政府の喫煙規制は曲がり角に
オーストラリア連邦政府が喫煙者を減らすためにタバコ税を引き上げてきた結果、一般的な愛煙家が毎日気軽に買うことができる金額ではなくなった。このため、闇市場で違法な輸入タバコが普及している。公共放送ABC(電子版)が伝えている。
オーストラリアのタバコ税は現在、紙巻きタバコ1本当たり1.3豪ドル(約137円)。税金が小売価格の約8割を占める。スーパーやタバコ店で販売されている平均的な25本入り紙巻きタバコの価格は、1箱当たり50豪ドル(約5,200円)前後まで上昇した。
オーストラリアの成人の喫煙率は、2000年代初期の約25%から現在は10%まで低下しており、政府の政策は一定の効果を上げた格好だ。
だが、正規のタバコが高くなりすぎたために、アジアや中東から密輸入されたタバコのブラックマーケットが拡大している。ABCによると、こうしたタバコは1箱当たり25豪ドル前後と正規品の半額程度で流通しているという。
「罰金は営業コスト」
ニューサウスウェールズ州南部ベガ。人口約5,000人の小さな町のメインストリートでは、最近になってタバコ専門の販売店が3つオープンし、合計4つになった。しかし、タバコの卸売業者がABCに述べたところによると、「(合法タバコは)違法タバコとの競争に勝てなくなっている」という。
同州では、タバコの販売は登録制で規制が緩いため、タバコ小売店の数は過去4年間に1万4,500店から1万9,500店に増えた。カウンター越しに違法タバコを売る店は少なくないと見られる。オーストラリアで消費されるタバコ製品の4分の1から3分の1程度が、ブラックマーケット経由で流通しているとの推計もあるという。
ニューサウスウェールズ州の法律では、違法タバコ販売は1,100〜5,500豪ドルの罰金刑。だが、州南部コバーゴのパブ経営者はABCにこう証言している。
「(違法タバコは)利幅が大きくて儲かるので、罰金はビジネスのコストとしか見られていない。摘発されれば在庫は没収されるが、罰金を払ってまた営業を続けているんだ」
まさに「イタチごっこ」。ベガのラッセル・フィッツパトリック市長によると、摘発された店は一時的に閉店するが、在庫が十分に確保できれば数日後に営業を再開するという。同市長はABCに「規制が必要だ。免許制にするべきだ」と語っている。
犯罪組織の資金源に
タバコ販売店の免許制は、南オーストラリア州や西オーストラリア州が既に導入。北東部クイーンズランド州も9月から開始する。
一方、ニューサウスウェールズ州と同様に規制が緩い南部ビクトリア州では、過去1年半の間に70軒のタバコ販売店に火炎瓶などが投げ込まれる事件があった。違法タバコの密輸・卸売は犯罪組織の資金源となっており、対立するマフィアが違法タバコの縄張りをめぐって火花を散らしているのだ。
ビクトリア州のディーキン大学のジェームズ・マーティン講師(犯罪学)はABCに「喫煙率が横ばいに推移する一方で、ブラックマーケットが拡大している。(政府のタバコ)政策が機能していない兆しがある」と話している。
日本はタバコを吸える場所をほとんどなくし、空間で喫煙を減らそうとしている。一方、オーストラリアでは野外ならほぼどこでも吸えるものの、高額の税金で規制している。だが、金で喫煙者を締め上げる政策は、違法タバコの浸透によって、曲がり角に差し掛かっているようだ。
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