6年ぶり政権交代の公算
連邦選挙、5月18日投票
2013年の前々回連邦選挙以来6年ぶりに政権交代か――。スコット・モリソン首相は4月11日、キャンベラの連邦議会で会見を行い、5月18日に連邦議会選挙の投票を実施すると発表した。定数151の下院(任期3年)の全議席と、定数76の上院(任期6年)の約半数を改選する。
中道右派の与党保守連合(自由党、国民党)は、昨年8月にマルコム・ターンブル前首相が事実上更迭されるなど党内の権力争いを背景に人気が低迷している。一方、中道左派の最大野党・労働党は世論調査で優勢が伝えられ、連邦下院で過半数を制する勢いだ。
保守連合は、経済運営と財政健全化の実績をアピールすると共に、2日発表の新年度予算案で打ち出した減税策をテコに、3期目の再選を目指す。昨年8月に就任したモリソン首相の下では、初の選挙となる。
モリソン首相は会見で「労働党が混乱させた財政を建て直すのに5年以上掛かった。あの時代に戻るべきではない」とした上で「強い経済を維持することが、あなたやあなたの家族の将来を守ることになる」と強調した。
一方、政権奪回を目指す労働党は、雇用や賃金、医療、教育、環境対策を全面に打ち出す。同党のビル・ショーテン党首は同日、メルボルンでの会見で「より多くの雇用を創出し、より良い医療と教育を実現する。実効性のある気候変動対策と再生エネルギーを促進し、エネルギー料金を引き下げる」とアピールした。
モリソン陣営は背水の陣
4月14日付の全国紙「オーストラリアン」が掲載した調査会社ニューズポールの世論調査によると、2大政党別支持率は、保守連合が7日付の前回調査と変わらず48%、労働党が同52%だった。リーダー別支持率に相当する「どちらが首相にふさわしいか」の問いでは、モリソン首相が46%(前回と変わらず)とショーテン労働党党首の35%(同)を上回った。
1次選考票ベースの得票率に相当する各党別支持率では、保守連合が39%(1ポイント上昇)、労働党が39%(2ポイント上昇)と均衡している。左派の環境保護政党グリーンズが9%(前回と変わらず)、「その他」が9%(1ポイント下落)、右派の「ワン・ネーション党」が4%(2ポイント下落)だった。
2大政党別支持率は、候補者に優先順位を付ける実際の選挙の得票率に近いとされる。ニューズポールの2大政党別支持率を基準にした公共放送ABCの情勢分析によると、2大政党の獲得議席数は、保守連合が改選前から10減らして63に落ち込む見通し。一方、労働党は82と過半数の75を上回り、データだけを見れば政権を奪回する公算が高い。ただ、実際には、得票率の差が極めて小さい各地の接戦選挙区の結果が、全体の勝敗を左右することになる。
与党の議席数は、既に改選前の時点で73(昨年8月の党首交代劇に反発して与党を離脱したものの、内閣不信任案には反対票を投じる意向を表明している国民党議員1人を除く)と過半数を割り込んでいる。与党陣営は背水の陣で選挙戦に挑んでいる。
連邦下院の各党議席数(改選前)と選挙後の予想議席数
※1:ニューズポールの2大政党別支持率を基にしたABCの分析
※2:昨年8月に与党を離脱した国民党議員1人を除く
※3:区割り見直しにより下院定数は今回の選挙から1議席増える
利下げも妥当――低インフレ、失業率上昇なら
4月のRBA金融政策会合で議論
豪準備銀行(RBA)が4月16日に公表した同月2日の金融政策会合の議事録で、利下げに関する言及があったことが明らかになった。これによると、出席者の間で「インフレ率がこれ以上上昇せず、失業率が上昇傾向となった場合、政策金利の引き下げはより妥当になるだろう」との議論があった。景気の減速感が強まる中で、利下げを意識したサインとして注目される。
RBAは2016年8月から今年4月まで29会合連続で、政策金利を現行制度下で最低の1.5%に据え置いている。RBAはこれまで利上げと利下げの可能性について中立的な立場だった。しかし、住宅価格の下落を背景に成長が鈍化していることから、エコノミストの間では年内の追加利下げ説が有力視され始めている。
黒字幅71億ドルに拡大へ
2019/20年度連邦予算案
連邦政府は4月2日、2019/20会計年度(19年7月1日~20年6月30日)の国家予算案を発表した。12年ぶりとなる財政黒字化を目指すと共に、5月18日投票の連邦選挙を念頭に低・中所得者層向け減税策も打ち出した。
