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【特集】オーストラリアの「米」事情②

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特集

オーストラリアの
「米」事情

−2019版−

オーストラリアで日本産米を食べる

■日本産米の希望と課題

日本産米の普及

日本政府が日本産米の海外への輸出に力を入れ始めたのは2013年ごろ。農林水産物・食品の品目項目に「コメ・コメ加工品」を設定し、輸出戦略を図ってきた。現在は「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト」の下、日本産米の海外への輸出展開を促進している。農林水産省が発表する『米をめぐる状況』(19年1月)によれば、18年(1月~11月)の日本産米の海外輸出量及び輸出金額に関して、オーストラリアは香港、シンガポール、アメリカ、台湾に次ぐ第5位に着けている(下表参照)。

しかし、日本の輸出促進のため、さまざまなサポートを行うジェトロ・シドニー事務所の藤原琢也氏は「(第6位の)中国は、政府による検疫・衛生条件が厳しいことに加え、日本産米のコストが課題となり輸出量が落ち着いているが、(米の)需要としては大きい市場があるのではないか」と言及する。

米の海外輸出戦略において、日本はオーストラリアを“新興市場の重点国”として捉えている。下表のオーストラリアに焦点を当てると、ここ2~3年で日本産米の輸出量は3割増加し、18年は11月までに555トンが輸出され、統計初年度の13年と比較しても3倍以上にその量が増えている。また、輸出金額も付随して増加をたどっている。この背景には和食(日本食)のブームやオーストラリアからの訪日旅行者の増加により、実際に日本産米を現地で味わってきたことなどが要因として挙げられる。しかし、それとはまた違った要因も藤原氏は口にする。

「オーストラリアの人口は近年、3年間で約100万人(うち約60万人は移民)というペースで人口が増加しています。更に移民にはアジア系の人たちの比率が高く、特にインド人や中国人の増加が目立ちます。そうした背景から食糧需要の純粋な絶対量が増加しているのではないでしょうか」

続けて「オーストラリアの平均所得が高い」ことを指摘し、人口が2,500万人を超え今後の人口増加も見込まれることから、購買者の絶対数が多くなることは確かだという。そのためオーストラリアは、米ひいては日本産米のマーケットとして十分なポテンシャルを持つ国であるという。

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財務省「貿易統計」(政府による食糧援助を除く)。注1:カッコ内は対前年同期増減率である。注2:「その他」には、2017年については、ロシア、カナダ、フランスなどが含まれる。注3:数量1トン未満、金額20万円未満は計上されていない

潜在マーケットの存在

日本産米の輸出量が増えた理由に関して、在シドニー日本国総領事館の土屋修久(のぶひさ)氏は「高くてもおいしい物を食べたいという潜在需要」がオーストラリア人にはあると考えている。また、日本食レストランをオーストラリアに広めるPRサイト「Washoku Lovers」を運営するSDマーケティング・グローバル代表の尋木(たずのき)由理氏は「Washoku Loversのニュースレター受信者(3万人:19年1月現在)の99パーセントがオーストラリア人です。彼らのほとんどが日本に旅行し、現地で日本食を食べたことがある人たちです」と話す。

しかし、日系スーパーマーケットの小売価格では日本産米はサンライス社や他の輸入米と比べ1キロ当たり約2~3倍の値段が相場で、価格が高いことは否めない。スーパーマーケットなどでの購入者層としては在住日本人、近年では富裕層の中国人やアジア系の人たちの需要が増えてきているという。オーストラリア人を含むその他の国籍者は数パーセントにとどまるそうだ。

日本産米の価格に関しては、日本国内市場で既にコスト削減がギリギリまで行われ米農家が磨耗している状態で、日本では「同じ価格帯の米が市場に溢れ返っている」という。そうした状況の中、米の海外への輸出戦略は大きな意味を持っている。しかし、オーストラリア人は米にテリヤキ・ソースなどの味を付けて食べる傾向があり、白飯だけを食べることはめったにない。

だからこそ、土屋氏はこう話す。

「オーストラリアで日本産米を販売する際には、どういった食べ方がされ、どの品質の米がどのくらいの価格で必要とされているのかを見極めなければいけないと思います。マーケットに合わせて臨機応変に輸出戦略を練る必要があります。きっかけとしては、日本食レストランで日本産米を口にすることが多いかと思いますが、日本産米のおいしさを訴求するならば、白飯を食べるメニューを浸透させ、日本産米を売りやすいマーケットへと変貌させる必要があるのではないでしょうか」

尋木氏は「日本へ旅行したことがあるオーストラリア人には、現地で日本食を食べたことで、自国で食べている米とは全然違う物であるという感覚を持つ人が多い」と話す。そうした旅行先で食べた日本産米を自国に帰ってきてからも食べたいと考える層は一定数確実にいるだろう。そう考えると、近年のオーストラリアからの訪日旅客数の増加は日本産米を知ってもらう上でも明るいニュースと言える。

