輝け!
ゴールドコーストの若きアスリートたち
第3回
田崎沙楽さん(16歳)
ライフセービング
厳しい海の競技でつながるフレンドシップ
は頑張る力を与えてくれる
美しい海と山に囲まれたゴールドコーストは、温暖な気候と晴天に恵まれてスポーツに最適な場所であると同時にその活動も盛んだ。この豊かな環境の中で、将来の大きな夢を抱いて果敢にスポーツに取り組んでいるゴールドコースト育ちの若きアスリートたちにスポットを当てて、彼らの今の姿を連載で紹介していく。第3回目は、田崎沙楽さん(16歳)。今年4月に行われたサーフ・ライフセービングのショーケースとも言えるナショナル・イベント“オージーズ(The Aussies)”のU17スイム・レースで優勝した実力の持ち主だ。毎日の練習を堅実にこなし、強豪がしのぎを削る海のレースに挑むアスリートは、笑顔がすてきな16歳のお嬢さんだ。(文=堀千佐子)
――ライフセービングを始めたきっかけと現在に至る経緯を教えてください。
私はパース生まれで、大の“海好き”だった両親が、海の安全性を学ばせようと4歳の私をクージー・ビーチのサーフ・ライフサービング・クラブ(以下、SLSC)のニッパーへ入れてくれたのが始まりです。そして9歳の時にライフセービングのメッカであるゴールドコーストへ引越してきました。ノース・バーリーSLSCを経て、BMDノースクリフSLSC(以下、ノースクリフ)に現在所属しています。小さい頃から水泳にも力を入れていたので、競技の中でも泳ぎが一番得意です。その他、長距離を泳ぐオープン・ウォーターもやっているので、毎年アデレードで開催される全国大会へも出場しています。私は今、トリニティ・ルスラン・カレッジの10年生で学校の勉強も大切なので、スポーツとの両立を図るためにいつも大忙しの毎日です。
――ライフセービング・スポーツはどんな競技ですか?
実際に海やプールなどでライフセーバーが人命救助をするために必要なスキルを競うスポーツです。そのため、海とプールでさまざまな種目があり、どれも人の命を救うために速さ、正確さ、スタミナ、そして種目によってはチームワークが求められます。
海の競技にはウォーター・イベントとビーチ・イベントの種別があり、ウォーター・イベントでは、スイム・レース、長さ3.2メートルあるマル・ボードを使ったボード・レース、17歳からはカヤックに似たサーフ・スキーを使ったスキー・レース、そして各種目のコンビネーションに2回のビーチ・ランが加わったアイアン・マン/ウーマンと呼ばれる種目があります。ビーチ・イベントは、砂浜で行うフラッグ、スプリント、リレーなどです。その他、プール・レスキューと呼ばれるプールの種別があり、プールでの水難事故を想定してマネキン人形を使ったり、チューブという救助機材を使う競技など多数の種目があります。オーストラリアは生活の中で水辺が身近にあるため、ライフセービング・スポーツのレベルがとても高く、世界大会でも常に1位の成績を残しています。
――どんな練習をしているのですか?
基本的に平日はプールで朝夕それぞれ2時間しっかり泳ぎます。週1、2回は夕方泳いだ後にジムで筋トレをします。最近は来年から種目に加わるスキーの練習も週1回加えました。土曜の朝もプールで泳ぎますが、週末はノースクリフへ行って海で泳ぎやボードの練習をしています。海とプールでの練習は、私の生活の一部としてすっかり定着しています。
――強さの秘訣は何でしょう?
まずコーチのトレーニング内容が良いことだと思います。そして、そのコーチとの相性も大事です。私はマイアミ・スイミング・クラブのコーチの下で泳いでいますが、小学生の頃から今に至るまでの私のことをよく分かってくれていて、私のやる気と能力をどんどん引き出して上へと伸ばしてくれます。また、ボードやスキーのコーチも週に数回しか練習に行けない私に一生懸命教えてくれます。ボードやスキーは、練習だけで終わらず、習った後に遊び感覚で何度もトライして覚えていくのが上達の秘訣だと思います。そして私の秘密兵器は、何といっても母が作ってくれるおいしい食事です。私は1日に5~6食食べるので、練習後にいつも母が用意してくれているお弁当は大切な活力源であり楽しみでもあります。母の協力のもと、試合の2~3週間前から始める、砂糖が入ったものは口にしない砂糖制限も効果が出ていると思います。
――なぜライフセービング・スポーツが好きなのですか? また、やっていて良かったと感じるのはどんな時ですか?
