BUSINESS REVIEW
会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。
鉱業・金属セクターのビジネス・リスク&オポチュニティー・トップ10
2021(後編)
先月に引き続き、EYが鉱業・金属セクターで実施した調査結果をまとめた「鉱業・金属セクターのビジネス・リスク&オポチュニティー・トップ10-2021」レポートの概要(後編)をご紹介します。
第6位 資本アジェンダ(Capitalagenda)
COVID-19による危機を通して、鉱業企業はキャッシュをしっかり管理し、コア資産の運用に優先順位を付け、重要ではない設備投資を削減することで、流動資産の効率化を図りました。しかし、厳格な投資策で鉱業企業が不安定な情勢を切り抜けながら、更に思い切って投資を決断しリスクを増やすことで、中長期的にはリターンを増やすことができます。これを達成するためのアプローチは、過去に行われたものとは根本的に違うものになるでしょう。新たなチャンスを取り逃さないよう、リスクを取る自社の意欲と資産分配の方法について見極めることが必要になります。
第7位 ワークフォース(Workforce)
昨年のレポートで第2位だったワークフォースが今年は第7位となりました。これは、重要性が下がったわけではなく、鉱業企業が以前と比べこの課題への対応に自信を持てるようになったからです。実際、パンデミックの期間、労働者の安全にコミットし、健康を守り現場で感染リスクを減らす取り組みをいち早く行いました。
今では企業も、急速に進んでいるリモート・ワークやバーチャル・チームの導入は、チームの安全、生産性、集中できる環境を確保することで、この危機が去った後も付加価値を生む可能性がある、と認識し始めています。パンデミックをきっかけに鉱業・金属セクターでは社内文化に変化が起こり、持続可能なワークフォースへの変革に向け、新たな機会を生み出しています。アンケートを行った鉱業・金属セクターのエグゼクティブの約80%が、COVID-19の影響により自社が変化に対してよりオープンになるであろう、と答えています。
第8位 ボラティリティー(Volatility)
ボラティリティーは、今年初めてTOP10に加わったもので、グローバル・コモデティー市場へのCOVID-19の影響が表れています。パンデミックにより短期的にサプライ・チェーンが大きく破壊され、需要についても継続的に不安定な状態となりました。
中国が素早く経済回復を遂げたことで、鉄鉱石の需要は堅調で、金と銀は安全資産としての地位を保ちましたが、将来ディスラプションが起きれば、この変化は速度を増すでしょう。鉱業企業は、大幅な商品価格変動からの回復、新たなコモデティー台頭の脅威、変化する顧客の需要に対処する時には、持続可能な長期的決断ができなければなりません。
第9位 デジタル及びデータの最適化(Digitalanddataoptimization)
デジタル及びデータの最適化は、昨年は第3位のリスクでしたが、今回は第9位で、鉱業企業によるデジタルへの自信が広がっていることが表れています。これは、重要性の低いリスク(あるいはチャンス)と捉えられているからではなく、むしろデジタル関連の問題の多くは大手鉱業企業にとっては「通常のビジネス」の一環となっているからだと考えられます。多くの企業はデジタル化計画において2年目、3年目を迎えており、自社のデジタル・トランスフォーメーションが複雑になるほど、会社に与えるその価値が更に明確になっています。
COVID-19の影響により、事業継続を可能にするさまざまなテクノロジー(自動化、AI、ブロックチェーンなど)の恩恵が浮き彫りになりました。既にデジタル化への投資を進めていた企業は、今その投資から利益を享受し始めており、パンデミック後も競争で優位に立つでしょう。
第10位 イノベーション(Innovation)
COVID-19への対応で鉱業・金属セクターが急速な事業転換を強いられた後、自社のイノベーション計画の範囲と有効性を高めるチャンスが広がりました。COVID-19の影響に対応するため、バリュー・チェーン全体でイノベーションやソリューションが増え、多くのイノベーション・プロジェクトはいち早く実用化されました。
またCOVID-19は、鉱業・金属企業同士のコラボレーションを促進し、クリエイティブで迅速な解決策を生み出しました。今、このコラボレーションをもっと大きなものにするチャンスを目の前にしています。例えば、新製品、新技術を共同で開発する、単に機器の販売数を増やすのではなく、イノベーションから得られるインセンティブや恩恵を共有する仕組みを開発する、ビジネス・システムやビジネス手法を抜本的に変える、などがあります。これにより、各企業にも、業界全体にも、コミュニティーにも、著しい短期的、長期的価値が生まれます。
まとめ
2021年は、COVID-19により生じた不確実性、不安定な商品価格、地政学的緊迫の影響を受け、順位に変動がありました。「操業許可」「ディスラプション」「環境、安全、ガバナンス」は全て、パンデミックで社会的責任に対するステークホルダーの期待が高まったことを受け、以前より中心的な問題になりつつあります。COVID-19によるディスラプションの嵐は、長い間停滞していた同セクターの構造を変化させ、将来に向けて鉱業・金属セクターを再構築していくトランスフォーメーション・プロジェクトを加速させる機会を作り出したのだと、私たちは考えます。
EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター 篠崎純也
オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている
Tel: (02)9248-5739
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