2022年、企業は地政学的な緊張と政策転換に相対せざるを得ないことになるでしょう。
2022年は、新型コロナウイルスのワクチンへのアクセス格差による社会の二極化が定着し、それにより地政学的ダイナミクスが形成され、国内の政治、政策も大きな影響を受けるでしょう。
地政学的な勢力が引き続き変化し、多極体制が生まれつつあるため、地域をまたいだ流れやステークホルダー管理がより複雑化していくものと見られます。気候変動とサステナビリティーの問題は政策課題として浸透し、政治的発展を伴うと見られ、ビジネス・モデルや製品のあり方を転換させていくでしょう。
また、産業政策を通じて経済活動を推進し、方向付けていく上で、今後政府の果たす役割が高まり国家戦略上、重要性が高いセクターの企業は、成長機会を海外にではなく、再び国内に求めるようになると見られます。
二極化した社会で成長を遂げるために必要な5つの地政学的戦略
22年には、グローバルな経営環境に影響を与える地政学的な動向の変化が予想されます。このような中で企業が成長を遂げるために地政学的戦略上の優先課題を大きく分類すると、以下の5つが挙げられます。
1. 地政学的現状に即してサプライチェーンを変革する
地政学的ダイナミクスと、各国政府が推し進める戦略的商品の自給化により、従来型の国境をまたいだサプライチェーンはより複雑化することでしょう。
こうした政策ダイナミクスの影響を受ける可能性が最も高いと考えられるのは、テクノロジー企業、製造業者、自動車メーカー、再生可能エネルギー企業です。
グローバルなサプライチェーンを更に複雑化する要因はそれだけにとどまらず、パンデミック、社会不安、サイバー攻撃、異常気象により、事業運営と物流の混乱が続くものと考えられます。
2. 政治リスクを中心に据えて買収・事業売却の戦略を練る
21年はほぼ1年間にわたって世界全体のM& A活動が活況を呈しました。22年には世界経済が堅調に成長し、セクターを問わずどの企業にも戦略的M& Aを実施する機会が巡って来るものと予想されます。
ただし、戦略的とみなされるセクターは、クロスボーダー投資であるために制限を受けたり、案件が拒否されたりする可能性も高く、そのため、M& Aを通じ、高い国際競争力を有するグローバル企業を生み出すことが可能な国内案件が推進されるものと見られます。
さまざまな市場の独占禁止法により、特にテクノロジー・セクターを中心に、特定のM& Aにおいて、承認の見込みの減退が予想されます。
3. データ管理とデジタル・セキュリティーの取り組みを強化する
主要な市場でのデータ・セキュリティーとプライバシーに関わる規制が急増し、国境をまたいだデータ共有のコストは引き続き上昇するでしょう。経営幹部は現状を見据え、今後どのように変化していく可能性があるかを見極める必要があります。
更には、個々の国固有の規制に即して戦略とビジネス・モデルを整え、コンプライアンス問題を回避すると共に、競争上の優位性を獲得しなければなりません。
4. 人材を確保して育成する
「大退職時代」の到来と、パンデミックに伴う労働力の国際的な移動制限が続くという現実から、企業が人材を呼び込み、つなぎ止める新しい方法を導入する必要のあることが示唆されます。例えば、サステナビリティーや人権のデューデリジェンスは、それらの問題をめぐって、従業員との間に企業が信頼関係を構築するのに良い機会となります。
更に、ヘルス・ケア・セクターと教育セクターに対する国の政策がより手厚いものになれば、長期的には企業にとっても人的資本の強化とコスト削減につながる可能性があります。
5. 全てのステークホルダーに持続可能な価値をもたらす
各国の政策当局が広範囲なグループを組み、意見を対立させることがうかがえることから、大国の力関係の変化と中堅国の果たす役割の拡大は、ステークホルダーの管理をより複雑化させると考えられます。
とは言え、ステークホルダーが増えることで、企業がステークホルダーと向き合う機会も増えます。また、社会の二極化や、ステークホルダーのサステナビリティーや広義のESG(環境・社会・ガバナンス)の問題に対する期待の高まりは、ビジネス・モデルを戦略的に転換させるチャンスです。
政治リスクの管理には戦略的アプローチが必要
22年は地政学的緊張の高まり、不安定な国内の政治情勢、規制環境の劇的な変化が経営幹部に大きな課題を突き付けることになるでしょう。
22年に予想される政治的混乱の中を成長し続けるためには、対象を定めて地政学的戦略を講じる必要があります。
■EYレポート2022 Geostrategic Outlook(2022年:地政学的戦略から見た10大リスクとは(PDF、英語版のみ)
Web: www.ey.com/ja_ jp/geostrategy/when-politicaldisruption-surrounds-you-whats-your-next-strategic-move
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年E Yシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
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