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【食特集】豪州の米事情に迫る

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第3回 オーストラリアの「米事情」に迫る

スペシャルシリーズ 豪州の食とその安全

シリーズ「豪州の食とその安全」バックナンバー

第1回「牛肉」 ■第2回「海の幸」 ■第3回「米」 ■第4回「野菜・果物」

 本シリーズではこれまで日本人にとってはもちろん、ローカル・フードとしてもなじみの深い「牛肉」「海の幸」をテーマに、その魅力や安全性を取材し紹介してきた。第3回目となる今回は日本人にとって最もなじみ深く欠かせない一方、オーストラリアでも徐々に注目を集めつつある「米」に注目し、その現状をお伝えしていく。

オーストラリアの米産業を独占するサンライス

倉庫に置かれた大量のカリフォルニア産中粒米(JFC)
サンライスのコシヒカリも人気だ(JFC)
イタリア産の中粒米「はるか」。こちらも人気を高めているという(JFC)

 日本人の主食「米」。われわれ日本人にとって米は当たり前のように生活に根付いたものと認識されているが、近年、食の多様化に伴い日本国内の米の消費量は下がり続ける一方だという。そんな中、日本国内では国産米が余っている状況にもかかわらず、海外からの輸入米が人気の高まりを見せるという状況も現れている。米国カリフォルニア産の短粒米(日本で一般的に流通している丸い形のジャポニカ種)や中粒米(短粒米よりも多少細長い形状)はよく知られているが、実はオーストラリア産の短粒米や中粒米もまた日本に流れている。土壌や水質、そのほか管理など長年培われてきた技術や経験に裏打ちされた日本の国産米は当然高品質だが、近年、輸入米もかなり高いレベルまで来ており、かつ安価であるため、外食産業でも実際に受け入れられているという。

 シドニー市内で日本の国産米とそれに劣らぬ高品質のイタリアの短粒米をブレンドし、おにぎりやどんぶりを提供するテイク・アウェイ店「オー・ライス」を運営する天野達氏は言う。

 「オーストラリアのお米と言えば1社独占の『サンライス』ですね。彼らは世界の市況を見ながら国内外向けにお米の生産・販売をしている企業で、日本にも多く輸出しています。そのため、日本人の多くがオーストラリア産の米をそれと知らずに食べているという状況があります。個人的には炊いた後の冷めた状態での質に大きな違いがあると思いますがそのような状況でなければ違和感はないと思います」

 アメリカやオーストラリアなどの国を中心に日本食材の卸を行うJFCの皆川健司氏も「同社のコシヒカリは日本の高級なものに比べると粘りや甘みで劣りますが水準としては日本産の米の中間レベルは保っていると思います。年によって質がばらけるのですが今年は悪くないですね」と語る。オーストラリア米は南半球という地理的条件もあり、日本やアメリカなど北半球の国とは異なる3月に新米の収穫の時期を迎える。その時期の収穫は世界で唯一ということもあり、シェアを伸ばしている要因になっているという。

 一方でサンライスの米は国産米であるにもかかわらずオーストラリア国内での流通は少ない。国内にはサンライスの米が足りない状況であるにもかかわらず日本にはあるという逆転状況などが起こることもあるそうだ。

 「オーストラリアはもともとがイギリス文化なので米を食べる習慣はなく、アジア人が入ってきてから食べるようになったというのが実際でしょう。彼らにとって米は植物であり野菜であるという認識が強く、例えばドレッシングのようなものがないと食べない。だから照り焼きソースとかをかけて食べるんですよね」と天野氏は言う。

 では、そもそも米の需要がほぼなかったオーストラリアでいったいどのようにして米の栽培が始まったのか、調べていくとわれわれ日本人にとって非常に興味深いエピソードが浮上してきた。

1.愛媛県松山市にある高須賀譲のお墓 / 2.玄米の水分量や成分をチェックし品質管理を行っている(PLENUS AusT)/ 3.食感を左右する米の表面の粘りの検査なども行われる(PLENUS Aust)/ 4.民主党時代の日本政府の方針転換で3年ほど前から数多くの日本産の米が店頭に並ぶようになった(東京マート)

オーストラリアに米を植えた日本人

 シドニーで本格和食料理や酒を楽しめる店として知られる「鱒屋」や「居酒屋ますや」、豚カツで人気の「MISO」、チャッツウッドにあるこだわりの回転すし「誠」など、長年にわたり数々の日本食店を経営している定松勝義氏によるとオーストラリアでの稲作は愛媛県出身の定松氏と同郷の高須賀穣という日本人の尽力によって始められたという。

