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2019年9月 ニュース/総合

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ホルムズ海峡への派遣が決まった豪空軍の哨戒機「P-8Aポセイドン」(Photo: Commonwealth of Australia, Department of Defence)
ホルムズ海峡への派遣が決まった豪空軍の哨戒機「P-8Aポセイドン」(Photo: Commonwealth of Australia, Department of Defence)

米主導の有志連合に参加

首相、ホルムズ海峡に軍派遣表明

スコット・モリソン首相は8月21日、緊張が高まっている中東ホルムズ海峡で、航行の安全を確保するため米国主導の有志連合に参加すると発表した。哨戒機「P-8Aポセイドン」を今年末に1カ月間、フリゲート艦を来年1月から6カ月間、それぞれ派遣する。バーレーンに置く有志連合の拠点にも兵士を駐留させる。

モリソン首相は「豪国防軍は海外のパートナーと共に、ホルムズ海峡の民間船舶の安全を確保する」と述べ、安保面で関係の深い米・英との連携を重視する考えを示した。米国は4日、シドニーで開かれた米豪外務・貿易相会議で豪州に参加を要請していた。米国は有志連合への参加を同盟国などに呼び掛けており、これまでに英国とバーレーンが参加を表明している。

有志連合への参加を表明したモリソン首相
有志連合への参加を表明したモリソン首相

イランは核合意を離脱した米国との対立を深めており、有事の際はホルムズ海峡封鎖も辞さぬ構えだ。世界の原油流通の要衝であるホルムズ海峡周辺では今年6月、日本籍を含むタンカー2隻が何者かに攻撃を受けた。米国はタンカー攻撃はイランの犯行と断定する一方、イランは否定している。

7月には、英領ジブラルタル当局がイランのタンカーを拿捕(だほ)。これに反発して、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡で英国籍のタンカーを拿捕し、英イラン関係も悪化している。

エネルギー安保に危機感

豪州が有志連合への参加を決断した背景には、豪米同盟の重要性だけではなく、豪州の脆弱(ぜいじゃく)なエネルギー安保に対する危機感がある。首相は、ペルシャ湾の緊張は「豪州の国益にとって脅威だ」と強調した。

豪州は産油国であるにも関わらず、近年、ガソリンや軽油などの石油製品の輸入依存度が高まってきた。豪州は国産原油の多くを輸出。海外の精油所で精製された石油製品を輸入する一方、国内の精油所は4カ所まで減り、非常時の増産余力は低い。

国内の備蓄量も、国際エネルギー機関(IEA)が勧告している「90日分以上」を大幅に下回っている。連邦政府によると、国内の備蓄量(2017/18年度の平均)は、原油が24日分、自動車用ガソリンが21日分、軽油が18日分しかない。仮に中東有事で石油製品の輸入がすべてストップした場合、国民生活や経済は大混乱に陥る恐れがある。

このため、緊急時に米国の豊富な原油備蓄を分けてもらう案も浮上している。5日付の公共放送ABCによると、リンダ・レイノルズ連邦国防相は「米国の戦略的石油備蓄の利用に関して、米国との間で初期の交渉段階にある」として、有志連合への参加と石油備蓄の交渉がリンクしているとの認識を示した。豪州で国家備蓄を行うよりも米国に提供してもらった方が「コストを最小限に抑えられる」という。


握手を交わす元築地市場場長の森本博行氏(右)とシドニー・フィッシュ・マーケット・ゼネラル・マネジャーのブライアン・スケッパー氏
握手を交わす元築地市場場長の森本博行氏(右)とシドニー・フィッシュ・マーケット・ゼネラル・マネジャーのブライアン・スケッパー氏

