ユダヤ系富豪リュー会長の投資会社がマイヤー筆頭株主に
凋落が続く老舗百貨店にとって、捲土重来のチャンスになるのか−−。オーストラリアの百貨店大手「マイヤー」が、「ジャスト・ジーンズ」をはじめ5つのブランドをアパレル小売大手プレミア・インベストメンツから取得する計画が明らかになった。マイヤーは事業規模を大幅に拡大し、「オーストラリア・ニュージーランド市場をリードする百貨店・アパレル小売の統合企業になる」(2社の報道発表)というが…。
今回の取引は、プレミアがマイヤーを事実上、吸収合併(M&A)する形と捉えることができる。プレミア株を約40%持つ大株主で、大物実業家のソロモン・リュー氏(プレミア会長)が、糸を引いているようなのだ。
そのシナリオは、隠すことなく報道発表にも書かれている。取引には「株式譲渡履行契約」(シェア・セールス・アンド・インプルメンテーション・アグリーメント=SSIA)が用いられる。この手法を用いて、プレミアはまず取引の対価としてマイヤーが新規発行する8億9,050万株を受け取り、株式の過半の51.5%を握る。プレミアはこの後、マイヤー株7.2対プレミア株1の比率でプレミア株主に配分する。これでプレミアのマイヤー株保有比率はゼロとなる。
ただ、マイヤー株を持つリュー氏自身の投資会社「センチュリー・プラザ」の保有比率は26.8%に拡大する。筆頭株主となったリュー氏は、役員としてマイヤー取締役会に乗り込むというわけだ。
リュー会長とはどんな人物?
リュー氏は、オーストラリアの経済界では古くから有名な富豪の1人。地元紙によると総資産は39億7,000万豪ドルとされる。1945年メルボルンで出生(79歳)。戦時中にポーランドから移民したユダヤ人家庭に生まれた。
10代で女性用ドレスをメルボルンのマイヤーに納品する商売を始めたと言われていて、マイヤーとの付き合いは長い。M&Aを繰り返して事業を拡大するとともに、小売大手「コールズ・マイヤー」(当時=2006年にスーパー大手コールズと百貨店マイヤーを分離)の会長職に就いた。
しかし、90年代に取引の不正疑惑(結果は不起訴)で解任され、物議を醸した。08年にプレミア会長に就任し、ビジネスの表舞台に復帰した。今回、傘寿を目前にして、約30年ぶりにマイヤーの経営に関わる形となる。
プレミア株価は9.9%急騰
取引をめぐる専門家の評価は分かれている。公共放送ABC(電子版)によると、小売コンサルタントのジェフ・ダート氏は「筋が通らない」と述べ、プレミアにとって有利だがマイヤーにとっては悲劇になると予想した。その上で同氏は「古い、くたびれたマイヤーのブランド刷新が必要だ。それをしなければ、もう生き残れないところまで来ている」と語り、低迷している老舗百貨店にとって最後のチャンスだと警鐘を鳴らした。
一方、小売アナリストのケイド・マディガン氏はABCに「2社のビジネスが重なる部分では(規模拡大によって)購買力が高まるだろう」と指摘し、仕入れコスト削減による改善効果が期待できるとの見方を示した。
市場の評価はプレミアに軍配を上げている。29日のオーストラリア証券取引所の株価は、プレミアが前日比で9.9%上昇した一方、マイヤーは1.5%下落した。
■ソース
Myer buys Just Jeans, Jay Jays and Dotti in Premier Investments deal(ABC News)