ロシアへ再輸出の疑いも浮上! 公共放送が調査報道

最先端の軍事技術に欠かせない重要鉱物「ジルコニウム」。3日付の公共放送ABC(電子版)によると、中国企業が西オーストラリア州のジルコニウム生産企業2社の最大株主となり、対中輸出を主導している。それだけではなく、オーストラリア連邦政府はこのうち1つのプロジェクトに優遇融資も行っている。経済安全保障の観点から矛盾はないのか?
ジルコニウム(元素記号Zr)は銀白色の金属。天然資源としては、ジルコン(ケイ酸ジルコニウム=ZrSiO4)の形で採掘、加工される。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、埋蔵量はオーストラリア(67%)、南アフリカ(10%)と2国に偏在しており、生産量もオーストラリアが34%、南アが23%を占める。
中国は多くのレアアースや重要金属の供給を握っているが、ジルコニウムは埋蔵量が少なく輸入に頼っている。このため、中国は西オーストラリア州の資源企業2社に触手を伸ばしたと見られる。
1つは西オーストラリア州でジルコニウムを採掘する「イメージ・リゾーシズ」。オーストラリア外国投資審査会(FIRB)は2015年、中国の「LBグループ」が最大株主となることを許可した。ABCによると、LBグループは中国政府の支援を受けており、イメージ・リゾーシズの全生産量を中国に輸出しているという。
2つ目は、同じく西オーストラリア州でジルコニウムを生産する「サンダーバード鉱山」だ。FIRBは20年、別の中国企業が株式の50%を取得することを承認した。同鉱山も全量を中国に輸出しているという。加えて、連邦政府は22年、「北部オーストラリア基盤施設基金」を通して、1億6,000万豪ドル(約160億円)の「ソフトローン」(貸付条件の緩い低利融資)を行い、同鉱山の操業開始を資金面で後押ししている。
国産重要鉱物の開発は急務だが…
ジルコニウムは様々な用途があるが、原子炉などの部材にも用いられる。ABCによると、中国の極超音速ミサイルや核開発計画にとっても不可欠とされる。それだけに、オーストラリア政府の承認や融資を受けた国産ジルコニウムが、結果的に中国軍の技術革新に貢献した可能性は否定できないというのだ。
豪米政府は10月、オーストラリアのレアアースや重要鉱物の開発プロジェクトに最低10億米ドルの資金を共同で投じる枠組みに署名したばかり。このうち2億米ドルを投じる西オーストラリア州のガリウム開発事業は日本の双日も参画しており、日米豪の共同プロジェクトとなる。
レアアースや重要鉱物のサプライチェーンを支配する中国に対抗して、西側自由主義陣営は連携を深めているが、その一角を占めるオーストラリアが、ジルコニウムの対中輸出で重要な役割を果たしているというわけだ。ABCは次のように警鐘を鳴らしている。
「オーストラリアは中国の軍拡に欠かせない原材料を供給すると同時に、レアアースと重要鉱物への中国の支配を崩す枠組みに米国と署名している」
ウクライナ攻撃のミサイルに転用!?
さらに驚くべき疑惑も浮上している。ABCの調査によると、中国に輸出されるジルコニウムがロシアに再輸出されている可能性がある。中国からロシアへのジルコニウム輸出額はロシアによるウクライナ侵攻以来、4倍以上に急増した。
中国からロシアに輸入されるジルコニウムの最大の顧客は、ロシア政府系原子力企業「ロスアトム」の子会社「CMP」。この会社は、核燃料棒の外壁や、極超音速ミサイル用の合金を製造している。ロシアは過去3年間、新型の極超音速ミサイルでウクライナを攻撃してきた。その1つは「ツィルコン」(ジルコン)だった…。
ABCは11月3日午後8時30分(オーストラリア東部標準時)から、時事番組「Four Corners」で、オーストラリア産ジルコニウムの対中輸出と対ロシア再輸出の疑惑について、地上波とネットで放映する。ネット配信のURLは下記まで。
■ABC iview Four Corners
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