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【特集】オーストラリアの「米」事情①

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特集

オーストラリアの
「米」事情

−2019版−

日本人にとってはなじみ深く、なくてはならない存在だと言える米。小麦、トウモロコシと並び世界の3大穀物に数えられる米はアジア諸国を中心に好んでよく食べられているが、その消費はオーストラリアも例外ではない。多民族・多国籍国家であるオーストラリアではさまざまな種類の米が流通し、特にアジア系レストランでは当地の代表的な米料理の他、創作料理も味わうことができる。今回、本特集ではレストランやスーパーマーケットで出合える米、オーストラリアで生産されている米の歴史からオーストラリア産米の現状、そしてこの国で食べられる日本産米について注目していく。また、米を使った簡単レシピやおいしい米料理が食べられるレストランも併せて紹介する。(取材・文=高坂信也)

■オーストラリアの米の流通

オーストラリア国内に流通する米で、一番よく見掛けるのは国産米メーカーであるサンライス社(SunRice)の物だろう。オーストラリアの国産米についてはサンライス社が生産・販売を独占しており、スーパーマーケットや主にアジア系レストランへ卸している。

オーストラリア産米の生産では灌漑(かんがい)を利用していることから水の確保が最重要になるのだが、自然災害、特に干ばつの影響を受けることもあり、その年によって生産量に相当なばらつきがあるという。そのうち国内流通は生産量の約50%にとどまり、残り半数は海外への輸出用となっている。輸出先は主に日本を含むアジア諸国が多い。

その他、タイやベトナムなどのアジア諸国やアメリカで生産された米、そして日本から輸入される日本産米が国内で流通している米として大別できる。

JFCオーストラリアの倉庫内で保管されているカリフォルニア産米「NISHIKI」
JFCオーストラリアの倉庫内で保管されているカリフォルニア産米「NISHIKI」
ベトナム産米「SUSHI HIKARI Rice」(JFCオーストラリア)
ベトナム産米「SUSHI HIKARI Rice」(JFCオーストラリア)

世界各地にネットワークを持つ食品の卸・問屋事業を展開させるJFCオーストラリア(キッコーマン・グループ)によると、同社が取り扱う米はサンライス社、日本産米の他、アメリカ・カリフォルニア産米、ベトナム産米など世界各地から集められているという。同社は世界中にネットワークを持つこともあり、以前は輸入していたイタリア産米は現在では取り扱いがなく、最近では中国産の玄米(古代米)を仕入れるなど、その時勢によって取り扱う米も変化しているという。

カリフォルニア産米は1キロ当たり1~2ドルとサンライス社や他の輸入米と比べて安価。同社が取り扱っているカリフォルニア産米は「NISHIKI」(Sushi RiceとMusenmaiの2種類ある)と「BOTAN Musenmai」で、共に中粒種で比較的粘り気が少ないためすしロールに合わせやすく、また無洗米で洗う手間がないため飲食店への需要が大きいという。また、ベトナム産米「SUSHI HIKARI Rice」(短粒種)は、近年その輸入量が増えているそうだ。

オーストラリアで米を食べる

JFCオーストラリアの米の販売先は飲食店(フード・サービス)が約70%を占める。その中でも日本食レストランや回転ずし店、またすしロール店などが主要な相手先となる。

同社の皆川健司氏は、「最近ではラーメン店や居酒屋風レストラン、更には焼き肉店などでの米の需要が増えてきているように思います」と話す。10年ほど前からテイクアウェイできるお手軽フードとして定着し、成長を続けてきたすしロール店がオーストラリアでの米の需要をけん引してきたが、現在は成熟期を迎えその勢いは落ち着いていると言える。一方、“居酒屋”形態の飲食店や焼き肉店などが、今後米の需要を引っ張っていく存在となるかもしれない。現に焼き肉店では、白飯がよそわれた茶碗を手に肉を食べる人びとを見掛けるようになっている。

取引先の残り30%は中国や韓国系のグロサリー・ストアや販売代理店、スーパーマーケットとなっている。

日本産米の消費に目を向けると、日本人オーナーか日本人シェフのいる日本食レストラン、あるいは日系及びアジア系のスーパーマーケットでの購入かに限られるのが実情だ。ただし、日本人経営の日本食レストランでも日本産米を食べられる店舗は限られる。また、中国・韓国系オーナーによる日本食レストランでは価格帯の安い米を使用しているケースがほとんどだ。

