「資源大国」オーストラリアにエネルギー危機のなぜ? ガソリンが1カ月で底をつく「悪夢のシナリオ」とは

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成長率は約3年ぶり高水準も、イラン攻撃で景気に暗雲

 米・イスラエルによるイラン攻撃を受けた海運の要衝・ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、原油の指標価格が急上昇している。戦争が長期化した場合、オーストラリア経済はエネルギー価格の高騰が物価上昇を加速させる「悪いインフレ」の瀬戸際に立たされそうだ。そればかりか、世界有数の資源輸出大国であるにもかかわらず、ガソリンなどの石油製品が枯渇する最悪のシナリオも100%ないとは言い切れない。

原油と液化天然ガス(LNG)の世界流通量のそれぞれ2割が通るとされるホルムズ海峡。イラン攻撃を受けて事実上、封鎖された状態にある

GDPは事前予想を大幅に上回る

 足元の景気は絶好調で、制限速度を上回りつつある。オーストラリア統計局(ABS)が4日発表した国民勘定統計によると、2025年10-12月期の実質国内総生産(GDP)の成長率は前年同期比で2.6%増となった。7-9月期の2.1%増から加速し、コロナ禍後の経済再開期の2023年1-3月期(2.8%増)以降で最も高い水準を記録した。前期比の伸びは0.8%増だった(7-9月期は0.5%増)。

 GDPの過半を占める家計支出(個人消費)は前年同期比2.4%増、前期比0.3%増と好調だった。ぜいたく品・サービスの消費がけん引している。11月のブラックフライデー商戦の活況や、大規模なスポーツ試合やコンサートが相次いだことから、裁量支出(非必需品・サービスへの支出)は前期比で0.4%伸びた。非裁量支出(生活必需品・サービスへの支出)は前期比0.2%増だった。

 家計の健全性を示す「収入に占める貯蓄の割合」は6.9%と7-9月期の6.1%から上昇し、22年7-9月期以降で最高を記録した。国民1人当たりのGDP成長率は、前年同期比0.9%増と4-6月期の0.1%増、7-9月期の0.4%増からギアを上げている。

ガソリン価格上昇で金利はどうなる?

 10-12月期GDPは事前の市場予測(前年同期比2.2%=米投資情報サイト「インベスティング・ドット・コム」)を大幅に上回り、景気の力強さが確認された。このため、中央銀行の豪準備銀(RBA)が近く、追加利上げを行うとの観測がますます高まっている。ロイター通信によると、市場が織り込む利上げ確率は、次の3月16-17日の会合が30%、5月4-5日の会合が100%となっている。

 ただ、先のイラン攻撃の影響で、世界に流通する原油や液化天然ガス(LNG)のそれぞれ約2割が通るとされるホルムズ海峡では現在、タンカーやLNG運搬船などの運航がストップしている(下記画像参照)。このため、原油の主な国際指標価格が急上昇。オーストラリア経済の先行きにも黄信号が点滅している。

世界中の船舶の現在位置や航跡などを追跡できるウェブサイト「マリントラフィック」によると、オーストラリア時間5日午後の時点で、ホルムズ海峡を通過中の船舶はほとんどない

 ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて、オーストラリア国内のガソリン価格が「今後数週間以内に1リットル当たり40豪セント上昇する」(公共放送ABC)との予測も出ている。ガソリン代の高騰に備えて、オーストラリア各地のガソリンスタンドでは今週、給油待ちのクルマで長い列ができている。

 エネルギー価格の高騰は、ただでも再燃している物価上昇をさらに勢い付かせ、需要を伴わない「悪いインフレ」を招きかねない。オーストラリアの大都市郊外や地方では、移動手段をクルマに依存している家庭も多い。家計のガソリン代負担が増えれば、その分、消費に回す資金が減り、景気悪化とインフレが同時に進行する「スタグフレーション」の恐れも浮上する。RBAは金融政策の難しい舵取りを強いられている。

液体燃料の9割を輸入って本当!?

 オーストラリアは資源・エネルギーの輸出大国。主力の天然ガスや石炭と比べて生産量は比較的少ないが、産油国でもある。ところが、国内の製造コストが高いことから製油所を次々と閉鎖したため、ガソリンや軽油、ジェット燃料などの液体燃料の約90%は、シンガポールや韓国、日本など主にアジア諸国の製油所からの輸入に頼っている。国内の製油所は2カ所を残すのみで、増産の余地は大きくない。

 加えて、石油製品の備蓄日数(2025年9月時点=連邦気候変動・エネルギー・環境・水資源省)は、おおむね1カ月前後にとどまる(グラフ参照)。国家備蓄と民間備蓄など合計254日分(26年2月=資源エネルギー庁)の石油備蓄がある日本と比べて圧倒的に少なく、国際エネルギー機関(IEA)の義務日数「90日分」も満たしていないのが現状だ。

グラフ作成:©️守屋太郎

 もちろんタンカーがホルムズ海峡を通れなくなったからといって、すぐに石油製品の輸入が止まり、備蓄が枯渇するわけではない。同盟国の米国に委託している「戦略石油備蓄」を含めた国外備蓄や輸送中の在庫も含めれば、仮に輸入が完全に止まったとしても2カ月程度は在庫が持つとの見方がある。

 イラン攻撃はまだ始まったばかり。仮に戦闘が短期間で終了すれば、「液体燃料危機」は杞憂に終わるかもしれない。ただ、ホルムズ海峡封鎖が長引いた場合、オーストラリアへの燃料供給に支障が出る可能性がゼロとは言い切れない。供給が滞れば、自分のクルマに給油できなくなるだけではなく、スーパーの生活必需品を運ぶトラックなどの物流、企業のサプライチェーンにも支障が出るかもしれない。

 パニックは禁物だが、オーストラリアに住む私たちの暮らしに打撃を与えかねない問題だけに、ガソリン価格だけではなく供給の行方も冷静に見守りたい。

◼️出典資料

Australian economy grew 0.8% in the December quarter, Media Release(ABS)

Australian National Accounts: National Income, Expenditure and Product(ABS)

Petrol prices surge across Australia, long queues at fuel stations amid Middle East war(ABC News)

RBA governor says ‘too early to say’ how Middle East war will impact Australia’s economy(ABC News)

Marine Traffic

Minimum stockholding obligation (MSO) for liquid fuels: statistics(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water)

LIQUID FUEL SECURITY – ACTIONS TO SUPPORT AUSTRALIA’S FUEL SECURITY(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water)

石油備蓄の現況 令和8年2月(資源エネルギー庁)

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