予算案の規模は、歳入が前年度比4.2%増の5,055億ドル、歳出が同2.2%増の4,933億ドル。歳入から歳出を引いた財政収支は、基礎的現金収支ベースで71億ドル(政府系年金基金「フューチャー・ファンド」の運用益を含む)の黒字を見込む。昨年12月の年央経済財政見通し(MYEFO)時点で予想した41億ドルの黒字から上方修正した。実現すれば、財政黒字化は世界金融危機前の07/08年度以降で初めて。
黒字幅は、20/21年度110億ドル、21/22年度178億ドルと拡大した後、22/23年度は92億ドルに縮小する見通し。今後4年間の黒字幅は合計で450億ドルに達するとしている。
政府の累積債務は、19/20年度に3,610億ドルと国内総生産(GDP)の18%を占める見通し。今後段階的に削減し、22/23年度には3,261億ドルとGDPに占める割合は14.4%まで縮小するとしている。10年後の29/30年度には累積債務ゼロを目指す。
成長率は2.75%に下方修正
歳出面の目玉は、低・中所得者向けの所得税減税だ。既に法制化した総額1,440億ドル規模の所得税減税に加え、新たに1,580億ドルを投じて最大で年収12万6,000ドルまでの所得者の税額控除を大幅に拡大する。ジョシュ・フライデンバーグ連邦財務相によると、勤労者1人の世帯の場合、年間で最大1,080ドル、勤労者2人の世帯では最大2,160ドル、それぞれ控除額が増える。
また、中小企業向け支援策では、資産の即時償却の対象となる金額の上限を3万ドルに引き上げる。年商の上限も5,000万ドルにまで引き上げ、対象事業者を拡大する。インフラ関連では、今後10年間で総額1,000億ドルを拠出する。
予算案の経済見通しでは、19/20年度の実質GDP成長率を2.75%と見込んだ。足踏みする景気を背景に、MYEFOの3.0%から下方修正した。同年度の失業率は5.0%、消費者物価指数(CPI)は2.25%と従来の予想から変えなかった。
選挙戦で財政運営の成果訴える
フライデンバーグ財務相は2日、キャンベラの連邦議会で行った予算案演説で「12年ぶりに(単年度の)黒字化を達成し、労働党が積み上げた累積債務をやっと返済していける。1,000万人の国民と300万の小企業への減税、8万人の見習い技術者雇用、1,000億ドルの全国インフラ整備計画、学校と病院への記録的な支出拡大、我々はこれら全てを増税なしで成し遂げた」と語り、歳出策と財政健全化の両立を強調した。その上で、同財務相は「より良い、より明るい国造りに向け、道標を示した」と強調した。
与党保守連合(自由党、国民党)のスコット・モリソン首相は11日、連邦選挙を5月18日に実施すると発表した。保守連合は選挙戦で、経済運営と財政健全化の実績を訴えると共に、減税策で有権者の支持拡大を図る。ただ、優勢が伝えられる中道左派の最大野党・労働党が6年ぶりに政権を奪回した場合、政策を修正する可能性がある。
予算案の経済見通し(単位%。17/18年度は実績、21/22年度・22/23年度は推定値)
豪最大手塗料メーカー買収へ
日本ペイント、約3,000億円で
日本の塗料メーカー最大手、日本ペイントホールディングス(HD=本社大阪市)は4月17日、豪最大手のデュラックス・グループ(本社VIC州クレイトン)を3,005億円(37億5,600万豪ドル)で買収すると発表した。海外展開を加速する日本ペイントHDは、デュラックスを傘下に収めることで、これまで未進出だったオセアニア市場で一気に主導権を握る。
日本ペイントHDは、売上高6,230億円(2018年12月期)と世界4位(同社推計)。デュラックスは、18億4,400万豪ドル(18年9月期)を売り上げ、豪・ニュージーランド市場で首位を走る。建築用塗料に強みを持ち、接着剤などの建築材料も扱う。
株主総会の承認と裁判所の任期を経て株式買い付けを行う「スキーム・オブ・アレンジメント」(SOA)により、発行済み株式の100%を取得して子会社化する。今年8月中旬のSOA実行を目指す。実現には、デュラックスの株主総会、裁判所、豪・ニュージーランド当局の承認が必要となる。
オールジャパンで日本産食品の販路広げる
生産者と需要サイドを「つなぐ力」が重要
中里浩之・日本貿易振興機構(ジェトロ)シドニー事務所長に聞く
2018年の日本産農林水産物・食品の豪州向け輸出額は161億2,900万円(日本の農林水産省発表の確定値)と8年連続で前年を上回り、過去5年間で倍増した。豪州での販路拡大の取り組みについて聞いた。(聞き手:ジャーナリスト・守屋太郎)
