辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじと共に注目の新作を紹介!レーティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。
グリーン・ブック
Green Book隊長が観た!
ドラマ/M 1月24日公開予定 満足度★★★★★
年も明けて、例年のごとく映画の賞レース・シーズンに突入。その中でも、アカデミー賞の前哨戦とも言えるゴールデン・グローブ賞の発表が先日行われた。昨年は、セクハラへの抗議を示すために女性は黒いドレスで登場したことが話題になっていたが、今年はサンドラ・オーがアジア系としては初の司会を務め、こちらも話題に。ノミネートされた映画には『ブラックパンサー』『クレイジー・リッチ!』と、黒人やアジア人が主演の作品が並んでおり、3年前にアカデミー賞のノミネートが白人しかいない! と大きな批判を受けたころに比べたら、かなり改善されたイメージがある。
さて、その中で最優秀監督賞と最優秀外国語映画賞をダブル受賞したのが『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』。外国語映画賞には『万引き家族』もノミネートされていたので、日本でも注目を浴びていたカテゴリーだ。メキシコ出身であるキュアロン監督の半ば自伝的な映画で、彼の少年時代の思い出がベースになっている。これは配給が動画配信サービスの「Netflix」で、昨年の12月から配信済み。もしNetflixに加入しているなら、ぜひ見て欲しいお薦めの1本だ。でも、本当のお薦めは映画館で見ること、と言うか映画館で見るべき映画。
『ROMA/ローマ』と同じく、お薦めなのが『グリーンブック』。ゴールデン・グローブ賞では3部門を受賞して、最多受賞となった実話を元にしたコメディー・ドラマで、監督は、あの『メリーに首ったけ』のピーター・ファレリー。ストーリーは、ピアニストの黒人と白人ドライバーによるロード・ムービー。これだけを聞くと、お下劣なギャク満載の映画を想像するけれど、全く逆! 確かに笑えるけど、心に染みわたるハートウォーミングな良作だ。
成功している原因に、キャタクターの設定がある。時代は1960年代、当時人種差別が強く存在していたアメリカ南部へコンサート・ツアーへ出掛ける有名なピアニストの黒人のドン。その彼のドライバーとなるのが、労働階級のイタリア系アメリカ人、トニー。このトニーが、口よりも先に手が出るタイプで、教養もなく正直「おバカ」。対して黒人のドンは、ケネディ大統領のためにホワイト・ハウスで演奏したこともある高学歴で、住んでいる所もカーネギーホールにある大邸宅。この生まれも育ちも全く違う2人が一緒に旅するので、いろいろなドラマが起こるのだが、丁寧にエピソードを積み上げ、「おバカ」なトニーの純粋な心、ツンとすましたドンの優しさや悲しみ、そういった彼らの本心がジワジワとあぶり出されていく。
旅に出て奥さんに手紙を書くトニー。これがスペルミス連発、おまけに内容も陳腐で思わずドンが口を出すんだけど、その辺りのやり取りも笑える。だた、それも心が温まるような笑い。このような笑いに包まれながらも、黒人への人種差別など酷いことも起こるのだが、お涙頂戴に陥ることなくサラっと描かれている(でも、泣けたー)。唯一の不満は、これこそクリスマス時期に公開する映画で、もう1カ月早く上映してクリスマスに見たかったというぐらい。
ちなみにタイトルになっているグリーン・ブックとは、1950年代から60年代に、人種差別が強く存在していたアメリカ南部において黒人が安全に泊まれる宿泊施設などを紹介するガイドブック。自分は、その本の存在自体を知らなかった。
最後に、多くの人はこの映画の後にKFC(ケンタッキー・フライドチキン)に直行すると思うけど、自分はイタリア系移民のトニーが食べるミートボール・スパゲティーが無性に食べたくなった!