そうした中でも、日本産米が食べられる店は着実に増えている。「YAYOI Japanese Teishoku Restaurant」をシドニー市内で展開する「Plenus AusT」は2014年のオーストラリア進出以来、一貫して日本産米のみをこだわって提供している。同社が使用するのは「金芽米」と呼ばれる、白米で玄米の栄養分を保持させる方法で精米した無洗米で、通常のご飯よりもカロリーや糖質が低いことに特徴がある。また、シドニー市内中心部で店舗を構える四季ジャパニーズ・レストランでは、2年ほど前に使用する米をサンライス社の「Koshihikari」から「あきたこまち」に替え、それを全メニューに適用し提供しているそうだ。他にも日本産米のみを使用する日本食レストランから、一部のメニューで日本産米を取り入れる店もある。

米の種類

粒幅と粒長の関係
粒幅と粒長の関係

そもそも米には、「長粒種(Long Grain)」「中粒種(Medium Grain)」「短粒種(Short Grain)」の3種類が存在する。米の縦の長さを粒長、横を粒幅とし、長粒種は粒長が粒幅の3倍以上の長さがある物、その長さが2倍以上3倍未満が中粒種、2倍未満が短粒種となる(右図参照)。

米に含まれる重要な栄養素であるデンプンは「アミロース」と「アミロペクチン」と呼ばれる2つの成分で構成され、米の種類によってデンプン量にも違いが見られる。アミロペクチンは粘り気の元となる物質で、100%だともち米になる。日本産米のような短粒種はアミロペクチンを多く含むため、もちもちとした食感を持つ。もう少しアミロースの比率が高くなると中粒種となり、タイ米などの長粒種になるとアミロース含有量が高く、短粒種とは対照的に粘り気はなくパラパラになる。

もしオーストラリアで日本と同じような米を食べたい時には「ショート・グレーン(Short Grain)」と書かれた短粒種の米を選びたい。同国では「ミディアム・グレーン(Medium Grain)」の中粒種をよく見掛け、更に短粒種とも形状の違いが分かりにくいが、種類によってデンプン構成が変わるので、食感や味はそれぞれ異なるので気を付けたい。

■精米

精米とは米の周りにある外皮やぬかを削り落とし白米にすることである。精米機の中には砥石があり、そこに圧力を掛けて米と米を摩擦させることで外皮を削っていく。

伊藤忠豪州会社の西阪徹氏は精米について、「米の外皮やぬかを削り落としていく工程が精米です。削りが甘くぬかが残ってしまうとぬか臭くなってしまいますが、逆に精米の歩留(ぶど)まり(※)を下げて削れば削るほど、米の中心部分、すなわち純粋な炭水化物のみが残りうまみが少なくなるとも言えます。米の種類にもよりますが、どのように削るかで米のうまみが変わってくるため、精米行程は非常に繊細であり、おいしい米を食べるために最も大切な工程です」と話す。

※歩留まり:製造業などの生産において、欠陥品を除いた良品が全ての製造品のうち、どのくらいの割合を占めるかを明確にするための計算のこと。

精米の重要性

サタケの精米機(写真提供=サタケ)
サタケの精米機(写真提供=サタケ)

サンライス社では、世界中で米の加工機械などを製造・販売する企業・サタケ(本社:広島・東京)の精米機を採用している。同社のオーストラリア拠点であるサタケ・オーストラリアの山下健二氏は「オーストラリアでは短粒種だけではなく、長粒種や中粒種も生産され、それらを同一の機械で精米します。そのため精米する米の種類が変わる度に必ず精米機の微調整が必要となる特殊な環境」と、精米の観点からオーストラリアの独自性について話す。

また伊藤忠商事はサンライス社と技術提携しており、特に精米に関しては伊藤忠商事側から精米技術者を派遣している他、両社間で意見交換を行い、共同でオーストラリア産米の品質改善を図っている。西阪氏はサンライス社の精米について以下のように語る。

