モーター・スポーツ界の最高峰とされるF1グランプリ(以下、GP)世界選手権の第1戦、オーストラリアGPが3月14日(木)から17日(日)までメルボルン市内のアルバート・パークで開催される。昨季は、フェラーリのセバスチャン・ベッテルがオーストラリアGPと続くバーレーンGPに連勝してフェラーリ復活を世界に印象付けた年となった。今季に関しては、5季年間チャンピオンに輝いたメルセデスのルイス・ハミルトンにレッド・ブル在籍時代に4連覇したベッテルが挑戦状をたたき付けるという構図になるか。激戦が予想される2019年オーストラリアGPの見どころを紹介する(文中敬称略)。(文=板屋雅博)
2018年のF1GP
昨季2018年のF1GPは、第1戦オーストラリアGPから最終戦アブダビGPまでの21戦が戦われた(17年は20戦)。フェラーリが前半を快走し、シーズン中盤まで好調を維持していたためフェラーリの年間優勝が予想された。しかし、終盤にフェラーリが減速してしまうとメルセデスが逆転勝利してコントラクター(製造者部門)で5連覇を飾った。
ドライバーではルイス・ハミルトンが圧倒的に強く11勝して年間チャンピオンに輝いた。ハミルトンは、前年に続いての連覇で、通算5回目の年間チャンピオンを勝ち取った。メルセデスの11勝は全てハミルトンが稼いだもの。ハミルトンは、2位3回、3位3回と20戦中17回も表彰台に上がっている。熾烈(しれつ)な戦いを演じるメルセデス・エンジン・パワー・ユニット(以下、PU)とフェラーリPUに対して、3番手争いを演じるのがルノーPU対ホンダPUである。19年からはトロ・ロッソに続き、名門レッド・ブルもホンダ製PUの採用を決めた。メルセデス、フェラーリと共に3強と評される名門レッド・ブルがホンダを採用したことでホンダの評価も高まった。
レギュレーション(技術規定)
現在のマシンは、V型6気筒1.6リッター・ターボ・エンジンが規定である。エンジンには運動エネルギー回生機構(MGU-K)と熱エネルギー回生機構(MGU-H)が組み込まれており、エンジンPUと呼ばれる。マシン1台につきエンジンPU3基に制限される。開発に大きなコストが掛かり、資本力のあるメーカーが有利な立場になることを防ぎ、また音量が小さくなってF1が面白くないという批判に応えるために、安価、大音量、高性能を目的としてMGU-Hが21年から廃止されることが決まった。
F1GPを引っ張る各コントラクター(メーカー)の動向
新シーズンに臨むF1GP主要各コントラクターの動向を以下に紹介する。
●メルセデス(ドイツ)
今年もメルセデスは、ルイス・ハミルトン(イギリス、34歳)とバルテリ・ボッタス(フィンランド、29歳)のコンビで戦う。
ハミルトンは、08年(マクラーレン)、14年、15年、17年、昨年と5回の年間チャンピオンに輝き、かつての偉大な世界チャンピオン、マイケル・シューマッハの7回に次ぐ第2位となった。第2ドライバーのボッタスだが、3強の6ドライバーの中で唯一優勝がなく精彩を欠いた。ポール・ポジションを2回獲得するなど、走りは悪くなかったが、ハミルトンを優先させるチーム戦略がチーム全体の足を引っ張ったと批判がある。ハミルトンだけに頼っているとフェラーリやレッド・ブル・ホンダに足元をすくわれる可能性がある。他チームが若手を投入してきているのに反し、ハミルトンとボッタスの両ベテラン頼みの点が気に掛かる。
●フェラーリ(イタリア)
ベテランのセバスチャン・ベッテル(ドイツ、31歳)と若いシャルル・ルクレール(モナコ、21歳)で挑む。フェラーリは、08年以降10年以上も年間コントラクター優勝がなく、16年は未勝利であったが、17年5勝、18年6勝と勢いを取り戻しつつある。
レッド・ブル在籍時代に、4季連続世界チャンピオンになった実績を持つベッテルは、昨年前半戦で4勝して、世界チャンピオン奪還に燃えたが、後半で1勝に終わって、ハミルトンに競い負けた。
1勝のキミ・ライコネンは、アルファ・ロメオに移籍した。
若いルクレールは、昨年ザウバー・フェラーリでF1に登場して、第4戦のアゼルバイジャンGPで6位など、10回の入賞を記録しており、フェラーリ首脳陣から高い評価を受けて移籍となった。フェラーリのエンジンPU出力は既にメルセデスと同等以上に性能を上げていると言われており、メルセデス対フェラーリの戦いが今年の最大の見どころとなることが予想される。
