フィジオセラピストに聞こう!/胸郭出口症候群

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フィジオセラピストに聞こう 体の痛み改善法

フィジオセラピストは、筋肉や関節の痛みや機能障害、神経系機能障害や呼吸器系疾患などの治療やリハビリを行う専門家で、必要に応じてMRIや専門医を紹介し、包括的な治療を行っている。さまざまな体の機能を知り尽くした奥谷先生に、体の痛みの原因や改善法について聞いてみよう!

第98回 胸郭出口症候群

腕が重くだるい。指がしびれる。手に力が入りにくい。肩や肩甲骨周辺が痛い。これらの症状が、バスでつり革につかまる時や洗濯物を干す時など腕を上げる動作で悪化する、または就寝中同じ時間帯に現れる。そして長期にわたってこのような症状が続くにもかかわらず、なかなか診断が下されない。

それはもしかすると、胸郭出口症候群かもしれません。「症候群」であるため、上肢(肩関節、ひじ関節、手関節及び手指の部分)にさまざまな症状が現れ、また個人によって症状が大きく異なります。このため診断されるまでに時間が掛かるケースが多く見受けられます。これは以下の3カ所のどこかで神経や血管が圧迫されることで発症します。

  1. 前斜角筋と中斜角筋の間(首の側面で首の付け根部分)
  2. 鎖骨とその直下を通る第1肋骨の間
  3. 小胸筋と肋骨の間

発症する原因

◎なで肩(肩甲骨が背中の低い位置にあり、首が長く見える)
◎長時間、前かがみの姿勢でいる(スマホやコンピューターの利用、読書、調理など)
◎先天的に頸椎(けいつい)7番に余分な肋骨がある
◎肩、首、鎖骨及びその周辺をけがしたことがある(鞭打ちなども含む)

リハビリが最善の改善法

まずは姿勢を改善しましょう。それだけでも多くの人に症状の改善が見られます。下を向いて行っていた作業(スマホ操作や読書等)を目の高さで行うようにしましょう。特に30分以上ノート型パソコンを使用する場合は外付けモニターを使用してスクリーンを目の高さに設定したり、専用のノート型パソコン・スタンドを使用し、外付けのキーボードとマウスを使用することで人間工学的にも効率良く疲れにくい姿勢で作業を行うことができます。

なで肩の人にはリハビリがとても有効です。なで肩の目安は、鎖骨が水平よりハの字型に下がっているかどうかです。まずは原因となっている、下がって前方に出ている肩甲骨を、軽く引いて高い位置で維持できるように筋力を強化します。これには僧帽(そうぼう)筋、前鋸(ぜんきょ)筋、広背筋、棘下(きょくか)筋を鍛えることが効果的です。上部胸椎と肋骨の動きが硬直している場合は、まずモビライゼーションを行い、関節を柔らかくしたりストレッチを行います。次に筋肉のアクティベーション、ウェイトを使ったトレーニングで負荷を上げていきながら効率良く筋肉を鍛えることで、正しい姿勢を保てるようにリハビリを進めていきます。


奥谷匡弘(おくたに・ただひろ)
シドニー大学理学療法学科卒業後、西オーストラリア大学で理学療法修士号取得。ダーリングハーストのセント・ヴィンセント病院で5年間勤務し、プライベート・クリニックでは財界の著名人などの治療に多く携わる。オーストラリア・フィジオセラピー協会公認筋骨格系理学療法士。
Web: www.metrophysiotherapy.com.au

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