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幸せワイン・ガイド@オーストラリア「今月の生産者:フォリウム・ヴィンヤード」

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幸せワイン・ガイド@オーストラリア

今月の生産者:フォリウム・ヴィンヤード

ニュージーランドの南島にあるワイン産地、マールボロ。「マールボロのソーヴィニヨン・ブラン」と聞いて、皆さんはどんなワインを思い浮かべますか?はじけるように元気なパッション・フルーツやパイナップルのような香り、キュンキュンと若々しいフルーティーな味わい。目をつぶって飲んでもそれだと分かるような、非常に特徴のあるスタイルですね。若い人たちにも受け入れやすく、多くの人びとにとって、飲み始めるきっかけになるワインでもあるでしょう。

ソーヴィニヨン・ブランで大成功したマールボロ

このマールボロで造られている、実に約86パーセント(2018年のデータ)のワインがソーヴィニヨン・ブランです。ここまで1つの品種に重きを置く産地は珍しく、その分かりやすい特徴で「ニュージーランドを代表するワイン」の1つとして、世界的によく知られているスタイルでもあります。

異色の小さなワイナリー「フォリウム」

「フォリウム・ヴィンヤード」の日本人醸造家・岡田岳樹さん
「フォリウム・ヴィンヤード」の日本人醸造家・岡田岳樹さん

そんなマールボロに、実はこのメインストリームのスタイルとはごく対照的なソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールを造るワイナリーがあります。今回紹介したいのは、日本人醸造家の岡田岳樹(たかき)さんがマールボロで営む小さなワイナリー「フォリウム・ヴィンヤード」です。大手のワイナリーがひしめくマールボロで、ブドウの栽培から醸造まで、基本的には全ての過程を1人で手掛け、独自のスタイルのワイン造りに取り組んでいます。

「マールボロのような大手のワイナリーも多く存在する、しかもワインのスタイルが確立されている産地で、小さなワイナリーが大手と同じことをしていても勝てない」。そう語る彼の手掛けるワインは、確かにマールボロの大手の造るものとは対照的なスタイルです。

マールボロで際立つ独特のスタイル

フォリウムのソーヴィニヨン・ブランは、とにかくマールボロらしくありません。マールボロの典型的な強いパッションフルーツやパイナップルのような香りよりも、グレープフルーツや柚子のような、優しい穏やかな果実の香りがします。主張は控えめながら、凝縮した奥行きのある味わいがしっかりと感じられ、線の柔らかなワインです。これはマールボロというよりも、どちらかというとフランスのロワール地方で造られるソーヴィニヨン・ブランに近いスタイルです。言うなれば「大人っぽいソーヴィニヨン・ブラン」。グラスから飛び出してくるような強い香りよりも、しっとりとした柔らかさを、食事と共に楽しめます。従来のマールボロのスタイルとは、実に対照的です。

フォリウムのワインが、他のマールボロのワインとこんなにもスタイルが違うのはなぜなのでしょうか。

高品質なワインを造るには、高品質のブドウを作ることが一番の近道

「ドライ・ファーミング」で育てられているブドウ畑
「ドライ・ファーミング」で育てられているブドウ畑

フォリウムが他のマールボロの生産者と大きく違う理由は、その畑にあります。まず、他のマールボロの生産者の畑よりも、2~3倍もブドウの栽培密度が高いこと。一般的に、ブドウの収量は抑えるほど、そしてブドウの栽培密度が高いほど、ブドウの味わいに凝縮感が生まれ、質の良いブドウが取れるといわれています。

そして基本的には灌漑(かんがい)を行わない「ドライ・ファーミング」を実施していることです。マールボロでは、特にソーヴィニヨン・ブランには灌漑を行うのが一般的です。水を与えることでブドウの樹は大きく育ち、葉がよく茂り、これによってソーヴィニヨン・ブランの香りの由来となる「メトキシピラジン」が生成されます。マールボロの生産者の多くは、このメトキシピラジンを重要視しています。一方、灌漑を行わないフォリウムでは、樹は小さくまとまり、葉の付き具合も控えめ。結果、メトキシピラジンの生成量も少なくなります。他社の物に比べてずっと香りが穏やかな独特のスタイルが生まれるのはこのためです。

ワインに表れるヴィンテージの違いを楽しむ

何よりも、灌漑を行わないことにより、その年ごとの降雨パターンの違いなどによるヴィンテージごとの違い、畑の土壌の組成や保水力の違いなど、ブドウが育つ自然環境がワインにより反映されやすくなると言います。「私はそのヴィンテージごとや、畑ごとにワインに表れる違いを楽しみたいのです」と語る岡田さん。更に、収穫も全て手作業で、これもマールボロでは稀有(けう)なことです。マールボロの生産者たちの間で不要とされてきたことでも、品質を上げるためにできることは、どんどんやりたいと語ります。

いつものマールボロのワインとは、違うソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールを味わってみたい人は、フォリウムのワインを一度手に取ってみてください。

*今月のお薦めワイン*
フォリウム・ヴィンヤードのワイン

フォリウム・ソーヴィニヨン・ブラン

ねぎま、野菜のグリル、刺し身サラダなどと

フォリウム・リザーブ・ソーヴィニヨン・ブラン

白身のグリル、カルパッチョ、ちらしずしなどと

フォリウム・ピノ・ノワール

サーモンのお造り、塩味の焼き鳥、ポーク・ソテーなどと

フォリウム・リザーブ・ピノ・ノワール

鴨のコンフィ、うなぎ、牛カルパッチョなどと

● フォリウム・ヴィンヤードweb: www.folium.co.nz


フロスト結子
オーストラリアと日本でワイン業界に携わり10年以上。フリーランスでワイン専門通訳、翻訳、ライター、市場調査、イベントなど幅広くこなす。私生活ではマラソン・ランナー。世界最大のワイン教育機関WSETの最上位資格、WSET®︎Diploma in Wine & Spirits及び日本酒のAdvanced Certificateを取得。
Web: auswines.blog.jp

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