豊洲市場移転のノウハウ生かす

シドニー鮮魚市場の再開発で日豪協力

シドニー市内西部の鮮魚卸売市場、シドニー・フィッシュ・マーケット(SFM)の再開発に、東京都・築地市場の豊洲移転の知見を生かす日豪の協力が進んでいる。元東京都中央卸売市場築地市場場長の森本博行氏(オフィス・キヨモリ代表取締役)が8月2日、SFMの競売や施設を視察し、同市場関係者と意見交換や助言を行った。物流や市場内の動線などの技術や知識、経験を共有し、2024年完成を目指すSFMの再開発事業に役立てる。

NSW州第1次産業省と日本の農林水産省は昨年11月、農業分野での貿易・投資拡大を目指す協力覚書(MoC)を締結した。森本氏の視察は両者の協力の一環。9月にはSMFの代表者が訪日し、豊洲市場などを視察する。

NSW州政府は18年、施設が老朽化したSFMの再開発計画を発表した。敷地を西側の湾内に伸ばし、木材を多用した開放的なデザインの建物を新築し、食をテーマにしたアトラクション施設を目指す。省エネ設計や廃棄物の再利用など環境負荷も減らす。

豪州の魚食文化の成熟に寄与したい――森本博行・元築地市場場長の話

――視察の具体的な成果は?

SFM側からは、特に場内の荷物の搬送や(上下階の)垂直移動について質問があった。(魚の運び方に)さまざまな方法がある中で、欠点や長所を整理して決めた方が良いと提案した。豊洲市場はSFMと比べて規模が大きすぎて参考にならない部分もあるため、SFMと同規模の日本国内の市場を(SFMの代表団に)視察してもらうことも考えている。今日は夢のある話ができた。再開発でいい市場になり、豪州における魚食文化の成熟に寄与できれば良い。非常に楽しみにしている。

――施設のハード面だけではなく魚食文化のソフト面で協力できることがあると。

良い商品を「これは良いよ」と言うのが「目利き」(魚を見る目)ではない。良くない魚をどうやってうまく売るかだ。良い魚を高く売るのは誰にでもできるが、そうではない魚を少しでも高く売るのが重要。鮮度が低くても、例えば佃煮にしたりと利用法は多い。それを見極めるのが目利きだ。それぞれの魚の価値を見極め、どう使えば食べる人に喜んでもらえるか。そうした観点では(豪州は)まだこれから。(SFMの代表団に)豊洲市場の国際感覚の高い人たちと交流してもらい、海外で通用する技術を伝えてもらうのも1つの方法だろう。


教育や啓蒙活動でも連携図る――ブライアン・スケッパーSFMゼネラル・マネジャーの話

――築地市場の豊洲移転から学べることは何か?

得られるものは非常に大きい。新市場は豊洲と同じく複数の階に分かれた設計となっているため、商品を上下の階に移動させるための搬送のノウハウについて聞いた。商品の品質保持、エネルギーや水の省資源、ゴミのリサイクルについても、彼らの経験から学びたい。スタッフや漁業者への教育・啓蒙、マーケティングなどの分野でも連携したい。豊洲はSFMよりもはるかに大規模だが、数多くの魚種を扱っていること、品質に対する姿勢や誇りなど、共有しているものは多い。9月には私たちが豊洲を訪問し、互いの知識を共有したい。とても刺激的な機会になる。

――再開発で何を目指すのか?

現在、年間300万人がSFMを訪れる。半分の150万人が観光客で、90万人を海外からの観光客が占める。そのうち40万人が中国人だ。SFMは重要な観光拠点となったが、建物は老朽化した。新市場は、卸売市場を核に、食とコミュニティー、観光の一大拠点になる。レストランやカフェは夜間も営業し、訪問客は600万人と倍増を見込んでいる。私たちがシーフードの需要を増やせば、漁業者の利益にもつながる。競りの様子はガラス越しに小売エリアから見学できるようになる。私たちが食べるシーフードがどこから来て、どのように流通しているのか。サステナビリティー(持続可能性)についても、理解を深めていきたい。