 1865年、四国松山藩の料理長、高須賀賀平の1人息子として生まれた高須賀穣は元来より海外志向が強くアメリカへ渡り学問に励むなどといった活動を経て、98年に衆議院議員に当選。国政の場に4年間携わった後、1905年に妻と2人の子どもとともに渡豪を果たした。当時40歳になった高須賀がオーストラリアの地に足を踏み入れた理由は人生の後半を新天地での挑戦に使いたいという熱い情熱からだったという。

 来豪後、オーストラリアに米を作ることができる土壌があることに気付き、当時のVIC州のトーマス・ベント首相と国土省の大臣に建議をし、それが功を奏し、1906年7月、州政府はマレー川沿いの300エーカー(120ヘクタール)の土地を米作りのために提供した。同年10月、高須賀は日本から持ってきた米の種をオーストラリアの大地にまいたのである。

 しかし、芽が動物に食われる、水不足になるなどたび重なる失敗の末、1909年には大洪水に見舞われ、種まきした40エーカーの水田が流されるなど一筋縄ではいかなかった。長い戦いを繰り返す中、ついに日の目を見たのは実に5年後の1911年。日本から輸入した25種類の籾をまき、3種の米の収穫に成功したのだ。高須賀は、米栽培が軌道に乗ったのを見届けるとブドウ作りやトマト作りなどを手がけ69歳で引退。経営を2人の息子に任せたという。そして1939年、日本に帰国しその1年後故郷の松山の家で心臓麻痺で急逝したという。

 今日、オーストリアの米はジャポニカ種が8割以上を占めるという。その基盤は20世紀初頭の高須賀のチャレンジによって作られた。われわれがオーストラリアで食べているサンライスの短粒米ももとを正せばこの1人の熱き日本人の手によってまかれたものだと考えると感慨深いものがある。定松氏は言う。

 「100年以上も前に私の同郷の人がオーストラリアに来て、灌漑技術を確立し、日本の米の栽培をスタートし、それが今大きな産業になっている。これは素晴らしいことです。こしひかりは今や世界中いたるところで作られるようになっていますが、種が同じでも同じ米ができるわけではありません。技術面では日本が世界に対しリードしている一方で、効率性ではオーストラリアにも優れた面があります。今後、米文化の真の発展のためにお互いに協力し合うことができればいいと私は思っています」

寿司ロール店の急増で米の需要が高まる

 オーストラリア国内の米の需要を生み出しているのはやはりアジアン・フードだろう。中でもとりわけ多いのはタイ米、いわゆる長粒米であることは数多くのタイ・レストランが乱立していることから伺える。タイという国はアクセスが良く、物価が安いことからオーストラリア人に非常に人気のある渡航先。その影響でタイ・フードも深く浸透している。一方でこのところの寿司ロール専門店の流行もまた米の需要にひと役買っているとJFCの皆川氏は言う。

 「寿司ロールのテイク・アウェイ店や回転寿司などの増加に合わせて米の需要が増えたのは確かです。一番よく使われているのはカリフォルニアの無洗米の中粒米です。国内の多くの外食産業が使っているのがこのタイプです。短粒米は基本的にコストが高いため使っているお店は少ないですが、日本食レストランの中でもお米に特にこだわる店はカリフォルニアの短粒米やオーストラリアのコシヒカリなどを使っています。ただ、これらは無洗米ではなく研がねばないので手間がかかりますね。また、さらにこだわるお店では日本の国産米を一部使っている店もありますが、コストが非常に高いのでごくごくわずかでしょう。日本の米は貿易で保護されているため、非常に高いんです」

 多くの飲食店で使用されている中粒米はもちろん和食とも違和感なく溶け込む一定の品質を保つが、粘り気や甘みなどといった日本人的な観点から厳しく見れば評価を落とさざるを得ない。だが、この点に関してはコストだけの問題ではない難しい面もある。シドニー北部で、米に特別なこだわりを持ち、日本国内最高の特Aクラスの米を個人輸入し、レストランで提供しているコマチ・ナチュラル・フードの内野誠氏は言う。

 「オーストラリア人のお客様に、うちの自慢の米を茶碗によそって出したらねちゃねちゃしていて美味しくないと言われたことがあります。彼らはたれと混ぜて食べるのが習慣なので粘つくのが嫌なのでしょうね」

 皆川氏も「日本人がうまいと感じる米とオーストラリア人が慣れている米は違います。オーストラリア人はいわゆる銀シャリなどの美味しい米の香りが好きではなかったりもしますから」と言う。

 私たち日本人が美味しいと感じる米が必ずしも彼らにとって美味しいものではないというわけだが、その状況も少しずつ変わってきているそうだ。

「生魚も寿司も食べるようになってきているし、寿司などでは日本の米の方が美味しいのではないかと気付き始めているんじゃないでしょうか。これだけマルチ・カルチャーの国なので、受け入れる幅は広いですね」と天野氏は言う。

