【今さら聞けない経済学】お金って、一体何だろう?

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今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第55回:お金って、一体何だろう?

はじめに

日本では、この10月から消費税が8パーセントから10パーセントに上がりました。その上、軽減税率という複雑な税制度が導入され、人びとはお店で戸惑っているようです。しかし、新聞でもテレビでも、人びとが大混乱しているという報道はあまり見られません。日本で高齢化が進み、また人口減少問題が深刻化して、税金が一層要るので税金が高くなってもしょうがないか、という諦めの気持ちを日本人に抱かせているのかもしれません。

前回も書きましたように、先進国の中で日本の消費税は一番低いのです。ヨーロッパ諸国の消費税はほぼ一律に20パーセント以上ですし、経済は資本主義、政治は社会主義という、世界史の中でも例を見ない「二重体制」をとっている中国でも消費税は17パーセントという高さです。なので、日本の消費税が10パーセントに上がったことは、無理からぬことかもしれません。今の安倍政権はこれ以上消費税を上げないと主張していますが、もう既に日本国民の間では、消費税は近い将来、15~20パーセントに上がっていくのではないのかとささやかれています。それも道理です。政府が予算を組むとき、予算額のほぼ30パーセントを借金で賄っています。予算の3分の1近くを借金で賄うことを、そう長く続けていくことはどのように考えても無理があります。この借金とは「国債の発行」のことで、国債発行残高は1,100兆円以上にも達しています。日本のGDPは約550兆円なので、GDPの200パーセント以上もあるのです。すごいではありませんか。

2010年に世界を震え上がらせたギリシャ・ショックが起きました。それは、ギリシャが借金によって潰れたという事件でした。そのギリシャが抱えていた借金の大きさは、GDPの160パーセントだったのです。日本の借金の大きさはもう既に200パーセント以上にも達しているのです。そのうち、いつ「ジャパン・ショック」がやってくるのか、と世界の人びとは固唾をのんで見ていることでしょう。しかし、こんなに借金をしていても、日本国内は至って静かです。「ジャパン・ショックって、それ何?」という気持ちが人びとの中にあります。その理由を探ってみると、次のような事実が分かります。政府が出す国債を買っているのは、ほぼ日本人なのです。これは政府にとっては借金ですが、日本の人びとにとっては「金融資産」です。従って、政府が出す国債が日本国内で消化されている限り、ほぼ大丈夫ということが言えるのです。政府は国民の金融資産を作り出していると言っても良いのです。

事実、私ごとき貧乏大学教師の家にも、とても奇麗な銀行のセールス・レディが訪れ、「先生、お願いだから国債を買ってください」と言います。国債は政府が発行するので、絶対に安全資産ですよと上手くセールスするのです。そう言われても、貧乏教師の私は国債を買えません。でもありがたいことに、国債の販売知識はちゃんと教えられます。断っておきますが、私はいつまでもどれだけでも日本が国債を出し続けても良いと言っているのではありません。限度は確かにあります。その限度はどれぐらいでしょうか。これが問題です。

貨幣とは何か

さて、本題に入ります。恐らくたくさんの人びとが「お金が欲しい」と日夜思っていることでしょう。お金があれば何でも手に入れることができるからです。とかくこの世は金次第と言いますから。その金ですが、一体どのようにして人びとの手に入るのでしょうか。私は、ボランティアで地元の小学校へ行って6年生に「お金の講義」をしました。「皆さんはどのようにしてお小遣いをもらいますか?」と尋ねると、一斉に小学生は「お母さんから」と答えます。そこで「お母さんはどのようにしてお金を手に入れるのでしょう」と尋ねると、「お父さんから」と言います。それでは「お父さんはどのようにしてお金を手に入れるのでしょう」と尋ねると、「会社から」と答えます。「会社はどうやってお金を手に入れるのでしょう」と質問すると、子どもたちは黙ってしまいます。中には、賢い子どもがいて、「お金は銀行から手に入れます」と堂々と言うのです。恐らくこの子は将来「大経済学者」になるかもしれませんね。

まず、お金とは「貨幣」だということを子どもは学ばなければなりません。貨幣とは、財とサービスの取引手段として使われるのです。財とは目に見えるもののことです。一方、サービスという言葉は経済学を学ぶ際にとても大切ですが、人びとの胸にどうもピンときません。「サービスって何ですか」という質問をよく受けます。GDPは「ある国において新たに作り出された、全ての財とサービスの付加価値の総計です」などと言えば、もう「あかん」と言われます。サービスとは、日本語で「用役」と言われます。ますます分かりませんね。例えば、私は大学で講義をして月に賃金をもらいます。これがまさに、私の仕事は「サービス」なのです。野球の選手、映画俳優、政治家、床屋さんといったたくさんの人びとがサービスをすることによって収入を得ているのです。そうそう、金融関係も大きなサービス産業なのです。これらを全部合計した値がGDPなのです。

