▶▶▶フィジオセラピストは、筋肉や関節の痛みや機能障害、神経系機能障害や呼吸器系疾患などの治療やリハビリを行う専門家で、必要に応じてMRIや専門医を紹介し、包括的な治療を行っている。さまざまな体の機能を知り尽くした奥谷先生に、体の痛みの原因や改善法について聞いてみよう!
第93回 乳がんの術後のリハビリ~後編
先月号では乳がんの手術などにより起こる浮腫(むくみ)とその対処法をご紹介致しました。今月号ではその他の症状のご紹介に加え、その対処法を考えてみたいと思います。
骨密度の減少―骨粗鬆症など
化学療法が誘発する早発閉経や抗エストロゲン療法などにより骨密度の減少が加速したり骨密度の低下が全身にみられるようになることがあります。骨は本来、負荷をかけることによってカルシウムを骨内に取り込みます。従って、スクワットやトランポリンを使ってのジャンプなどといった体重のかかる運動を繰り返し行うことで骨密度の維持と回復を図ります。
慢性的な倦怠感―いつも疲れている
がんの治療期間中は日常の動きが制限される日々を過ごしているため、筋肉が弱り、減って行きます。それに加え投薬の影響もあり、貧血、睡眠障害、甲状腺機能不全、気分障害なども併発し常に疲れを感じている人がほとんどです。これに対しては術後から段階的に強度を上げ、その人に合ったエクササイズ・プログラムを専門家に組んでもらうことが大切です。過度の疲労を避けるためペーシングを行いつつ、調子の良い日も悪い日も一定の運動量をこなすようにすることも大切です。
診断直後から手術前の期間も大切
乳がんの診断があった直後から、可能な限り普段と同じ生活と運動量をこなすことが大切です。また、プレハビテーション(手術前準備の運動療法など)を行うことで術後の体力低下を大幅に緩和することができます。筋肉の再生期間を考慮して、プレハビテーションは、少なくとも手術6~8週間前から始めるようにしましょう。
化学療法や放射線治療の最中もフィジオセラピストの指示の下、筋トレと有酸素運動の複合的種目といったエクササイズを可能な限り継続することで、体力や気力やエネルギー・レベルの維持を目指します。
エクササイズの量としては、1週間に合計75分間の激しい有酸素運動もしくは、150分間のややきつい有酸素運動と週に2度の筋トレ(特に大きな筋肉グループ=ふくらはぎ、太もも、臀(でん)部の筋肉、起立筋、背筋、腹筋など)を段階的に強度を上げながら行うと安全で効果的です。ピラティスなどの運動療法は体幹の強化、姿勢や体型維持に役立ち、グループ・クラスもあるので継続しやすく効果も出やすいでしょう。
運動を継続することでガン発症後の生存率が5~6割も上がるとの研究結果が発表されています。
奥谷匡弘(おくたに・ただひろ)
シドニー大学理学療法学科卒業後、西オーストラリア大学で理学療法修士号取得。ダーリングハーストのセント・ヴィンセント病院で5年間勤務し、プライベート・クリニックでは財界の著名人などの治療に多く携わる。オーストラリア・フィジオセラピー協会公認筋骨格系理学療法士。
Web: www.metrophysiotherapy.com.au