食文化の提唱

そうした状況下において日本産米に求められているのは「付加価値」の創出だという。「YAYOI Japanese Teishoku Restaurant」をシドニー市内で展開する「Plenus AusT」が提供する「金芽米」のような機能性成分を含んだ米や、手軽なパックごはん(包装米飯)、またグルテン・フリーを強く打ち出した物、米粉などの加工品などがそうした物として挙げられるだろう。

また、商品としての魅力に加え、食習慣の違いを理解し日本の食文化ごと伝えていく必要性も重要だという。土屋氏は「より一層、日本食の楽しみ方や良さ、食文化を浸透させていく必要がある。その余地はまだ十分にあるのではないか。また日本の味付けに寄り添うことができるのは日本産米にしかできないのではないかと思います」と話す。

藤原氏は「日本産米の良さを知ってもらい、理解してもらうことが大切。例えば、ラーメン定食としての茶碗一杯の白飯や、あるいは日本のカレーライスは日本産米に合うように作られていると思うのでカレー・ブームが起きると面白いと思います」と話す。

更に「Plenus AusT」の岡啓一郎氏は「着実に日本産米へのファンは増えている。個人での行動は難しいかもしれないが、一企業として取り組めることがあると思う。“これが日本産米なんだ”というアピールと、それに伴う食文化を提供したい。そして世界的に(日本産米が)浸透していけば良い」という。

多くの人にとって日本産米に触れるきっかけは日本食レストランであることから、それらは日本食の楽しみ方や食文化の発信をけん引していく存在でもある。

尋木氏は「オーストラリアでの日本産米の発展にはきっかけとなる日本食レストランが非常に重要です。店舗が日本産米を使えるよう日本政府の補助などがあれば、経済的負担を軽減しつつその役割を担えることができるのではないでしょうか。また、在住日本人が日本産米を食べることで訪日経験のあるオーストラリア人らがその味を自国で探すことにつながると思います。その他にも、イベントの開催やメディア、スーパーマーケット、旅行業(インバウンド)など、さまざまな方法が残されています」と話す。

■日本産米の事例

日本に比べ種類は大幅に減るが、いろいろと試す中でオーストラリアにいながら自分好みの日本産米を探してみるのも面白いかもしれない。

今回、3つの日本産米を以下に紹介する。

まっしぐら(青森県産)

青森県産「まっしぐら」
青森県産「まっしぐら」

青森県産の「まっしぐら」は輸出量が年々増加している。使用される農薬が最小限にとどめられ、精米工場ではHACCP(※)を取得し安全面にも配慮されている。同県の奇麗な水を利用することや昼夜の寒暖差が大きいことが作用し、米にうまみや甘味が出ているという。

生産者によると「まっしぐら」は、バランスが良くあっさりしているため、どのような料理にも合わせやすいが、粒がしっかりとしているので「すし」「丼物」「カレーライス」などにお薦めだという。

また、販売を担当するJFCオーストラリアによれば「まっしぐら」は現在、オーストラリアにあるコストコ全店舗で陳列されているという。日本産米がローカルに受け入れられ始めており、その需要が見込まれているのではないかと予想している。

※HACCP:「Hazard」「Analysis」「Critical」「Control」「Point」の略で食品を製造する際、安全確保のための管理手法。食品の製造・出荷工程で、どの段階で微生物や異物混入が起きやすいかという危害をあらかじめ予測・分析し、被害を未然に防ぐ方法のこと。

特別栽培米 但馬産こしひかり「コウノトリ育むお米」(兵庫県豊岡市)

特別栽培米 但馬産こしひかり「コウノトリ育むお米」
特別栽培米 但馬産こしひかり「コウノトリ育むお米」

兵庫県豊岡市が1950年代からの伝統的な農法(特許を取得)で作り、コウノトリの野生復帰を実現させるため、農薬を使わず生産。また、冬場は通常休耕田にするが、その期間も水を張ることで、コウノトリが食べる餌が育つ環境を整えている。コウノトリは明治時代、近代化の影響で激減し、唯一同市でのみ生息していたとされる。

コウノトリの野生復帰の取り組みは市を挙げて続けられており、2019年1月現在、100超の農家が作付けに従事、同市全体で約1,400トンを収穫し、コウノトリ約100羽が野生復帰している。

オーストラリアではSDマーケティング・グローバルがマーケティングを務め、既に幾つかの日本食レストランで採用されている。シドニー市内にある四季ジャパニーズ・レストランとトシヤ・レストランでは「釜飯」としてメニュー化されている。その他、ライタ・ノダ・シェフズ・キッチンでは「おまかせコース」内のすしに使用されているなど、今後も米の案内をするだけにとどまらず、実際に日本食レストランで採用されるまでのメニュー提案なども行っていくという。