 定松氏もまた「オーストラリアでもオーガニック・マーケットなどでオーガニックの米が10種類ほど販売されているなどという実績もあるので、やはり意識は変わってきている」と語り、「オーストラリア国内を見渡しても亜熱帯地方のダーウィン、西オーストラリアの北部は日本の米が作れる世界でも有数の米作最適地。今後、オーストラリアが大きな生産地になっていき、オーストラリアの米を使った新しい料理も出てくるなどといった未来もあると私は思います」と続ける。

 和食が世界無形文化遺産になったことも追い風となり、美味しい米文化が浸透してくれる日を心待ちにしたい。

美味しい日本のお米を食べたい

1.美味しい米が食べられるだけではなく価格が手ごろなのも嬉しい(OOH RICE !? ) / 2.東京マートで見つけた人気のイタリア米(東京マート )/ 3.6年連続で最高の「特A」評価を得ている北秋田こまち「朝露のしずく」と自慢の定食メニュー(Komachi Natural Foods)/ 4.「日本のさまざまな地方の米が並んでおり選ぶのが楽しい」と訪れた客も語っていた(東京マート)

 オーストラリア市場への日本の米文化の浸透自体はまだこれからという状況ではあるが、それを目指し本当に美味しい高品質の米にこだわる店も少しずつ増えている。

 定松氏の店では以前より日本の国産米の使用はもちろん、近年レベルを上げてきている台湾などに実際に足を運ぶなどオーナー自ら美味しい米の追及に余念がない。氏は「イタリアの本物のオリーブ・オイル、生ハムが世界で愛されるように、日本の米は必ず日本が世界に誇る戦略農産物の筆頭になると思います。この国の消費者にアピールし味を分かってもらうのは、私たち海外に渡ってきた日本人のミッションであると思います」と語る。

 また、6月上旬には日本で人気の定食チェーン店「やよい軒」を運営する株式会社プレナスが本格的な定食を提供する日本食レストラン「YAYOI」をオープンする。「PLENUS AusT」の藤波俊行氏は熱を込めて語る。「YAYOIでは100%日本産の『金芽ごはん』を使用します。これは、玄米を白米に精米する過程で取り去られてしまっていたビタミンやミネラル、食物繊維などが含まれている層をしっかり残した本当に美味しい国産米です。ディナーの時間帯にはこれを専用のお釜でお客様のテーブル上で炊飯し、炊き立てのお米を召し上がっていただきます。われわれが提供したいのは本物の日本の定食。日本人が美味しく食べている本物の日本食をオーストラリアに広めていきたいと思っています」

 また、とことん本物を追求するという姿勢で注目を集めているのが特Aクラスの米を提供している内野氏のレストラン「Café Chattie’s Komachi」だ。4〜5年ほど前、秋田県から来た友人が持ってきた米を食べ「日本の米はこんなにうまかったのか」と衝撃を受けたことをきっかけにその米を個人輸入するようになったという。

 「最高レベルの米を炊き方にもとことんこだわり提供しています。美味しい米を炊くには研いでいる時の指先の感覚など、経験が必要になってきます。だからほかの人には任せず、僕自身が炊くようにしています」

 厳選された農家から直輸入された米は、炊きたてはもちろん冷めても美味しい。メニューにはハンバーグ定食、鳥南蛮定食、おでん定食など懐かしく、ご飯との相性抜群のメニューが並ぶ。ディナーではご飯のおかわりが自由というのも嬉しい。

 自宅で美味しい米を食べたい人は「東京マート」をはじめとした日系のスーパーの米コーナーに足を運んでほしい。取材当日、「東京マート」に米を買いに来ていた主婦の小林さん、土井さんはこう語ってくれた。

 「ここ3〜4年でいろいろな日本米が入ってくるようになりました。各地方のものがどんどん入ってくるので日本にいるよりもさまざまな種類の米にトライできている気がします。小分けのものもありますし、1つずつ試すのが今は楽しいですね」

 オーストラリアでの生活が長い人の中には久しく日本のお米を食べていないという人も多いだろう。そんな人はぜひ1度改めて意識しながら日本米を食べてみてはいかがだろう。ポテンシャルを心から感じることができるはずだ。



取材協力 <写真から五十音順> 長時間の取材にご協力いただきましてありがとうございます。

天野達氏
(VOX TRADING)

藤波俊行氏
(Plenus AusT)

皆川健司氏
(JFC AUSTRALIA)

内野誠氏
(Komachi Natural Foods)

定松勝義氏(MASUYA INTERNATIONAL、五徳インターナショナル)

JUN PACIFIC CORPORATION

東京マート

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