海が好きだからという一言に尽きます。波に乗るのがたまらなく気持ち良いんです(笑)。やっていて良かったと思うことは、試合や遠征で色んな人と知り合って友達になれることです。レース前の出番待ちの時間が結構長いので、必ず誰かしらと友達になります。試合で初めて知り合った人だとしても、今まで頑張って練習してきたそれぞれの苦労をお互いに理解し合えるので、結果が良ければ褒めたり、悪ければ慰めたり、素直に声を掛け合うことができるんです。全力で波に立ち向かう海の競技を通じて、共感し合える友達と出会い、フレンドシップが生まれることは私の1番の宝物と言えます。たとえ遠く離れていても、インスタグラムなどでつながっているので、いつでも会話ができます。
――今までで一番思い出に残る試合は?
実はいっぱいあります! ここ最近では去年、パースでのオーストラリアン・チャンピオンシップ「The Aussies」のU15スイム・レースで3位入賞したこと、そしてゴールドコーストで開催された今年のU17で優勝候補を追い抜かし1位になったことがうれしい経験です。今だから笑えますが、ノース・バーリーSLSCにいた時のクラブ内での男女混合アイアン・レースで、その日は海が荒れて波が大きく、全員が“命がけ”で海に入ったのですが、途中で私以外はみんな救助されていて、最終ゴールできたのは私1人だけだったという武勇伝があります。
――試合で負けた時やスランプの時はどうやって乗り越えますか?
思うような結果が出せなかったりしてスランプに陥ると、練習へ行きたくなくなり、やる気も失せて現実逃避したくなります。そんな時は少し休んで自分の気持ちをリセットするしかありません。私はラッキーなことに、いつも友達が応援してくれて、コーチや両親など、周りの大人たちもサポートしてくれるので、つらい時も乗り越えてこられたと思います。
今年、珍しく1週間ほど体調を崩して、その後しばらくの間、やる気が出ない上に練習がきつくて体調を元に戻すのが大変な時期がありました。そんな時、試合へ行く飛行機の機内でたまたま観た『ミラクル・シーズン』という映画(アメリカの高校バレーボール・チームの実話を映画化)に感銘を受けて、“自分の弱さに負けちゃダメだ”と一念発起。早速、映画の中の言葉をプリントしてラミネートしたものを自分の部屋に貼り、それを触って“今日もがんばるぞ”と念じて朝出掛けています。
――今後の目標を聞かせてください。
これからもどんどん経験を積んで、ライフセービング競技の最高峰とも言えるザ・ニュートリ-グレイン・アイアンマン・アンド・アイアンウーマン(The Nutri – Grain Ironman and Ironwoman)シリーズに出場したいです。先鋭トップ男女20人ずつが「クーランガッタ・ゴールド」から始まる全6試合を戦い抜くシリーズ戦です。将来絶対にチャレンジしたいです。
――ゴールドコーストでおすすめの場所を教えてください。
サーフ・ライフセービング・クラブはオーストラリア国内に314カ所ありますが、クイーンズランドのほとんどのSLSCは、海が一望できる最高のロケーションにあります。暗くなる前にレストランですばらしい眺めを堪能しながら食事するのがお薦めです!
父、カツさんからのメッセージ
父親の私でも経験したことのないようなプレッシャーを抱え、今までよく頑張ってきたと思います。でもまだ始まったばかり。これからもっと大きなプレッシャーが圧し掛かってくると思いますが、その重圧に耐えられるよう、心身共に鍛えていってください。今まで通り毎日を楽しみながら1歩ずつ進んでいく沙楽を応援しています。