらしいボレーの決勝点と言えば、思い出す人も多いだろう。120分の激戦の末、日本が延長後半での李の決勝点を守り抜き、4回目の優勝を果たした名勝負だ。
続く、豪州開催の15年大会。豪州が自国開催で意地を見せ、初めてのアジア王者になった一方、日本がまさかの準々決勝での敗退を喫したことで、大会屈指の好勝負になると予想された対戦は実現しなかった。今大会では、どんな形での日豪戦になるか、こちらも楽しみにしたい。
NMD躍動の日本、5回目の優勝を狙う
18年12月12日、アジア杯に臨む日本代表メンバーが発表された。そのメンバーを見て、いわゆるサプライズはなかったが、森保一監督の揺るぎなき信念と選手への心遣いを感じずにはいられなかった。ともすると、経験値がものを言う大きな大会において、結果を求める中で経験豊富な選手をメンバーに含むことは、ままある。しかし、森保監督にはそういう考えはなかったようだ。
発表された23人はほぼ予想通りの顔ぶれで、香川真司(ドルトムント)、乾貴士(ベティス)、岡崎慎司(レスター)といったロシアW杯メンバーの復帰はなかった。香川に関しては、ドイツで完全に干されている状況で1月の移籍シーズンで新天地を求める可能性が高く、そこも配慮されているのだろう。攻撃的な中盤の控えに経験豊富な原口元気(ハノーファー)や海外雄飛が確実な伊東純也(柏)が名を連ねる現況では、香川に頼らずともやれるとの判断があったろう。
18年を負けなしで終え、新世代のエースたちがその持てる力を余すところなく発揮して躍動した森保ジャパン。その中心は何よりも、2列目の中島翔哉(ポルティモネンセ)、南野拓実(ザルツブルグ)、堂安律(フローニンゲン)のいわゆるNMDと呼ばれる“三銃士”だ。そこに柴崎岳(ヘタフェ)らが絡み、観ているだけで純粋に楽しいと思わせる代表チームは、いつ以来だろうか。欧州の地で成長を続ける3人と最前線に控える絶対エース大迫勇也(ブレーメン)と併せて構成される日本の攻撃陣がどれだけ暴れられるかが、そのまま日本の5度目の優勝に直結してくる。
DF陣では欠かすことのできない精神的支柱でキャプテンの吉田麻也(サウサンプトン)のCBのパートナー争いがし烈になってきた。実績・実力とも上位の昌子源(鹿島)が、クラブW杯や自身の欧州移籍の可能性もあって、今回も代表に選ばれていない。このところの代表でファースト・チョイスの扱いを受けているのが、期待の大型DFで弱冠19歳の冨安健洋(シント=トロイデン)。これに三浦弦太(G大阪)や槙野智章(浦和)が絡んでくる。
その日本だが、目標は5回目の優勝。グループ・リーグでは、トルクメニスタン(9日)、オマーン(13日)、ウズベキスタン(17日)と同じグループに入った(括弧内日付は現地時間)。いずれも決して簡単な相手ではないが、取りこぼしなく試合を進めて行けばグループ・リーグ突破は難しくないはずだ。まずは、堂々の1位通過を果たしてもらいたい。
王座防衛を目指すサッカルーズ
一方の豪州代表・サッカルーズ。こちらは、自国開催で得たアジア王者の座を守ることで、優勝回数で他のアジア・サッカー強国に伍すことができるだけに、タイトル防衛への思いは強い。
ロシアW杯後にティム・ケーヒル(ジャムシェドプル)、ミレ・イェディナク(アストン・ビラ)という2人のレジェンドが代表を引退したが、代わってスーダン難民としての出自を持つFWアワー・マビル(FCミッティラン)、スコットランド系で国籍を得た直後の代表デビュー戦で大活躍を見せたマーティン・ボイル(ハイバーニアン)といった新戦力が確実に台頭してきているのは明るい材料。
戦力的には、非常に痛い知らせがチーム発表直前になって舞い込んだ。欠かすことのできないチームの司令塔MFアーロン・ムーイ(ハダーズフィールド)が、リーグ戦でのけがで長期離脱することになってしまった。中盤には、若き有望株ダニエル・アルザーニ(セルティック)と経験豊富なトム・ロギッチ(同上)、前大会MVPのマッシモ・ルオンゴ(QPR)などをうまく組み合わせながら、その大きな穴を埋めていかないことには前に進めない。そこをどう乗り切るかは、経験豊富なアーノルド監督の用兵に注目しつつ見守ろう。
中東UAEでの開催で、豪州がグループ・リーグを戦う相手は、シリア、パレスチナ、ヨルダンと中東勢ばかりというのは少し気になるところ。だが、ここを1位通過すれば、決勝トーナメント初戦で、A組、C組、D組いずれかの3位チームとの対戦になるベネフィットがあるだけに、ここは前回王者としての堂々の1位通過を当然狙ってくるだろう。
日豪共に1位通過を……と書いて、慌てて決勝トーナメントの組み合わせをチェックした。両国が共に順当にラウンド16を突破すると、何と準々決勝で早々に対決が実現してしまう。それでは面白くない。共に2位通過してしまうと、何とラウンド16で顔を合わせる。それもまずい。
であれば、どうだ。日本1位通過、豪州2位通過だと決勝まで対戦はなくなる。11年大会に続く日豪戦での決勝、これが本紙的に考え得るベストのシナリオだ。そして、勝つのはもちろん、日本。決勝点は大迫の半端ないボレー・シュートという結末にしておこうか。
何はともあれ、4年に一度のアジア・サッカーの祭典、ぜひ楽しんでもらいたい。
日本代表 アジア杯メンバー
ポジション | 名前 | 所属 |
---|---|---|
GK | 権田修一 | サガン鳥栖 |
GK | 東口順昭 | ガンバ大阪 |
GK | シュミット・ダニエル | ベガルタ仙台 |
DF | 槙野智章 | 浦和レッズ |
DF | 吉田麻也 | サウサンプトン |
DF | 長友佑都 | ガラタサライ |
DF | 酒井宏樹 | マルセイユ |
DF | 佐々木翔 | サンフレッチェ広島 |
DF | 三浦弦太 | ガンバ大阪 |
DF | 室屋成 | FC東京 |
DF | 冨安健洋 | シント=トロイデンVV |
MF | 青山敏弘 | サンフレッチェ広島 |
MF | 原口元気 | ハノーファー96 |
MF | 遠藤航 | シント=トロイデンVV |
MF | 柴崎岳 | ヘタフェ |
MF | 中島翔哉 | ポルティモネンセ |
MF | 南野拓実 | レッドブル・ザルツブルク |
MF | 伊東純也 | 柏レイソル |
MF | 堂安律 | フローニンゲン |
MF | 守田英正 | 川崎フロンターレ |
FW | 大迫勇也 | ベルダー・ブレーメン |
FW | 武藤嘉紀 | ニューカッスル・ユナイテッド |
FW | 北川航也 | 清水エスパルス |