また購入できる場所は、シドニーにある「東京マート」及びメルボルンの「フジ・マート」がある。

尋木氏は「オーストラリア初となる唯一のオーガニック米『コウノトリ育むお米』は、通常の日本産米よりも高価で、賞味期限も短いですが、コウノトリの野生復帰を目指している中で環境保護も行っているというそのストーリー性に価値を感じて頂ければ」と語る。

八重原米こしひかり(長野県産)

長野県産「八重原米こしひかり」
長野県産「八重原米こしひかり」

中山間地に位置する長野県東御市八重原は、日照時間が最も長い地域の1つ。台地特有の冷涼な気候と相まって、八重原米には潤いと粘りとおいしさが備わっている。

蓼科山が源流の、江戸時代に稲作のためだけに造られた八重原用水を使用しており、年間800ミリという日本ではまれな降雨量の少ない地域であること、また標高680メートルのコシヒカリ作付けのほぼ限界の標高で作られていることから、農薬と化学肥料をできる限り使用しない栽培を実現させている。土壌は強粘土地帯で、保肥力(肥料を土に保つ力)があるため、他の地域よりも化学肥料が少なく済んでいるという。

シドニー北郊アーターモンにあるスーパーマーケット「ラッキー・マート」、またはオンライン・ショップ「Thanks Mart」(Web: www.thanksmart.com.au)で購入することができる。

米の「研ぎ方」と「炊き方」

■協力=甲斐俊也氏(Restaurant Toshiya)、西阪徹氏(伊藤忠豪州会社)、松谷朋之氏(Robata Ichibandori/Ramen Ichibandori)、株式会社サタケ、「まっしぐら」生産者の皆さん

研ぎ方

米を食べるためにまず研ぐ(洗う)ことから始める。なぜ米を研がなければならないかというと「精米した米の表面に付いているぬかやごみを取り除くため」だ。
 米を研ぐ前に気を付けたいのは“しっかりと分量を量ること”。計量カップなどを使って、米の分量をできる限り正確に量ろう。そして、最初の水はできれば浄水やミネラル・ウォーターなどの水を使用したい。更に米は最初に触れた水から急速に吸水を始めるため、軽く手早く洗い、すぐに水を捨てるようにする。なぜなら、精米技術の進歩によって強くガシガシと洗う必要はなく、優しく洗うだけでぬかやごみが取れるからである。また、米はすぐに吸水することから取れたぬかやごみの成分までも吸い込んでしまう可能性があるため、軽く早く洗った後はすばやく水を捨てる。
 5~6回ほど米を研いだ後、浸水させる。最初の30分間、ものすごいスピードで米が吸水を行うため、最低30分は浸水させたい。浸水させた後はその水を捨て、可能であれば奇麗な水(浄水など)をしっかりと計量してから入れて炊く。

計量カップを使って、しっかりと量ろう
計量カップを使って、しっかりと量ろう

米の保存について

米の購入後は密閉容器に入れ、冷蔵庫あるいは冷凍庫で保存することをお勧めしたい。また温度が高い場所では劣化が早いため、白米購入後は1カ月をめどに食べ切ることが重要だ。

※上記は、日本人が口にする短粒種における範囲であり、長粒種などその限りではない場合もある(長粒種はパサパサ感を出すために、1年間貯蔵する国もある)。

炊き方

炊き上がったら、すぐにかき混ぜよう。その後、べちゃべちゃにならないように蒸気を放出し水滴などもふき取る。米がつぶれないようにしゃもじは縦に入れ、かき混ぜる。そうすることで米粒がひと粒ひと粒しっかりと立つ。ふたを閉じたままでいると水分過多の状態になり、べちゃっとして時間が経つと米と米がくっ付く。
 保温する場合は、釜の中がどんどん乾燥し水分が飛んでいくため、釜に付着している箇所は温度が高いので、米を釜から離して真ん中に寄せるようにすると良い。

なべ、羽釜で炊く

なべや羽釜がある場合は、それらを使用して米を炊いてみるのも良いだろう。火の調節などが難しいが、ガスで炊くことで米がよりふっくらするという。また炊飯器の場合、釜の外側と内側で食感が違うことがあるが、ガス(なべ)を使用することで比較的その違いが少なく感じられるという。
 また羽釜の場合、火(ガス)が全て羽釜の最下部に当たるような造りの物もあり、そうすることで熱が逃げることなく炊くことができる。炊飯器では感じづらいが、炊き上がり後、米の表面に穴が空いており空気が抜けていると、おいしく炊けた証拠だ。


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