――日本はなぜ農林水産物・食品輸出に力を入れているのですか。
日本政府は、2019年に世界全体で日本産農林水産物・食品輸出額1兆円(18年実績は9,068億円)との目標を掲げています。日本の人口が増えない中で、農林水産業の競争力を強化する主要な手段の1つとして、輸出を増やすことは非常に重要です。海外に打って出ることが、地方の活性化にもつながるのです。
ジェトロも主要事業の4本柱の1つに「日本産農林水産物・食品の輸出支援」を掲げ、豪州では商談会の開催、当地食品関連事業者の日本の商談会への招へい、日本の事業者への個別支援などを行っています。昨年は、6月に日本酒の商談会、8月に日本産牛肉輸出再開に焦点を当て、農林水産大臣政務官に日本からお越し頂く形での商談会と普及イベント、11月に和歌山県産柿の普及イベントを実施しました。8月の商談会とイベントでは当地の著名シェフの方に、日本産食材を使った調理デモで腕を振るって頂きました。今年も9月に商談会を予定しています。当地の食品関連事業者やシェフの方々、物流事業者、メディア、在外公館、日本の関係省庁や自治体、業界団体、支援機関の皆様などと一緒に、オールジャパンで日本産の農林水産物・食品の普及に取り組んでいます。
――豪州の日本産食品市場の現状は?
18年の豪州向け日本産食品の輸出額は第10位で、伸び率は前年比8.9%増と世界全体の伸び(12.4%増)を少し下回りましたが、直近の19年1月~2月では前年同期比24.0%増と加速しています。
注目される品目の1つは、昨年5月、17年ぶりに対豪輸出の再開が発表された牛肉です。実際の輸出が始まった18年7月から19年2月までの輸出額は1億2,700万円。この調子で推移すれば、年間約2億円に達する見通しで、品目別で10位以内に入るでしょう。昨年の商談会の直近の成果としては、今年4月に近江牛約3頭分が当地の牛肉卸大手に輸出された例があります。
品目別1位は17年に引き続き清涼飲料水で、31億6,000万円と更に伸びました。このうち豆乳が28億6,300万円を占めています。豆乳は当地のコーヒー・ショップでも多く使われています。2位のアルコール飲料は前年の18億9,900万円から24億700万円と大幅に伸びました。詳細を見ますとジンが前年の4,900万円から5億3,600万円と10倍以上に伸び、ビールに次ぐ2位に急上昇。日豪プレスの18年4月の特集でも取り上げられていましたが、クラフト・ジンの世界的ブームと同様に、豪州でもブームが起きているようです。
3位の「ソース混合調味料」(ソース、たれ、マヨネーズ、ドレッシング、カレールーなど=18億円1,400万円)、緑茶(2億8,100万円)、コメ(1億9,700万円)なども順調に伸びています。ラーメンも2億2,200万円と前年比で1割以上増えました。私は以前、ジェトロ北海道事務所長をしていましたが、北海道の有名な製麺会社も昨年、小売用ラーメンの豪州向け輸出を開始し、その後、業務用ラーメンの輸出も開始しています。
――目下の課題と今後の見通しは?
課題の1つは、豪州では厳しい検疫措置を実施しているため、日本から輸出できる品目に限りがあることです。日本産牛肉の輸出を再開できたのは、日本政府が豪当局との協議を重ねられた賜物です。日本産食品は豪州産や他国産に比べて一般的に価格が高いという課題もあります。しかし、日本産食品のすばらしさを消費者に分かって頂ければ、輸出数量が増えることで価格の低下も期待できるのではないかと思います。現地の消費者ニーズに合わせて、味や包装を工夫するなどの商品開発も重要です。当初は販路開拓に苦戦していた東北産のメカブが、健康志向をキーワードに商品開発を行い、輸出が実現した例もあります。
豪州人の訪日客は大幅に増えています。日本政府観光局(JNTO)の調査では、日本食を食べたり日本酒を飲むことが、訪日時に期待することの上位に挙げられていますので、帰国後のニーズは大きいと思います。また豪州の1人当たりGDPは日本の約1.5倍あり購買力が高いため、価格が高くても良い商品なら買ってもらえる余地があります。
こうしたことから、ヘルシーで安全な日本産食品の需要は今後も伸びていくでしょう。豪州の輸入食品全体に占める日本産のシェアはまだ大きくないので、伸びしろがあります。日本産食品の消費者の裾野を広げていくと共に、需要サイドのニーズを的確に把握し、日本全国の生産者や事業者との「つなぐ力」が重要だと考えています。