会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
軟質プラスチック包装削減方法はあるが、決定打はない
軟質プラスチック包装方法としてよくあるのは、包装やプラスチックの使用量を減らし、リサイクルが可能な素材をより多く導入することです。
現在、循環型社会を実現するための最も資源・エネルギー効率の高い方法は、メカニカル・リサイクルです。しかし、メカニカル・リサイクル施設は、軟質プラスチック・フィルムを処理することができません。引っ張り強度が高いため、軟質プラスチック・フィルムが回転する機械に絡まり、装置が目詰まりを起こし、清掃のために中断時間が発生することがあります。
また、それを取り除かなければ、選別スクリーンの効果を低下させ、汚染(例えば、紙のライン
の中に不要なプラスチックが混入する)を引き起こす可能性があります。
軟質フィルム・パッケージの持続可能性に対応するため、企業はケミカル・リサイクルと生分解性材料のメリットを真剣に検討していますが、どちらにも長所と短所があります。
ケミカル・リサイクル市場は開発の初期段階にあり、軟質フィルム・パッケージを処理し、バージン・
プラスチック(再生素材ではないプラスチック)と区別が付かない、食品用に適したポリマーを製造
するための原料を得る技術が幾つか開発されています。製品価値のある素材を生産することで、パッケージを埋立ゴミにする必要がなくなるだけでなく、バージン・プラスチックの使用を減らしな
がら、新たな市場を生み出すことができます。
しかし、ケミカル・リサイクルには選別と除染の作業が必要であり、化石燃料から新しいプラスチックを作るコストと同等の生産コストを達成するには、規模を拡大するためにかなりの時間が掛かると思われます。
また、有機物に分解される包装材も魅力的です。
バイオ・ポリマーは、植物油、でんぷん、タンパク質など、再生可能なバイオマス資源から得るこ
とができます。それらは、化石資源の節約とCO2排出量の削減という2つのメリットをもたらしますが、貴重な農地を必要とします。
SDG2が飢餓ゼロ(Zero Hunger)であるのに、食料ではなくパッケージに農地を割くことがどれほど許容されるでしょうか。重合に掛かるコストが高く、技術の初期段階であるため、生産と抽出に関連するコストが高くなります。必要とされるレベルの包装材を生成し、一貫して供給するためのエコ・システムを確立し、規模を拡大することも、課題となります。 更に、生分解性または堆肥化可能なポリマーは、それぞれ異なる速度で、異なるレベルまで分解されます。パッケージがそれぞれ用途の異なる
複数の素材で構成されている場合、土壌改良材に生分解されるために必要な条件(熱、湿度、微生物)と必要な時間を決定するための厳格なテストが必要となります。
ビジョン実現のために
理想的には、未来の軟質プラスチック・パッケージングは次のような特徴を備えています。
・ サステナブルな包装材は、既存の材料よりもコストが低く、製品の品質を維持し、消費者の目を引くものである。
・ 廃棄物は、クローズド・ループ・システムでリサイクルされるか、堆肥化または生分解されて有害でも汚染物質でもない有機物になるなど、最終的に経済的価値のあるものとなる。
・ 必要な化学物質や材料が十分な量で入手でき、その生産が環境や社会に影響を与えない。
・ 技術は試験済みであり、実現するために必要な複雑な機械や設備に対して適切な投資行う。
・ 新しい事業者が既存事業者と協力し、新しいエコ・システムを形成する。
・ グローバルな規制状況とインフラの一貫として、本プロセスが全ての地域に同一規模で広まる。
・ リサイクルとコンポストは、回収の仕組みが整備され、消費者に定着している。
消費財メーカーは、この理想的な状況を目指して進み始めたばかりであり、単独で、あるいは孤立して問題を解決することはできません。企業、消費者、社会のために長期的な価値を高めるためのステップは以下の通りです。
1. 社内の専門家をそろえる
2. 製品と消費者を見直す
3. 規制を先取りする
4. 健全なエコ・システムを構築するためのパートナー
5. 消費者を巻き込み、解決策に加担させる
現状維持はもはや選択肢ではありませんが、サステナブル・パッケージング技術の初期段階を考えると、この取り組みが経済的に現実的であることが証明されるのは、何年も先のことになるかもしれません。開発の初期段階では、幾つかの技術に投資して、先行技術の技術的な実現可能性と費用対効果を判断することが、最も賢明な方法であると思われます。いったん確立されれば、その技術を迅速に拡大し、必要な材料供給を確保するために、集中的な投資が必要となります。
同業者やバリュー・チェーン全体とのコラボレーションにより、企業は、特に調達におけるリスクとコストを管理し、規模拡大のための需要を促進することができるようになるでしょう。
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年E Yシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている。
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com