●レッド・ブル(オーストリア)
昨年は、3強の一角として、ダニエル・リカルド(オーストラリア、29歳)が2勝、マックス・フェルスタッペン(オランダ、21歳)が2勝して3位に食い込んだ。リカルドが、ルノーへ移籍したことにより、フェルスタッペンが第1ドライバーに昇格。フェルスタッペンは、最も将来を期待される若手ドライバーである。
15年にトロ・ロッソからF1に参戦して、デビュー戦のオーストラリアGPでは史上最年少出走を記録。16年にレッド・ブルに移転。移籍後のスペインGPではF1初優勝を達成し、セバスチャン・ベッテルの最年少優勝記録を大きく塗り替えた。昨年は優勝2回など表彰台に11回上り、ドライバー4位にまで食い込んできた。
レッド・ブルの第2チームであるトロ・ロッソに在籍したピエール・ガスリー(フランス、23歳)がレッド・ブルに昇格した。ガスリーは昨年15位とほとんど実績がないだけに、リカルドの抜けた穴をどう埋めるか、レッド・ブルは厳しい戦いを強いられそうである。
近年レッド・ブルはルノー製PUのパフォーマンス不足に不満を抱いていたが、ついにルノーと決別して、ホンダ製PUを今年から使用することを決定した。レッド・ブルは、自社製シャーシ(エンジン、サスペンションが取り付けられたレーシング・カーの主な部分)に自信を持っており、ホンダ製PUで勝負することを選んだ。
●ルノー(フランス)
コントラクター別では4位であったが、未勝利に終わっている。
リカルドがレッド・ブルから加入して、ニコ・ヒュルケンベルグ(ドイツ、31歳)で3強(メルセデス、フェラーリ、レッド・ブル)に挑む。オーストラリア人のダニエル・リカルドは、パース生まれで11年からF1に参戦、14年にいきなり3勝を挙げて3位となった。16年3位、17年5位、昨年は6位ながら2勝を上げて健在を示した。今年は新天地でどんなパフォーマンスを見せるか楽しみである。ヒュルケンベルグは、13年以降は7位~10位で入賞はするものの、優勝が一度もない。新生ルノー・チームとして16年から参戦しているが、まだ1勝も挙げていない。リカルドの加入で悲願の1勝が欲しいところだ。
●マクラーレン(イギリス)
1963年設立でコントラクター優勝回数は3位の記録を持つF1を代表する名門チーム。88年にはホンダ製エンジン、ドライバーのアイルトン・セナとアラン・プロストで優勝するなどの輝かしい記録を持つ。しかし2013年以降は優勝から遠ざかっている。18年からホンダ製エンジンPUからルノー製に乗り換えたマクラーレンだったが、17年の9位から6位に成績を上げるにとどまった。ホンダ製エンジンPUを積むトロ・ロッソは、逆に7位から9位に順位を下げている。
エンジン・パワー・ユニット(PU)開発競争
圧倒的であったメルセデスのエンジンPUに対して、フェラーリがついに追い付いてきた。
最新エンジンPUフェラーリ064は1,000馬力の壁を突破して、メルセデスの978馬力と拮抗している。大差を付けられていたホンダも965馬力に達し、ルノーも950馬力にまで改善されている(数字はどれも報道によるもの)。エンジンPUのパワーでは各メーカーとも大差がなくなってきている。
その中で名門レッド・ブルがルノーを捨てて、ホンダを選んだのは興味深い。もちろん3強としてフェラーリ、メルセデスを選ぶわけにはいかない事情もあるが、ホンダ製エンジンPUの信頼性が改善されているのは間違いない。
今シーズンのチーム別エンジンPUの搭載は、以下の通りである。
- メルセデス(M10EQpower+):メルセデス、レーシング・ポイント、ウィリアムズ
- フェラーリ(06 4):フェラーリ、ハース、アルファ・ロメオ
- ホンダ(RA619H):レッド・ブル、トロ・ロッソ
- ルノー(E-Tech 19):ルノー、マクラーレン
フォース・インディアの破産
16年、17年に連続して4位と好調であったフォース・インディアは財政難のために、昨年第12戦ハンガリーGP後に破産した。チームは、国籍をインドからイギリスに変更し、今シーズンは、チーム名を「レーシング・ポイント」に変更して参加する。ドライバーは、セルジオ・ペレス(メキシコ、29歳)とランス・ストロール(カナダ、20歳)でフォース・インディア時代と変わらず。
アロンソの引退
