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海外で独自進化した「Teppanyaki」/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

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出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の伍拾弐
海外で独自進化した「Teppanyaki」

 今回は、以前に出版した「Teppanyaki」(2007年)という本に関するお話です。出版社から「これまでにない鉄板焼きの本を」とのオファーを頂き、まずは、海外における鉄板焼きのイメージをまとめるところから作業をスタートしました。

 1960年代、日本国外で日本の独自のスタイルを取り入れ客の目の前の鉄板の上でステーキを焼いて出す「Teppanyaki」スタイルのレストランが数多く生まれ、それと共に「Teppanyaki」という言葉が徐々に流行り始めました。「Teppanyaki」はルーツとなった日本のスタイルからから離れ、ただ鉄板上で食材を焼くだけではなく、料理人の手さばきを競い合い、見る人を楽しませるエンターテインメントへとどんどん進化していきました。

 そして、日本では見られることのない、卵を空中に放り投げたり、焼き飯をお客の皿に向けて投げて提供するなどといったダイナミックなパフォーマンスが誕生するようになりました。シドニーにも、そのようなタイプの「Teppanyaki」レストランがありますが、以前、オーストラリア人の方から「大いに楽しめた」という感想を聞き、苦笑いしたことを覚えています。

 たとえエンターテイメントであり、「日本食」として人気を博していたとしても、私にはどうも食べ物を投げたりする行為を受け入れることは難しいと感じました。もちろん、日本には祭事として、節分に豆をまく、清めの塩など食材を宙に放つ風習はあるのですが……。

 さて、オーストラリアの家庭での鉄板焼きといえばBBQです。オージーの生活の一部とも言える、おもてなしの1つですね。「Teppanyaki」の本を出版するに際し、家族はもちろん、大勢の友人とも一緒に楽しめることをコンセプトに、オーストラリア・スタイルのBBQに日本料理のセンスを加味しながら、スクリプトを組み立てていきました。

 1900年後半まで、オーストラリアのBBQはシンプルな焼き台でステーキやソーセージをメインに焼き、そこにパンとサラダを添えるという形が主体でした。しかし、2000年代に入るとBBQセットのデザインも洗練されていきました。ガスコンロを備えた多機能なBBQセットや、豪華な冷蔵庫まで設置されたアウトドア・キッチン・タイプのものまでさまざまなバリエーションが登場し始めました。また、一方でユニットのバルコニーでも使えるようなコンパクトなサイズのものも現われあらゆる家庭でBBQを楽しむ場面が増えました。

 私が海外に出た50年前は、現在、日本の家庭で重宝されているような手軽なホットプレートなどはなかったので、ホットプレートを使った家庭料理に関して、日本の親戚や知人などへの聞き取りも行いました。Teppanyakiの撮影のために訪れたBBQショップでは鉄の「HIBACHI(火鉢)」も発見。その名前に惹かれ、撮影にも使えると考え購入しました。昨今は、手軽に買える炭もあり、更には備長炭も(高級品ではありますが)、手に入るようになっています。鳥や豚、羊、牛、野菜の串焼き、魚介類の焼き物などは、炭で焼くと一段とおいしく感じられるようになります。

 10年以降、オーストラリア国内においてWagyuの認知度が高まりました。そんな中、昨今では日本からも近江牛、飛騨牛、松坂牛、神戸牛、鹿児島牛、大分牛などの銘柄が輸入されるようになり、楽しめる肉のバリエーションが大幅に増えています。更には「Yakiniku」という言葉も浸透し始めています。韓国風の焼き肉店が大きな競争相手になっていますが、相乗効果で和風の「Yakiniku」の広がりにも大いに期待したいところです。

 また、オージーにとってBBQで欠かせないのはビールとワイン。現在はそれに加え、日本酒、焼酎、梅酒など日本のアルコールの種類も増え、「Teppanyaki」のお供として盛り上げに彩りを添えてくれるようになりました。私もロックダウンの際には、庭で夜空を眺めながらHibachiを囲み、焼き鳥を焼いたり、あるいは室内でホットプレートを使って焼肉やお好み焼きなどをするなど、Teppanyakiの楽しみ方を再確認した次第です。

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章。





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