「元々オーストラリア産の米は胴割れ(注:米の内部が割れている状態)が多かったんです。これは乾燥した気候風土、米の形状や品種などによっても変わりますが、主な原因として①精米時の圧力を掛けすぎていたこと、②オーストラリアは一般的に乾燥していることなどが挙げられます。割れを抑え、なおかつうまみを最大化するよう仕上げるにはものすごい努力が必要で、オーストラリアの気候風土、乾燥具合、米の品種などを総合的に判断します。そして、どのように圧力を掛けると、どのような品質の白米ができるのか毎日微調整しながら炊飯試験を行います。試行錯誤した結果、『これだ!』と納得できる米を作るのですが、シーズンによって天候環境も異なるため、その都度、常に微調整し最高の品質の米を供給する努力をしなければなりません。そうしたプロセスを経ていることで、サンライス社の米の品質、食味は格段に向上しています」

日本産米の努力

米は精米したてが一番良い状態だと言われる。しかし日本産米に関しては、オーストラリアにはそれを実現できない障壁が幾つか存在する。日本からオーストラリアへもみ(注:玄米の殻をむかれる前の状態)を輸入することができず、また玄米も輸入はできるが非常に厳しい制約が課せられている。加えて、現状ではオーストラリア市場で精米したての日本産米を食べたいという需要がまだ低く、人件費などのコストと見合わないという。結果、日本国内で精米した物を船便で2~3カ月掛けて輸出することになる。

もちろん、輸送には細心の注意が払われている。JFCオーストラリアでは道中、赤道を通過するので、高温で米が傷むのを防ぐため低温下のコンテナで輸送、また白米が酸素に触れ、酸化することを防ぐよう真空パックにするなどの対策を採っている。「YAYOI Japanese Teishoku Restaurant」は自社精米工場から精米した米をすぐに船で運べるよう日本国内のルートを整備し、自社のコンテナは船上で厳密な温度調節(15度以下の環境下で管理)を行い、鮮度を保っている。また、オーストラリア到着後もシドニー市内の倉庫では、米を同温度で管理しているという。

遠く離れたオーストラリアへ日本産米を届けるために、最大限の努力が払われているのだ。

■オーストラリア産米の誕生

現在は、数多くのアジア系レストランでさまざまな米料理を食べられ、アジア系スーパーマーケットではいろいろな種類・品種の米を購入、家庭で食べることができるようになっているが、オーストラリアでの米作りは1906(明治39)年にまでさかのぼる。そして、そこには1人の“日本人”が関係している。その人物の名は高須賀穣(たかすかじょう)。今回は、高須賀穣について書かれた書籍『穣の一粒』の著者である松平みな氏にオーストラリアで初めて米作りに成功した高須賀穣とはどのような人物であったかを教えてもらった。

高須賀穣という男

1912年初めて米の収穫を迎えた時の高須賀穣(右)と妻・いち子(写真提供=松平みな)
1912年初めて米の収穫を迎えた時の高須賀穣(右)と妻・いち子(写真提供=松平みな)
高須賀穣が米作りのために造った堤防近くの道は、現在も「TAKASUKARoad」として残っている(写真提供=松平みな)
高須賀穣が米作りのために造った堤防近くの道は、現在も「TAKASUKARoad」として残っている(写真提供=松平みな)

伊予松山藩士・高須賀嘉平(かへい)の長男として1865年に生まれた穣は、地元の小学校の教員を経て、慶應義塾(現・慶応義塾大学)で学んだという。その後、アメリカへ渡り5年掛けて文学士を取得。帰国後には衆議院議員選挙に立候補し当選、国会議員として活躍した。

そんな中、穣は1905年、40歳の時に妻と子ども2人を連れてVIC州メルボルンへと向かった。当時白豪主義が真っただ中のオーストラリアだったが、穣は自身を挑戦者とし新天地での闘いに熱く燃えていたという。当時米を全て輸入に頼っていたオーストラリアの将来のためと、VIC州知事と土地省大臣に米作りへの進言を行い、穣はVIC州政府からマレー川沿いスワン・ヒルに200エーカー(約81ヘクタール)の土地を借り受けることに成功した。