日豪の農業協力を確認

濱村農林水産政務官が来豪

豪州を訪問した日本の濱村進・農林水産政務官(衆議院議員)が7月28日、シドニーでマルコム・トンプソン連邦農業省次官補と会談した。再生可能エネルギーの農業利用、生産面での協力と第3国への輸出への可能性などについて議論し、日豪が農業協力を更に推進していくことを確認した。

濱村政務官はこれに先立ち、北部準州とQLD州を訪問した。北部準州では太陽光発電で精製した水素エネルギーを農業に利用する日豪の実証実験について、QLD州では食料供給網構築での協力について、それぞれ日豪協力の推進を図った。

会談で濱村政務官は「自国のためだけではなく、(日豪の)間にある東南アジアや(太平洋の)島しょ国に対しても農業の貢献ができることを望んでいる」と述べた。トンプソン次官補は「例えばQLD州は牛肉など食料生産が盛んで、日本が支援する世界的なフード・バリュー・チェーン(食料供給網)の構築に大きく貢献できる」と強調した。

農林水産省は2017年1月、北部準州との間で日本の技術を活用した開発に関する協力覚書に署名した。これを皮切りにQLD州、NSW州、VIC州、WA州とも覚書を締結し、農業面での2国間協力を進めている。日本と豪州の季節が逆であることを利用し、最終的には両国で生産した作物を東南アジアなど第3国に輸出することを念頭に置いている。

7月28日、シドニーで会談を行った濱村進・農林水産政務官
7月28日、シドニーで会談を行った濱村進・農林水産政務官
マルコム・トンプソン・連邦農業省次官
マルコム・トンプソン・連邦農業省次官

ニュース解説

豪株価が約12年ぶり最高値更新

緩和マネー流入――金融・財政政策に限界も

豪証券取引所(ASX)の代表的な2つの株価指数が7月末、世界金融危機前の2007年以来11年9カ月ぶりに最高値を更新した。史上最低水準にある豪政策金利と米国の利下げ基調を背景に、株式市場に緩和マネーが流入した格好だ。しかし、8月に入ると、米中貿易摩擦の激化などを背景に下げ幅を拡大した。緩和が支える株高は続くのか。(ジャーナリスト:守屋太郎)

出所:豪証券取引所、豪準備銀行

ASXでは7月29日、上場している大手200社で構成する代表的な株価指数「S&P/ASX200」が29日の取引時間中に最高値を更新した。翌30日には6,845.10で引け、終値で07年11月1日の最高値(6,828.70)を塗り替えた。24日には、大手500社の株価指数「オール・オーディナリーズ」も終値で2007年11月1日の最高値を上回っていた。

市場は今年に入り、豪主力輸出商品である鉄鉱石の価格上昇や、5月の連邦選挙での保守連合の勝利を好感、緩和への期待もあって株価は今年に入り上昇基調に転じていた。中央銀行の豪準備銀(RBA)が6月、7月と2会合連続で利下げ(政策金利1.0%)を行うと上げ足を早めた。年初から7月30日の最高値までのASX200の上昇率は18.8%に達した。

ところが、米国のトランプ政権は8月1日、第4弾の対中制裁関税を発動。米中貿易摩擦の激化や、景気悪化の兆しとされる米国の逆イールド(長短金利の逆転)を背景に米株価が下落した。これに連動して、ASX200は15日、前日比2.8%下落するなど下げ幅を加速した。

高揚感なき最高値更新

前回の最高値を記録した07年と現在では、隔世の感がある。当時、シドニーの戸建て住宅の中央値はまだ50万ドル程度で、スマートフォンでほとんど何でもできるデジタル・エコノミーは存在しなかった。

米アップルのアイフォーンが豪州に上陸したのは翌08年になってから。04年創業の米ソーシャル・メディア大手フェイスブックはまだ普及していなかった。同インスタグラムや米配車大手ウーバー、米民泊大手エアビーアンドビーはこの世に生まれていなかった。

一方、豪州経済は資源輸出ブームの真っ只中にあった。07年6月期の実質成長率は前年同期比4.8%に達した。1990年代後半から2000年代に掛けて中国への鉄鉱石や石炭の輸出が爆発的に伸び、経済成長を支えていた。

