幸せワイン・ガイド@オーストラリア
今月のテーマ:「オルタナティブ品種」の魅力に触れてみよう
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ワインの世界の中で、「オルタナティブ品種(Alternative Varieties)」という言葉を聞いたことはありますか。
オーストラリアで19世紀にワイン造りが始まってから、これまで長らく作られてきた品種と言えば、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、メルロー、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨンなどのブドウ品種が挙げられます。どれもワイン好きな人であれば、聞き覚えのあるブドウ品種ではないでしょうか。これらの品種の多くはフランス原産の物や、ワインのスタイルもフランスのワイン生産に倣って生産されているものが多く見受けられます。
これらはオーストラリアにとって“伝統的な”品種ですが、最近ではそれ以外のブドウ品種、例えばスペインやイタリア、オーストリア、ポルトガル、あるいはギリシャ原産のブドウ品種などに取り組む生産者が多くなってきました。
この背景にはさまざまな理由が挙げられます。例えばオーストラリアのワイン生産は、原産地呼称制度などの細かい法律のあるヨーロッパに比べ、ワイン造りの縛りが非常に緩いことや、多文化主義によって多様化しているオーストラリアの食生活、そして温暖化による気温上昇と水不足に対応すべく、熱や乾燥に強い品種への植え替えなども、その背景にあります。
どんな品種があるの?
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例えば白ブドウのオルタナティブ品種の例を挙げてみると、まずは南イタリアで生産されているフィアーノ(Fiano)。日本人にはあまりなじみのなかった品種ですが、しっかりとしたテクスチャーと、白桃やグレープフルーツのような爽やかな香り高さとナッツのような深みのある味わいが魅力的です。飲みやすく、和食を含む食事に合わせやすい品種でもあります。マクラーレン・ヴェイルやビクトリアのヒースコートなどで多く生産されています。
それからオーストリアの主力品種であるグリューナー・ヴェルトリナー(Gruner Veltliner)。青リンゴのような爽やかさと白コショウのようなほんのりとした香ばしさのあるワインで、キャンベラや南オーストラリアのアデレード・ヒルズなど、冷涼な産地で生産されています。まだ生産者の数は少ないですが、これから注目の品種の1つです。
もう1つぜひお伝えしたいのが、ギリシャのサントリーニ島生まれの品種、アシルティコ(Assyrtiko)です。クレア・ヴァレーのジム・バリーという生産者が、2012年にオーストラリアで初めてアシルティコを植えました。レモンなどの柑橘にやや塩気を感じる爽やかなワインで、地中海料理、特にシーフードにとても良く合います。
黒ブドウ、つまり赤ワイン用のブドウ品種には、まずはイタリアのサンジョヴェーゼ(Sangiovese)を挙げたいと思います。ワイン好きな人なら、キアンティ、あるいはキアンティ・クラシッコというイタリアの赤ワインを聞いたことはありませんか。サンジョヴェーゼはそのキアンティの主要品種です。赤いチェリーのようなキュッと引き締まった酸味で後味が爽やか、トマト系ソースのパスタやピッツァとの相性は抜群です。ビクトリアのキング・ヴァレーや南オーストラリアのマクラーレン・ヴェイルなどで生産されています。
そして同じくイタリアの品種、ネッビオーロ(Nebbiolo)。こちらは北のピエモンテで生産されている品種で、バローロ、バルバレスコといったイタリアの高級赤ワインに使用される品種です。その淡い色とは対象的に、フル・ボディかつ渋味が強いパワフルなワインで、「バラとタール」とも称される華やかな香りが特徴です。ネッビオーロは手間も暇もかかる非常に難しい品種ですが、オーストラリアでも非常に良質なネッビオーロを作る生産者が存在しています。
最後にこちらもイタリアから、シチリア島の品種ネロ・ダーヴォラ(Nerod’ Avola)。乾燥や熱に強く、肉厚なダーク・チェリーのような深みと、シナモンやタバコのようなスパイス、そして味わいを引き締める酸味が魅力です。脂身の少ない赤身の肉などと合わせるのがお勧めです。
他にもスペイン品種のテンプラニーリョやメンシア、イタリア品種のドルチェットやバルベラ、ポルトガル品種のトゥーリガ・ナシオナルなど、今、オーストラリアのワイン・シーンでは、私たちのワイン・ライフをより充実させてくれる“新しい”品種が積極的に取り入れられているのです。
あまり聞き慣れない品種のワインには、なかなか手を伸ばしづらいかも知れませんが、時にはこういったオルタナティブ品種にもぜひチャレンジしてみてください。
*今月のお薦めワイン*
オルタナティブ品種のワイン
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フロスト結子
オーストラリアと日本でワイン業界に携わり10年以上。フリーランスでワイン専門通訳、翻訳、ライター、市場調査、イベントなど幅広くこなす。私生活ではマラソン・ランナー。世界最大のワイン教育機関WSETの最上位資格、WSET®︎Diploma in Wine & Spirits及び日本酒のAdvanced Certificateを取得。
Web: auswines.blog.jp