日本からの数種類の種もみを試行錯誤で試すも度重なる洪水などにさいなまれた。しかし12年、米作りを始めて6年後に初の収穫を迎えたという。その後、NSW州のヤンコー農業試験場でオーストラリア国内で米の生産が研究されるようになり、現在は一大生産地である同州リバリーナ地方のリートンで毎年生産・収穫されるようになった。穣は米作りを終え、その後はブドウやトマト栽培に注力し40年、75歳でその生涯を終えたという。

オーストラリアで現在、米を食べることを楽しめるようになった背景にこのような1人の日本人の努力があったことを覚えておきたい。

次よりサンライス社の米、オーストラリアに流通する日本産米について詳しく見ていくことにする。

サンライス社に聞いた!オーストラリア産米のこと

サンライス社は、オーストラリアにおいて米の生産・販売をほぼ独占状態している企業で、特にオーストラリア国内の米の供給に関しては、それを左右する存在であると言えるだろう。1950年創業の同社は、毎年平均して50万トンの米を生産している。しかし、前ページでも述べた通り、オーストラリアでの米の生産には灌漑(かんがい)を利用するため、水の確保が非常に重要となる。そのため自然災害、特に干ばつなどが起こることで米の生産自体ができないこともあるという。

生産した米は国内に流通させている他、世界60カ国ほどの国に輸出している。中でも、中東を含むアジア圏(東アジア、南アジア、東南アジアなどが主)が大きなマーケットになっているそうだ。

日本に関して言えば、昨年12月末に「TPP11」が発効され、オーストラリアから米の輸入への無関税枠が設けられた。それにより、日本は年間で最低6,000トンの米を3年間にわたってオーストラリアから輸入することが決まっている(初年度=18年12月30日~19年3月末までは2,000トン)。輸入枠は最大8,400トンとし、徐々にその量を増やしていくことが予定されている。

オーストラリア産米のほとんどがオーストラリア南東部、NSW州リバリーナで生産されている。同地域は特にジャポニカ米(中粒種及び短粒種)の生産に適しており、サンライス社では同地域でしか米を生産していないという。リバリーナは土壌が肥沃(ひよく)で、空気や水が澄んでおり、理想的な日光量を持っているとされる。

サンライス社の役割

以上のことを踏まえて今回、更にサンライス社やオーストラリア産米について、日本への輸出担当責任者である同社のダイアー・ルパート氏に話を伺った。オーストラリアでは全ての種類の米を生産しており、その内訳として長粒種が約15パーセント、中粒種が約75パーセント、短粒種が約10パーセントという割合となっている。オーストラリアでこれほどの多種類の米が生産できるのは、同社が独自の研究開発(Research & Development/R&D)に力を入れているからだ。また、種子を徹底管理し他種類の種子と混じらないよう栽培させたり、その品質を厳正に管理し、収穫から流通まで追跡可能(トレーサビリティ)にしたりするなどの「ピュア・シード・プログラム(Pure Seed Program)」と呼ばれる徹底した品質管理システムを確立させている。

同氏は、幅広い種類の米の生産についてこう話す。

「実際に消費者が作りたい料理に合わせた米を使えるように、さまざまな種類を生産しておくことはとても大切なことです。その上で、米の品質を常に良い状態にしておくことが最重要事項だと考えています」

同社の商品の中でも8割以上の生産量、そして人気を誇るジャポニカ米。その背景について同氏は「日本食や韓国スタイルの料理が国際的に流行り多くなってきていることに伴って、ジャポニカ米の消費が増加しています。そうしたレストランはその高需要をけん引しており、短粒種や中粒種、『Koshihikari』などがより多く使用されています」と話す。

続けて「弊社は、オーストラリアにおいて米の輸出に関して大きな一角を担っています。国内マーケットへの需要はもちろん、世界で生産しているサンライス社の米を販売することが大切ですね」と語る。

今回は、その中でもサンライス社が消費者向けに販売している米を以下に一部紹介したい。それぞれ種類や特長、適した料理例などをまとめたので、ぜひ参考にして購入してみてはいかがだろうか。

画像をクリックすると拡大しますサンライス社の「Everyday Rice」

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