年末には好業績の企業がシドニー湾でクルーズ船を貸し切り、派手なクリスマス・パーティーを開いて話題になった。豪州社会は富裕層を中心に、日本のバブル期にも似た熱気に包まれていた。だが、緩和マネーに支えられた今回の最高値更新に高揚感はない。

景気後退は回避も株価は出遅れた

07年11月に前回の最高値を付けた豪株価は、年が明けるとほぼ一本調子で下落スピードを早めていく(グラフ参照)。米国発のサブプライム・ローン問題に端を発した世界金融危機が本格化し、08年9月に米大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した。ASX200は最高値から1年4カ月後の09年3月、危機後の最安値をつけ、最高値から54%下落した。

冷え込む景気をテコ入れするため、中央銀行の豪準備銀(RBA)は08年8月から09年4月まで段階的に利下げを行い、政策金利を7.25%から当時史上最低の3.0%まで引き下げた。当時の労働党政権も多額の給付金を国民にばら撒くなど積極的な財政出動を行った。

金融・財政政策の両輪をフル稼働した景気刺激策により、豪州は景気後退(2期連続のマイナス成長)を回避した。世界金融危機後に景気後退に経験しなかったのは、主な先進諸国で豪州だけだ。

豪株価は09年から11年にかけて、低金利や資源輸出の回復を背景にいったん持ち直したが、11年初頭にQLD州を襲った洪水の影響で同年3月期の成長率は再び前期比マイナス0.3%に。人件費の高騰や豪ドル高、12年にピークを迎えた資源投資ブームの終えん、中国経済の成長鈍化などを背景に、株価は再び11年から12年にかけて下落していく。

RBAは11年11月に再び金融緩和に転じ、16年8月までに政策金利を1.5%まで引き下げた。減速感を強める景気を下支えするため、今年6月、7月と2会合連続で利下げして同金利を1%まで引き下げた。今回の利下げ局面は実に8年近くに及ぶ。その間にASX200はほぼ7割上昇し、ようやく12年ぶりの最高値更新を達成した。

金融・財政政策の残弾は少ない

世界金融危機後、欧州や日本では「異次元」とされる量的緩和やマイナス金利を継続。15年に利上げを開始した米連邦制度理事会も7月31日、10年7カ月ぶりに利下げを実施し、金融緩和に逆戻りした。

「(景気にとって)悪いニュースは、(市場にとって)良いニュース」――。景気の先行きに不透明感が強まると、金融緩和への期待が株価を押し上げる構図について、市場関係者は皮肉を込めてこう呼ぶ。「イージー・マネー」(簡単に手に入るカネ)が市場に流入し、株価を下支えしている状況は、豪州も大きくは変わらない。

RBAは8月、金利を据え置いたが、失業率が上昇した場合は「20年初めまでに0.5%まで引き下げる」(英経済調査会社キャピタル・エコノミクス)との観測もあり、利下げ基調は当面続きそうだ。

3月期GDPの成長率が前期比1.8%増と金融危機後最も低い水準を記録するなど、景気の先行き不透明感が強まる中で、緩和頼みの最高値更新。1つの通過点なのか、景気悪化の前兆なのか、見方は分かれる。「豪株価はいったん下落に転じた後、持ち直すだろう」(市場関係者)との見方もある。ただ、豪州の企業にとって気になるのは、最大の輸出先・中国の実態経済が米中貿易戦争の影響で冷え込むシナリオだろう。

豪州経済が深刻な打撃を受けた場合、政策金利が7.25%と高かった金融危機当時と比較して、金融緩和の余地はわずか1.0ポイントと格段に狭まっている。金融危機時の景気刺激策で悪化した財政の再建にようやくメドをつけ、黒字化を公約したモリソン政権の財政出動にも限界がある。トランプ米大統領のツイート1つで市場が揺れる中、豪金融・財政政策に残された実弾は確実に少なくなっている。

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