レット・ザ・サンシャイン・イン
Let the Sunshine In
ドラマ、ロマンス、コメディー/MA15+ 1月24日公開予定 期待度★★★
夫と離婚したイザベルはシングル・マザーとして娘とパリで暮らすアーティスト。自由奔放で恋愛に積極的な彼女は、残りの人生を共にできる理想のパートナーを求め、デートを繰り返すがどの相手にも一長一短があり、なかなかうまくいかない。そんなイザベルのめまぐるしく変わる恋愛模様がコメディー・タッチで描かれている。中年女性が今後の恋愛の行く末について真剣に思い悩む姿や、噛み合わない男と女の会話劇は実にフランス映画らしい作品に仕上がっている。主演は『イングリッシュ・ペイシェント』『ショコラ』『40オトコの恋愛事情』のジュリエット・ビノシュが務め、『ネネットとボニ』『美しき仕事』のクレール・ドゥニ監督がメガホンを取った。フランスが誇る名女優と巨匠がタッグを組んだ注目作だ。
ベン・イズ・バック
Ben Is Back
ドラマ/M 1月31日公開予定 期待度★★★★
クリスマス・イブの日に突然、疎遠になっていた息子・ベンが帰省。動揺しながらも喜ぶホリーだったが、薬物依存などの問題を抱えてリハビリ中だった彼は家族にとって、災いをもたらす厄介者だった。ベンをめぐってトラブルが巻き起こる中、再婚相手の夫とベンの実の妹ら家族が崩壊しないように何とか24時間で問題を解決し、クリスマスを迎えようと奔走する母親の姿が描かれた作品。ばらばらになっていく家族の心をつなぎとめるために懸命になるホリーを『プリティ・ウーマン』『エリン・ブロコビッチ』『食べて、祈って、恋をして』のジュリア・ロバーツが演じる。ベン役を『レディ・バード』のルーカス・ヘッジズ、そして彼の実の父親であるピーター・ヘッジズが監督を務めたことでも話題に。
ホワイト・ボーイ・リック
White Boy Rick
ドラマ、クライム/TBC 2月7日公開予定 期待度★★★
1980年代、デトロイトで父と姉と暮らしていた実在の人物リチャード・ワーシュ・ジュニアは、14歳でFBIのおとり捜査に協力し秘密情報提供者になった。しかしFBIからは何の報酬も得られず、それが彼を大きな闇の世界へと引き込むきっかけとなり、16歳でコカインの密売を始めると大成功を収め麻薬王になる。17歳の時に麻薬所持で逮捕・終身刑を宣告され、現在も服役中の彼の実話を基にした同作のメガホンを取ったのは、『クリミナル・ジャスティス』のヤン・ドマンジュ監督。主人公・リチャードには、同作が初作品の演技未経験のリッチー・メリットが抜擢され、『ダラス・バイヤーズクラブ』マシュー・マコノヒーや『ヘイトフル・エイト』のジェニファー・ジェーソン・リーらが脇を固める。
アリータ:バトル・エンジェル
Alita: Battle Angel
クライム、ミステリー、スリラー/TBC 2月14日公開予定 期待度★★★★
舞台は26世紀の荒れ果てた街ティファレス。サイボーグのアリータは、思いやりに溢れたドクター・イドに発見・保護され、300年の眠りから覚めた。彼女は自身の出生の秘密を探りながら腐敗した世界を変えようと奮闘する。原作は木城ゆきとの漫画『銃夢』で、『アバター』や『タイタニック』のプロデュースを務めたジェームズ・キャメロンとジョン・ランドーが再びタッグを組み、制作・脚本を手掛けた話題作だ。日本のSFコミックがアメリアのサイバー・アクション・ムービーとして実写化されたことでも注目されている。監督は『シン・シティ』のロバート・ロドリゲスが務め、ローサ・サラザール、クリストフ・ヴァルツ、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリらが出演する。
★今月の気になるDVD★
フォレスト・ガンプ/一期一会 Forrest Gump
コメディー/ドラマ 142分(1994年)
舞台は1950年代のアメリカ・アラバマ州の田舎町。フォレスト・ガンプは普通の子どもよりもIQが低く、背骨の歪みから脚装具を付けて歩いていたこともあり、いじめの標的にされることが多かった。しかし、ジェニー・クランという少女とすぐに打ち解け、少年時代をジェニーと共に駆け抜ける。フォレストがいじめっ子に追いかけられていた時、彼の足の速さが誰にも負けないということが判明し、彼の人生は大きく変わっていく。成長したフォレストは軍に加わり、数々の賞に輝き、エビ漁で成功し、走ることでメディアや人びとを惹きつけ、卓球で世界大会に出場し、多額の寄付を行い、当時の大統領とも数回面会するなど、数々の偉業を成し遂げ、成功を収めていく。しかし、フォレストは大人になるにつれ落ちぶれていくジェニーのことがいつまでも忘れられない。
フォレストはIQこそ低いものの、誰に対しても誠実で真っすぐであった。そんな彼を見守り続けた母親のキャラクターも印象的だ。「人生はチョコレートの箱のようなもの。開けてみるまで中身は分からない」という名言を一度は耳にしたことがある人もいるのではないだろうか。優しく勇気付けられる言葉が同作にはたくさんちりばめられている。
ベトナム戦争やヒッピー文化など、当時のアメリカのさまざまな出来事を描写しつつ、誠実でいることのすばらしさを、笑いを交えて教えてくれる名作を、上映当時から年を重ねた今、改めて見てみてはいかがだろうか。(編集=NT)