▶▶▶フィジオセラピストは、筋肉や関節の痛みや機能障害、神経系機能障害や呼吸器系疾患などの治療やリハビリを行う専門家で、必要に応じてMRIや専門医を紹介し、包括的な治療を行っている。さまざまな体の機能を知り尽くした奥谷先生に、体の痛みの原因や改善法について聞いてみよう!
第89回 アキレス腱断裂の治療法
「アキレス腱が切れる」――。そんな大けが、スポーツ選手でない限り関係ないと思っていませんか?
実はちょっとした運動中でも起こるのです。特に30代後半から50代の人に起こりやすいと言われています。ランチ・タイムのバスケットボールやフットサル中に、アキレス腱が切れたというケースなどが多いようです。
アキレス腱断裂の場合、手術による縫合とギブスなどで固定する保存療法の2つの治療法があります。
標準治療法の変化
最新の研究報告によると、縫合手術を行った場合、再断裂率は2.3~6%となっています。高齢の場合や他の病状がある場合、手術による合併症(感染症や血栓症など)のリスクが少ない固定による保存療法が推奨されるようになりました。保存療法の場合の再断裂率は4~12%です。
以前は、6~8週間は歩行訓練を控え、荷重をかかとに掛けないことでアキレス腱が早くつながると考えられていました。近年では縫合手術の後、または固定による保存療法開始から4週間ほどの早い時期に歩行訓練を開始しても悪化することはないと、長期による十分なリサーチ・データから結論付けられました。
けがから4週間弱の早期に歩行訓練を開始することで、術後の合併症のリスクを低下させることができます。保存療法の場合は再断裂率が2%ほど改善することも確認されています。また、歩行訓練を早期に開始することにより、けがをした箇所以外を動かすことができるので必要以上の体力低下を防げる効果もあります。このように早期に歩行訓練ができるようになった要因として固定用のブーツの進歩が挙げられます。
ただし、体を激しく使う仕事やスポーツができるように戻れるまで要する時間は、手術による処置を行った方が短いということも明らかになりました。
必要に応じて治療法を選択できる時代
過去には手術しか選択肢がなかったアキレス腱断裂の治療法が、研究や治療法の進歩により患者の必要に応じて、科学的な証拠を基に治療法を選択できる時代になったことはとても良いことです。次はどのようにしたらアキレス腱が断裂しない体を維持できるかという研究が進み、その結果によりアキレス腱断裂の絶対数が激減するような時代が来ると良いなと思います。
奥谷匡弘(おくたに・ただひろ)
シドニー大学理学療法学科卒業後、西オーストラリア大学で理学療法修士号取得。ダーリングハーストのセント・ヴィンセント病院で5年間勤務し、プライベート・クリニックでは財界の著名人などの治療に多く携わる。オーストラリア・フィジオセラピー協会公認筋骨格系理学療法士。
Web: www.metrophysiotherapy.com.au