貨幣は経済の血液とも言われます。つまり貨幣がちゃんと動き回らないと、経済が上昇していきません。貨幣がしっかり供給されないとGDPは増大しないのです。その貨幣は一般に「現金と預金」のことを指します。つまり貨幣とは、経済内における決済手段なのです。貨幣の最も大切な特徴は「流動性が高い」ということです。つまり、流動性が高いということは、人から人へといともたやすく渡っていくということです。例えば、1万円というお金は人の間を転々とします。このことを経済学では「流動性」というのです。現在の社会ではカードを決済手段として用いることも多いという事実を考えると、キャッシュ・カードも一種の貨幣と見なされます。また、銀行の預金(当座預金、普通預金)も貨幣と見なされるのです。皆さんもよく知っているように、銀行に当座預金がある時は、小切手で決済をすることができます。まさに立派な貨幣と見なされます。

貨幣の役割

貨幣は社会でとても大切な役割を担っています。その役割のために、人びとはお金が欲しいと叫ぶのです。貨幣の最も大切な役割は、「交換手段」ということです。人は、貨幣を人に渡すことによって、自分が欲するものを手に入れることができるのです。家も、高級車も、広大な土地も、といったように欲するものは何でも貨幣があれば手に入れることができます。これを「貨幣の交換手段」と言います。次に貨幣は、世の中のいろいろな財の価値を決める役割を持っています。これを「価値尺度」と言います。世の中のものには値段が付いていて、それを表すのが貨幣の役割で、「価値表示の役割」と言います。

更に、人びとは大金が手に入ったら、人に取られないように、内緒でこそっとしまい込んでおこうとします。そこで金庫の中に貨幣をしまい込むのです。これを貨幣の「保蔵手段」と言います。私の知人はある時、宝くじで大金が当たりました。その人は本当にこそっと金庫を買ってきて貨幣をそこに入れて、家の中にしまい込んだのです。そして日夜、ニコニコしていました。大当たりした時は、親しい人を招いてご馳走をして下さり、私も招かれました。でもなぜ人びとにご馳走するかという理由は言わなかったのです。それほど「価値の保蔵」には神経を使うようです。でも羨ましい神経の使い方ですね。

貨幣の発行について

一体、貨幣は誰が作り出すのでしょうか。当然、その国の中央銀行です。日本では、日本銀行ですし、アメリカではFRB=連邦準備理事会、そしてオーストラリアでは豪州準備銀行(Reserve Bank of Australia)と言われる、それぞれの中央銀行が貨幣を発行します。

一般に、中央銀行が貨幣を印刷すると、民間の銀行に搬入します。すると、民間銀行から一般の人びとにお金が回っていくのです。冒頭で述べたように、私が子どもたちに「お金がどのようにして皆さんの手に入るか」と質問したら、1人の6年生が「銀行から」と答えたのは正しかったと言えるのです。

ところが、そのような大切なお金を作り出す日本銀行は民間企業だという事実が、人びとには案外知られていないのです。人びとは、日本銀行に勤めている人は国家公務員だと信じていたりします。日本経済に最も大切な貨幣を作り出している日本銀行は、立派な民間銀行です。それが証拠に、日本銀行にはちゃんと「資本金=1億円」もあります。株もあります。日本銀行の株はジャスダックという株式市場で売り出されています。そして需要と供給との関係によって日々変動しています。しかし、日本銀行の資本金の1億円のうち、政府が55パーセント出資しているのです。すると、純然たる民間ということでなく、言わば「半官半民」という組織で成り立っているようです。

日本銀行が相手にしているのは、一般の企業ではなく、民間の銀行なのです。民間の銀行にお金を入れたり出したりしながら、日本の経済の案配を調整しています。それを「金融政策」と呼びます。日本銀行は「日本銀行法」という法律によって運営されているのです。そこには日本銀行の目的は「わが国の中央銀行として銀行券を発行すると共に、通貨及び金融の調節を行うこと」と声高らかにうたい上げられています。つまり、お金は日銀が発行し、それによって日本経済の舵取りを立派にしますよ、と日銀法で明記されているのです。これにより、日本の通貨、円は大丈夫だ、と言えるのかもしれません。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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