05年、06年に世界チャンピオンとなったフェルナンド・アロンソ(スペイン、37歳)が昨年でF1を引退した。これまで通算32勝(歴代6位)、年間チャンピオン2回(05年、06年)。マクラーレン・ホンダに在籍するなど日本にもなじみが深い。昨年トヨタ・チームとしてルマン24時間レースに参戦して総合優勝を飾り、日本車としては24年ぶりの優勝をもたらしている。
文・写真=イタさん(板屋雅博)
日豪プレスのジャーナリスト、フォトグラファー、駐日代表
東京の神田神保町で叶屋不動産(http://kano-ya.biz)を経営
F1観戦の楽しみ方
会場ゲートとお薦めの観戦場所
F1GPレースは、美しいアルバート・パーク湖を周回する5.3キロの公道を使用して行われる。広大なアルバート・パークのどこで観戦するかが重要なポイントとなる(マップ参照)。
1番ゲート周辺はアミューズメントが集中していて便利だがかなり混雑する。各ゲートで無料地図を入手し、レース開始2時間前には観戦場所を確保しよう。アルバート・パーク湖が中央にあり、レース・コースの外側に場所を取るか、陸橋を渡って内側に回るかは早めに決めたい。陸橋はレース開始30分前から大混雑する。
アミューズメント・ゾーン
会場内アミューズメント・ゾーンの名称、場所、内容は以下の通り。
①レジェンズ・レーン(1番ゲートを入ってすぐ右側)
F1各チーム公式グッズ販売店、F1名車展示コーナー、クラシック・カー展示、最新技術展、自動車運転体験コーナー、豪州軍装備展、幼児と親のコーナー、大型テレビ・スクリーン。
②F1セントラル(レジェンズ・レーンから1番陸橋を渡った所)
F1ピット体験ブース、公式グッズ売店、大型テレビ・スクリーン、飲食店。
③エムレーン(M-Lane、F1セントラルから湖側への隣合わせ)
カフェ、飲食店ブースが並ぶ。ヨット・クラブのレース実演なども楽しめる。
④F1ファン・ゾーン(F1セントラルから右側=南側)
飲食店、ステージでロック音楽祭を楽しめる他、F1及びスーパーカー・レーサーのサイン会場などがある。
⑤コーツ・ハイアー・スーパーカーズ・ビレッジ(F1ファンゾーンから右側=南側)
F1レースの合間に行われる豪州スーパーカーの実際のパドック作業がすぐ見ることができる。この場所から近くにF1レーサーが到着するピット入場門があり、サインをもらえる可能性がある。
⑥キッズ・コーナー(エムレーンから浮橋を渡った対岸)
子ども運転スクール、子ども模擬F1レース、子どもスポーツ・ゾーン、豪軍ロック・バンド演奏、クラシック・カー展示、F1各チーム公式グッズ販売店、飲食店、大型テレビ・スクリーン。
決勝当日のスケジュール
9:45AM…ゲート・オープン
10AM~2PM…ビンテージ・カー、スタントカー・ショー、V8スーパーカー・レース
2:25PM…スタート・グリッドでのF1ドライバー写真撮影会
2:30PM…F1ドライバーのパレード
3:10PM…空軍機によるアクロバット飛行
3:54PM…国家斉唱
4:10PM…レース・スタート
5:40PMごろ…レース終了予定。レース終了後も各種ステージショーが開催
8PM:会場閉鎖
会場へのアクセス
●トラム:シティーから所要時間約10分。入場券を持った人は無料だが、途中下車できない。
①クラウンカジノ前(ゲート1、2)
②サザンクロス駅(ゲート3)
②フリンダース駅(ゲート5、8、9、10)
●空港バス:スカイ・バスがメルボルン国際空港から直行バスを運営している(Web: skybus.com.au)。会場から帰りのトラムやバスで大混雑する。シティーまで徒歩15分が無難。
入場券売り場と入場ゲート
●入場券売り場:2番、5番、8番、10番(売り切れることはないので当日購入可能)
●入場可能なゲート:1、2、3、5、8、9、10(1番は一般入場券では入場不可)
メルボルンの天候は激変するので防寒具を忘れずに。サングラス、帽子は必需品。日焼け止めは2時間ごとをめどに塗布し、水も定期的に補給すること。耳栓は無理に購入することはない。酒類の持ち込みは禁止で、ゲートで没収される。
Formula 1 Rolex Australian Grand Prix 2019
会場:Albert Park, VIC
日程:3月14日(木)~17日(日)
入場料:決勝$99~、4日券$169など
Web: www.grandprix.com.au