ジェット燃料「SAF」っていったい何?

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空のカーボンニュートラル、切り札になるのか!?

マレーシアからシドニーにSAFを運び、シドニー・ボタニー湾の石油施設に入るタンカーと、シドニー空港への着陸体制に入るカンタス機(Photo: Qantas Group)

 温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「脱炭素社会」の実現には、運輸部門の排出削減が課題とされる。ただ、一般的な商業用旅客機のジェット燃料は、陸上の自動車やトラックと比べてはるかに高い単位重量当たりのエネルギー密度が必要となるため、現在の技術では電動化が難しい。巨大な機体を空に浮かせて長距離を移動させるには、リチウムイオン電池のエネルギー密度は圧倒的に足りないのだ。

 その点、持続可能な航空燃料(SAF=サフ)は、燃焼時に排出される二酸化炭素が理論上、相殺されるため、温室効果ガス排出量を大幅に削減できる。廃食油やバイオエタノールなど、光合成によって大気中の二酸化炭素をすでに吸収した植物を原料としているからだ。

 加えて、◇従来のインフラや機体を改造しなくてもそのまま使用できる、◇原産国が偏重している化石燃料と比べて調達先を多様化でき、国産化も可能、といったメリットもある。

 ただ、現状では、従来のジェット燃料と比べてコストが高いという最大のデメリットがある。需要拡大による大量生産、コスト低減が課題となっている。オーストラリアのカンタス航空は23年、国内・海外の企業15社と「SAF連合」を組織し、サプライチェーンの整備や普及に努めている。

オーストラリア産菜種の活用も視野に

 カンタスが今回導入したSAFはマレーシア製の輸入品だが、将来的には国産化を想定している。軌道に乗った場合、同社によると2040年までに国内総生産(GDP)を年間130億豪ドル(約1.2兆円)押し上げる効果が期待できるという。サプライチェーン全体で1万3,000人、精製施設の建設や運営で5,000人の新規雇用も創出すると試算している。

 川上の原材料生産から精製、川下の航空機への給油まで、サプライチェーン全体の整備も視野に入れている。地元ニューサウスウェールズ州は菜種(カノーラ)の主産地だが、その多くは輸出され、海外でバイオ燃料に精製されている。国産の菜種油などを原料としたSAF生産が可能になった場合、経済安全保障の向上にもつながる。

 国産菜種の利用を念頭に、シドニー空港会社のスコット・チャールトン経営責任者(CEO)は声明で次のように指摘した。

「連邦・州政府が産業界と共同で正しい政策を進めれば、ニューサウスウェールズ州はSAF産業の世界的なリーダーとなる可能性がある。地元に雇用を創出して産業を支え、より多くの持続可能なフライトを飛ばせるようになるだろう」

 オーストラリアは産油国であるにもかかわらず、国内の生産コストが高いため製油所を次々と閉鎖した。このため、ガソリンなどの石油製品を輸入に頼らざるを得ないという矛盾した状況に陥っている。SAF国産化をいかに低コストで実現できるかが課題となりそうだ。

■ソース

AUSTRALIA’S LARGEST IMPORT OF SUSTAINABLE AVIATION FUEL LANDS IN SYDNEY(Qantas News Room)

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